(イ)帯磁率測定
コアの目視観察では深度26.05〜26.10mに軽石が含まれ、深度35.00〜35.81mに灰白色の火山灰を確認した他は明瞭な火山灰層を認定できなかった。
吉川他(1993)では、肉眼で認定できない火山灰を帯磁率測定により抽出できる可能性が指摘されている。帯磁率は堆積物中の磁性鉱物の量を測定することから、高帯磁率の全てが火山灰層を意味するものではないが肉眼で認定できない泥層や泥炭層中の火山灰を抽出する方法としては有効と考えられる。
そこで、深度15m〜26mの砂層部分を除いて、2cm毎に帯磁率を測定した。帯磁率測定結果を図3−4−5に、測定データを巻末試料に示した。
帯磁率測定結果は、後背地が火山地域のためバックグラウンドが高いことを除けば、コア観察の層相と良い一致を示す。その中で、細粒の泥層や泥炭層中にも高帯磁率のピークが認められ、肉眼では識別できない火山灰層の存在を示している可能性がある。これらの高帯磁率の試料を中心に火山灰分析を行う試料の選定を行った。
(ロ)火山灰分析結果
帯磁率測定結果による磁性鉱物の多い層準とコア観察により認定した火山灰層をあわせて40試料について、火山灰分析(鉱物組成分析、銃鉱物組成分析、火山ガラス形態分類、火山ガラス屈折率測定)を実施した。火山灰分析の結果を表3−4−1−1、表3−4−1−2に示す。
(ハ)火山灰の対比
表3−4−1−1、表3−4−1−2に示した火山灰分析の結果をもとに、火山灰の対比について検討した。火山灰層の認定は、後背地が火山岩地帯であるために重鉱物の特徴は考慮せず、火山ガラスの含有率から判断した。分析試料の中で確実に火山灰層であると考えられるのは、No.2(深度4.18m)、No.10−13(11.68〜12.00m)、No.22(14.26m)、No.23(26.04m)、39(35.22m)である。このうち、広域テフラとの対比可能なものはNo.10−13(11.68〜12.00m)とNo.39(35.22m)である。また、これら以外のものについては雲仙起源の可能性もあるが、対応するテフラに関して詳細は不明である。
1)No.2(深度4.18m)
No.2(−4.18m)は、火山ガラス、長石を主体とし、極少量の石英および重鉱物を含む。火山ガラスは中間型(Cb)を主とする。屈折率はn=1.510−1.520である。重鉱物は破片状の酸化角閃石と黒雲母を含む。
火山ガラスが大量に含まれることから火山灰であると考えられるが、給源に関しては不明である。
2)No.10〜No.13(深度11.68〜12.00m)
火山灰分析の結果からは、No.10−15(11.68〜12.36m)がアカホヤ火山灰の可能性が高いと考えられる。
No.10〜No.13(11.68〜12.00m)までは、火山ガラスはいずれも扁平型(Ha、Hb)〜中間型(Ca)の形態をもっており、部分的に褐色を帯びるものもある。屈折率はn=1.510−1.520の間に良く集中する。また、重鉱物組成は斜方輝石、単斜輝石を主体とし、角閃石がそれに続くという点で極めて似た特徴を持っている。
一方、No.14(12.20m)、15(12.36m)は火山ガラスは中間型(Ca)を主体とし、扁平型(Hb)がそれに続く。屈折率は両者ともn=1.499−1.515のレンジにあるが、n=1.499−1.503とn=1.510−1.514付近に2つのモードを持つという特徴で一致している。また、重鉱物組成は両者とも角閃石を主体とし、斜方輝石、単斜輝石がそれに続くといった組成を持っている。
吉川・井内(1991、1993)によれば、K−Ah火山灰の特徴は、火山ガラスは扁平型および中間型を主体とし、淡褐色のガラスを含み、屈折率はn=1.508−1.515に良く集中する。重鉱物組成は斜方輝石、単斜輝石を主体とし、角閃石は僅かに含まれる。また、町田・新井(1992)ではK−Ah火山灰には屈折率がn=1.520に達する高屈折率のものがわずかに含まれるとされている。
以上のK−Ah火山灰の特徴はNo.10−13(11.68〜12.00m)の分析値に非常に調和的であり、No.10−13はK−Ah火山灰に対比可能であると考えられる。なお、No.14、15(12.20m、12.36m)についてはK−Ah火山灰に他の火山灰が混入したものと考えられるが、全く別の火山灰である可能性もある。
3)No.22(深度14.26m)
No.22(14.26m)の記載岩石学特徴は、大量の火山ガラスを主体とし、少量の長石および極少量の重鉱物、石英を含む。火山ガラスは中間型(Ca) 、扁平型(Hb)を主体とする。屈折率はn=1.497−1.501である。重鉱物は斜方輝石、角閃石を多く含む。角閃石は柱状のものが多く、緑色を呈する.また、破片状の酸化角閃石を含む。斜方輝石は柱状〜破片状で淡緑色を呈する。
大量の火山ガラスを含むこと、火山ガラスの屈折率が1.497−1.501であること、放射性炭素年代測定が−15.00で18,430100yBPであることからAT火山灰である可能性があるが、断定できない。
4)No.23(深度26.04m)
深度26.04m付近に含まれる軽石であり、火山ガラスは1.521−1.524と異常に高い屈折率を示す。その特徴からAso−3火山灰(約100ka)の可能性があるが、正確な同定には化学組成分析等を行う必要がある。また、その産状からこの軽石が降下堆積物でなく漂着して堆積したと考えられることから、対比には慎重を要する。現状ではAso−3火山灰の可能性を指摘するに留める。
5)No.39(深度35.22m)
本火山灰は唐比低地における松岡他のボーリング結果から阿多鳥浜火山灰が報告された層準に近い位置から産する。コア観察では深度35.00〜−35.30m(分析試料ではNo.36〜39)が火山灰ないし凝灰質の層相を示すがNo.39(35.22m)のみ大量の火山ガラスを産出し、それ以外の層準は火山ガラスをほとんど含まない。
No.39(35.22m)の記載岩石学的特徴は、火山ガラスの形態は中間型(Ca)を主体とし、扁平型(Ha、Hb)を多く含む。屈折率はn=1.499−1.507(1.501−1.504)である。重鉱物は大量の角閃石を主体とし、斜方輝石を多く含む。
吉川・井内(1991、1993)によれば、阿多鳥浜火山灰の特徴は、ガラスの形態は扁平型および中間型主体で、屈折率はn=1.497−1.502(1.500−1.501)であり、重鉱物組成は角閃石主体で少量の斜方輝石、黒雲母、単斜輝石を伴うとされている。
この分析値に比べ、No.39では屈折率がやや高く出ているものの、その他の点では良く一致しており、産出層準からも阿多鳥浜火山灰に対比される可能性が高い。