(2)地形区分

1) 地形区分の概要

本調査地域の地形区分は、表2−2−2−2の区分で実施した。

表2−2−2−2 地形区分

調査地域の地形は大局的に、以下の特徴をもつ。

調査地域は、西の両白山地と東の飛騨高地に囲まれた地域である。調査地域周辺部は北の大日ヶ岳(1,708m)、東の鷲ヶ岳(1,671m)を最高峰に、北から南へ標高が低くなり、調査地域内は約1,000mから400mの山地である。地区別にみると、長良川右岸の山地は標高約800〜600mで、長良川に合流する谷はこれとほぼ平行な北西−南東方向のものが多い。左岸地域はこれよりやや低く、前谷付近で約700m、那留付近より南では約600mから400mの山地である。谷は長良川とほぼ垂直な北東−南西方向に発達しているものが多い。

長良川は調査地域を北から南に向かって縦貫し、途中白鳥町前谷地区で前谷川、白鳥地区で牛道川、大和村徳永地区で栗巣川、大和村島地区で落都谷川、そして八幡町で吉田川と合流し、その間に段丘や谷底平野を形成している。

段丘は大きく高位・中位・低位の三面に区分できる。段丘面は、高位段丘面をTH面とし、中位段丘面をTM1〜TM3の3面、低位段丘面はTL1〜TL4の4面に区分した。現河床と各段丘面の比高はそれぞれ以下の通りである。低位段丘面はTL4が5m、TL3が7〜8m、TL2が約10m、TL1が約12〜13m、中位段丘面はTM3が約30m、TM2が約35m、TM1が約50m、高位段丘面THは約100mの比高がある。段丘面状には旧河道が分布する。段丘崖は傾斜によって緩傾斜と急傾斜に2区分できる。

調査地域の扇状地は、二日町と小間見でみられ谷底平野に面し、扇端の幅約300〜500mの範囲に分布する。

開析扇状地は、いくつかの扇状地が重なり、かつての扇頂からガリーが発達している。向小駄良や落部の山腹から谷底平野にかけて分布するが、場皿西部の山腹にある幅約2kmに渡るものが最大である。

沖積錐は調査範囲内にある長良川支流のほとんどの流域に分布している。

谷底平野や旧河道は、長良川や牛道川沿いで幅2km程度の狭い地域に形成されている。段丘面上及び谷底平野には旧河道が発達しているが、この微地形に変動があった様子は認められない。

郡上八幡の西側付近には、鞍部が約2〜3kmにわたって連続し、越佐から福田にかかる地域では尾根・谷の屈曲が分布する。これら一連の地形は断層の存在を示唆していると考えられ、活断層研究会(1991)に示されている八幡断層と考えられる。

西ヶ平や二日町付近には、鞍部が約2〜3kmにわたって連続し、干田野や向小駄良では三角末端面が確認される。これら一連の地形は断層の存在を示唆していると考えられ、活断層研究会(1991)に示されている二日町断層と考えられる。ただし、向小駄良では周辺地形との関連性が少ないため、積極的な断層の存在を示す根拠とは考えにくい。

白鳥町那留に分布するTM2面とTM3面の間に浸食谷があり、大和町大間見付近にある鞍部の連続と連続している。これは活断層研究会(1991)に示されている那留断層と考えられる。

2) 各地域の地形的な特徴

@白鳥町前谷〜長滝

ほとんどが山地であるが、前谷川に沿う狭い地域にはTH、TM、TL面が分布する。

・干田野付近の山腹で、標高590m付近に分布するTH面は段々畑や池などがある凹凸の多い面である。この面は三つの谷に取り囲まれているが、その間に大規模な地すべり地形が存在する。

・TL面は、前谷川流域の幅約2kmの地域に細長く分布する。河川による浸食が激しく、段丘崖が発達している。

・前谷川は蛇行河川で、攻撃斜面側に支流が合流し、幅約100〜200mの沖積錐が分布している。

・阿弥陀ヶ滝の北側に崩壊地形が分布する。また、ほぼ南北方向に鞍部が2条連続している。

A白鳥町長滝〜向小駄良

長良川流域右岸の低地側で、幅の狭い谷底平野と扇状地、沖積錐が分布する。

・扇状地は高平スキー場、白鳥スキー場のような緩斜面を形成する。白鳥スキー場は堆積面が浸食され、浅い谷状の地形が発達している。長滝、向小駄良の開析された扇状地には深い谷やガリーが刻まれ、その谷の出口にはさらに沖積錐や崖錐が分布する。

