また、山地部では、山麓斜面や山間盆地地形の表層(特に地形的凹部)には炭素同位体法による年代測定が可能な腐植土層が厚く堆積している可能性もある。また、このような腐植土層の中には、時代決定に有効な(広域)火山灰が保存されていることも期待される。
地形地質調査では、調査地のこのような特徴を踏まえ、文献調査でとりまとめた火山の形成史と、変位基準となりうる地形面や地層の年代や分布の資料を用いて、空中写真判読と地表踏査(概査・精査)により、地形面や地層の区分・対比を行い、それをもとに断層変位地形やリニアメントを抽出・評価した。
@ 空中写真判読および地形解析
空中写真判読では、縮尺 1/2万〜1/4万程度の空中写真を用いて、次のような作業を実施した。
・面の比高・勾配・開析度などにもとづく段丘面・扇状地面の分類。
・火山地形の判読による火山山麓斜面の区分。
・火山灰層を挟む腐植土層などの分布が期待される凹地などの微地形
・断層変位地形と誤認する可能性のある地すべり、崩壊地形
・上の作業をふまえた断層変位地形、リニアメントの抽出、分類
変位地形やリニアメント判読の基準は、原則として活断層研究会(1991)に従う。ただし、断層変位地形と火山地形の区別は困難な場合が少なくないので、特にこの点に留意して作業を進めた。
調査結果は、縮尺1/25,000の地形区分図、リニアメント図としてまとめ、変位基準面の年代と変位地形の分布から、断層の活動についての概略の評価を行った。
A 地表踏査(概査)
空中写真判読で認められた主要な断層付近について現地調査を行った。踏査範囲は、空中写真判読結果をもとに、文献調査結果も考慮して立案し、委員会で検討いただいた上で決定した。断層の活動性に関する情報(特に最新活動に関する情報)を得ることが可能な地域を選定し、次のような点に留意して実施した。
・火山地形・火山層序の確認。
・断層変位地形の認定及びその明瞭さ(地形の新旧)の評価。
・断層変位地形と断層露頭の関係。
・分布地質。特に変位基準面となりうる腐植土層や火山灰層の分布。
・断層周辺の地質構造と断層の関係。
・必要に応じて年代測定に有効な試料を採取し、分析に供した。
特に、火山灰層については、他の年代測定資料とあわせて調査地内における標準的な層序の設定を試みた。
調査結果は、火山灰や放射性炭素年代測定等の試料分析結果を加えて、縮尺1/25,000のストリップマップや地質図、断層近傍の地形・地質断面図、縮尺1/10,000の変位量分布図、縮尺1/5,000のルートマップ、重要露頭の柱状図・スケッチや写真等としてまとめた。
B 地表踏査(精査)
地表踏査(概査)の結論を得た段階で、その結果と他の調査結果とあわせて、次年度の詳細調査候補地点を含む地表踏査(精査)の候補範囲を選定し、委員会に報告する。その際には、現地条件のために、物理探査・ボーリング・トレンチ調査が困難であっても、断層評価上重要で、詳細な地形地質調査によってデータを得る意義のある地域も含めた。この報告を踏まえた委員会の御指示・御助言に基づいて調査範囲を決定し、詳細な地形・地質調査を行った。
この調査においては、2)で述べた各留意点について、さらに慎重・詳細な調査・分析を行う。特に、地形測量などによって断層の変位量を正確に把握する。また、必要に応じ、露頭剥ぎ・オーガーボーリングなどによって、地層を綿密に追跡・対比した。このような作業によって、対象とした断層の活動性について、より詳細な判断ができる情報を得るように努めた。
また、断層および周辺の地質構造について、三次元的に把握して、次年度の詳細調査における物理探査測線やボーリング地点の配置・トレンチの向き、大きさ、形状等が的確に設定できるようなデータを得た。
調査の結果は、火山灰や微化石、放射性炭素年代測定等の試料分析結果を加えた縮尺1/5,000の地形分類図や地質図、断層近傍の地形・地質断面図、縮尺1/500〜1/200のルートマップ、航空写真測量による地形図、重要露頭の柱状図・スケッチや写真などにまとめた。
C 試料分析
地層の対比や年代決定のために、露頭などから試料を採取して実施した。
・火山灰分析1)
試料中に含まれる火山灰ないし火山ガラスを抽出し、鉱物組成・ガラスの形態や屈折率を検討し、既往文献資料を参照して、供給源および噴出年代を特定した。
・放射性炭素年代測定2)
試料の泥炭や炭化木片について放射性炭素年代測定を行った。採取時には、現在周辺にある炭素の影響を極力防ぐ方法を用いた。