(5)田代原東方の国道法面

田代原東方に位置する、国見町南部、舞岳西方の国道389号線の付け替え工事に伴う法面に断層露頭が出現した。この地点は千々石断層のリニアメント位置にあたる。周辺のルートマップを図3−3−12に、露頭写真と露頭スケッチを図3−3−13−1図3−3−13−2に示す。

本断層露頭周辺には、安山岩溶岩を覆う岩屑なだれ堆積物が露出している。リニアメントの方向(N75E)と若干斜交する垂直に近い境界面(走向N74W)を境にして、安山岩溶岩の上面が南側で10m以上低下している。上がり側の安山岩溶岩および岩屑なだれ堆積物と、落ち側の岩屑なだれ堆積物およびローム層(厚さ約3m)の境界は不規則で、明瞭なせん断面としては観察されない。

落ち側の岩屑なだれ堆積物の上位のローム層には炭化木片を含む層準が挟在されており、その構造からローム層が岩屑なだれ堆積物の崖にアバットしているようにも見える。

断層の上がり側の尾根上でオーガーボーリングを実施したが、地表下40cmで地山に達した。すなわち、上がり側には落ち側のローム層に対比できる地層はほとんど分布していない。

ローム層について火山灰分析を行ったところ、5層準から火山ガラスが産出した。最下部にはAT火山灰由来の火山ガラスが混入しており、下端から50cm以上の層準にはK−Ah(アカホヤ)火山灰が混入している。最上部の20〜30cm間ではK−Ah火山灰は少量となる(図3−3−14)。

また、ローム層の上部(ローム層上面より90〜120cm下)付近には炭化木片が多く含まれる。この炭化木片の放射性炭素年代測定値は暦年でAD1427〜1484と非常に新しい年代を示した(試料CK1−A)。

この露頭での断層の落ち側と考えられる部分で、断層活動による変位がどの層準まで及んでいるかについては更に検討する必要があるが、ここでは、このような地質分布が基本的に断層活動によるものと考えておく。

その場合、この断層はK−Ah火山灰降下後に活動した可能性があると考えられる。また、炭化木片の時代が15世紀であることから、15世紀以降に断層活動があったと考えられる。雲仙地域で15世紀以降の地震としては1792年の地震が対応しており、この地震で断層が活動した可能性も考えられる。ただし、地震動による土砂崩れ等により、当時存在した断層崖の落ち側に、炭化木を含む地層が流入堆積した可能性も否定できない。

また、この層準に炭化木片が大量に含まれていることは、15世紀ごろにこの付近で大規模な山火事があった可能性を示唆する。対応する事象としては、1663年の古焼溶岩や1792年の新焼溶岩の噴出がある。以上のようなこの露頭の解釈については、古文書等の調査藻含め、さらに明確にする必要がある。