・向小駄良川出口付近には、TM3面が幅の狭い地域に分布する。

B白鳥町向小駄良〜落部宮前

長良川が大きく西に蛇行する地域から落部川の源流にかかる山間部である。

・越佐、万場西部の谷は屈曲していずれも左横ずれのセンスがある。越佐や乙原付近の谷沿いには、TL2面、TL3面が幅の狭い地域に分布する。

・谷底平野は落部川沿いの約150m幅の狭い地域に分布する。

・谷のずれや尾根の屈曲、鞍部は、油坂スキー場付近と万場西部の北西−南東方向にそれぞれ約3kmにわたって連続し、乙原付近には三角末端面も分布する。

C大和村落部宮前〜大和町福田

落部川より西側には広い扇状地と段丘が分布し、黒田付近には地すべり地形がみられる。山間部では尾根・谷の屈曲(左横ずれセンス)が顕著である。東側は直線的な急斜面となっている。

・宮前付近には落部川の支流が合流する箇所が多く、この支流に沿って幅200m程 度の扇状地が山腹斜面から落部川にかけて2〜3箇所分布する。段丘面はこの扇状地と扇状地の間、または谷と谷の間に形成されており、TL2面は栃尾付近に、TL3面は下流の洞口付近に分布している。扇状地は開析がすすんでおり、ガリーや谷が認められる。

・大和町黒田付近に、幅約300m、長さ約1kmの地すべり地形がある。洞口付近の支流沿いにも小規模な地すべり地形が見られる。

・宮前落部付近と島西方の標高600m付近の山腹に鞍部がそれぞれ約3kmにわたって連続する。島地区には谷の屈曲や三角末端面もみられる。

D大和町福田〜八幡町有坂竜牙

鞍部が山腹に北西−南東方向に連続している山地である。

・場皿付近西側の山腹に、鞍部が北西−南東方向に約2.5km連続している。この遷 緩線から東側の斜面下側には開析された扇状地がみられ、ガリーによって分断されている。

・有坂の南西方向にある山腹斜面にも同じ方向に鞍部が連続し、尾根・谷の屈曲が認められる。

E八幡町有坂竜牙〜安久田

長良川が蛇行している地域で、流れに沿ってTL2面、TL3面が細長く分布し、渓流の出口には沖積錐が形成されている。

・郡上八幡の市街地は吉田川の谷底平野とTL3面、TL2面上に立地している。

・有坂西側の山地には左横ずれセンスの谷・尾根の屈曲がみられ、鞍部が連続している。

F白鳥町為真〜那留〜中津屋

長良川と牛道川の合流部で、鷲ヶ岳に源を発する牛道川によって形成された段丘面、谷底平野が川沿いの狭い範囲に発達している。

・西坂付近のTH面は南西方向の傾斜をもつが、那留から中津屋にかけてのTH面は北方向に傾斜している。いずれも中位段丘面より20〜50m高い所に位置している。

・中位段丘面は那留付近では西から東へTM1面、TM2面、TM3面の順に低くなる。TH面とは緩傾斜の段丘崖で区切られ、TM1面とTM2面、TM2面とTM3面の間には谷が形成されている。TM1面とTM2面では数mの比高しかないが、TM2面とTM3面の間には約5mの比高がある。TM3面は和田川上流の中切付近にも狭い範囲に分布する。

・低位段丘面のうちTL2面は、牛道川沿いの恩地から野上、長良川沿いの御殿場から中津屋周辺に広く分布し、面上には旧河道状の凹地が残されている。TL3面は牛道川右岸の為真に分布する。和田川流域は幅が狭く小分割された地域であるが、ここにはTL2面、TL3面、TL4面が分布している。

G大和村大間見〜小間見〜古道

ほぼ南北に流れる三河川沿いで幅の狭い地域に段丘面、沖積錐が形成されている。いずれも、段丘はTL2面が大部分を占め、TH、TM2面が大間見川、小間見川沿いに局所的に分布する。沖積錐は大間見川沿いの奥大間見、口大間見付近、古道川沿いの栗巣、三田付近に多い。

・那智から大間見付近にかけての山中には鞍部の連続や水系の屈曲などが認められる。

・小間見集落では、TL1面とTL2面の間に確実度Vのリニアメントと調和的な走向を持つ段丘崖が認められた。

3) 地形面の形成年代

地形面の形成年代は、地形面に変位を与えた断層の平均変位速度を推定する上で重要なパラメーターとなる。この年代を求めるためには、求めようとする地形面を構成する地層から炭素同位体年代測定試料やテフラ試料を採取して、面の形成年代を推定する方法がよいが、本調査では地形面を構成する地層から、分析資料が採取できなかった。また、本調査地域周辺の地形発達史に関する研究事例がは少なく、既存の文献も少ない。このため、本調査地域の段丘面の形成年代を推定することは困難であった。

脇田浩二(1984):1/5万地質図幅「八幡地域の地質」では、八幡地域の段丘堆積物を古期と新期に二区分している。古期段丘堆積物は調査範囲内の分布が認められないため対比が困難であったが、新期段丘面は本調査で区分した段丘のうち低位段丘面に対比することができる。