(3)長良川上流断層帯の評価

(1)各断層の活動性評価

断層の存在が明らかになった、二日町断層(南区間の東側),八幡断層,那留断層(北区間,南区間)について、次の項目を検討する。

@最新活動時期

A再来間隔

B単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

C平均変位速度

D想定マグニチュード

E長期予測

1)二日町断層(南区間の東側)

断層の存在は明らかであるが断層による変位が確認されていないため、@〜C及びEの項目について検討できない。

Dの想定マグニチュードのみ、変位地形がする区間を断層の長さと考え検討する。

変位地形・断層露頭が連続する区間は、北端を高平スキー場の北西約1kmの地点、南端を向小駄良集落の北部約750mの地点とする約4kmである。

内陸性の地震断層においては、長さLや単位変位量Dと地震のマグニチュードMの関係が松田式(松田(1974))により以下のとおり知られている。

Log L = 0.6 M − 2.9 (Lの単位はkm)

Log D = 0.6 M − 4.0 (Dの単位はm)

この式に、L=4kmを代入すると、推定されるマグニチュードはM=5.8となる。

2)八幡断層

@最新活動時期

断層により切られている最新の堆積物は崖錐堆積物であるが、崖錐堆積物から年代測定試料が得られなかったため、最新活動時期を見積もることができなかった。

A再来間隔

変位基準面が崖錐堆積物の基底面のみであり、複数の基準面が存在していないため再来間隔を見積もることができなかった。

B単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

露頭面で、崖錐堆積物の基底面を基準面とした場合1.0mの変位が認められる。ストリエーションは確認でなかったためネットスリップは不明である。

これが1回に活動に伴う変位量であるのか、複数回の変位量であるか不明である。

C平均変位速度

最新活動時期及び単位変位量が見積もられていないため、平均変位速度を見積もることはできない。

D想定マグニチュード

変位地形・断層露頭が連続する区間は、北端を油坂スキー場、南端を調査範囲南端とする約20kmである。

また、B単位変位量 で得られた露頭面での崖錐堆積物の基底面を変位量は約1.0mである。これを単位変位量と考えれば1.0mである。

内陸性の地震断層においては、長さLや単位変位量Dと地震のマグニチュードMの関係が松田式(松田(1974))により以下のとおり知られている。

Log L = 0.6 M − 2.9 (Lの単位はkm)

Log D = 0.6 M − 4.0 (Dの単位はm)

この式に、L=20km,D=1.0mを代入すると、推定されるマグニチュードはそれぞれM=7.0,M=6.7となる。

E長期予測

最新活動時期,再来間隔が不明なため、長期予測を行うことは困難である。

3)那留断層(北区間)

@最新活動時期

反射法探査による、基盤上面の反射面のずれにより推定された那留断層の活動時期は、烏帽子岳火山噴出物堆積以降、中位段丘堆積物堆積以前である。この活動時期は、那留地点の詳細観察により存在が明らかになった断層の活動時期に矛盾しない。

那留地区で実施した反射法探査及びボーリング調査により、変位を受けていない最古の基準面は中位段丘堆積物の基底面である。一方、変位を受けていると考えられる最新の地層は烏帽子岳火山岩類の基底面である。

したがって、最新活動時期は中位段丘堆積物の堆積開始以前である。

本地域での、中位段丘堆積物の堆積年代は研究されていない。また、堆積物から年代測定試料も採取できなかった。一般に知られている中位段丘の開始時期12〜13万年を用いれば、最新活動時期は12〜13万年以前ということになる。

A再来間隔

変位を受けていると考えられる基準面が烏帽子岳火山岩類の基底面のみであるので、再来間隔を見積もることはできない。

B単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

変位量は、中位段丘堆積物による浸食量が不明のため上限は明らかでないが、反射断面上では垂直成分で15mの変位を示しており、15m以上の垂直変位量があると考えられる。

単位変位量は、複数の基準面が得られていないので、見積もることはできない。

C平均変位速度

変位量は、中位段丘堆積物による浸食量が不明のため上限は明らかでないが、反射断面上では垂直成分で15mの変位を示しており、15m以上の垂直変位量があると考えられる。

中位段丘堆積物の堆積年代は得られていないが、一般に考えられている12〜13万年を用いて、平均変位速度を算出すると 0.13m/千年以上となりB級であると考えられる。A級となるためには、中位段丘堆積物による侵食量が100m程度必要となり現実的ではない。

いずれにせよ、中位段丘堆積以降活動していないため、起震断層になるとは考えられない。

D想定マグニチュード

変位地形・断層露頭が連続する区間は、北端を那留地区赤尾、南端を大間見とする約3kmである。

内陸性の地震断層においては、長さLや単位変位量Dと地震のマグニチュードMの関係が松田式(松田(1974))により以下のとおり知られている。

Log L = 0.6 M − 2.9 (Lの単位はkm)

Log D = 0.6 M − 4.0 (Dの単位はm)

この式に、L=3kmを代入すると、推定されるマグニチュードはM=5.6となる。

E長期予測

反射法断面では、中位段丘堆積物の基底面に変位は認められない。

したがって、中位段丘堆積物の堆積開始以降断層は変位していないと考えられる。

将来的に変位する可能性はない。

4)那留断層(南区間)

@最新活動時期

小間見地点の活断層露頭の詳細観察により、断層による1回の変位を確認した。露頭に分布する地層から年代測定試料を採取し、14C年代測定を行った結果、切られていない地層の年代は2000yBP補正年代であり、切られている地層の年代は40000yBP補正年代であった。

したがって、最新活動時期は40000yBP以降2000yBP以前となる。

A再来間隔

小間見地点の活断層露頭では、複数回の断層変位を読みとれない。

また、これ以外には断層露頭は存在していない。

したがって、再来間隔を見積もることはできない。

B単位変位量(1回に活動に伴う変位量)

小間見地点の活断層露頭では、断層面で0.75〜0.8mの垂直変位が確認された。基盤(中・古生層(美濃帯))には、幅約1.2mの破砕帯が確認されている。

このことから、断層面での変位が全ての変位を示していない可能性がある。そこで、地層の構成物質が細流分に富む地層Vと礫混じりロームUの基底面を基準面とし、露頭面での垂直変位量を求めてみた。平滑な基底面を示す位置での垂直変位量は、それぞれ1.1m,0.8mとなり、1mオーダーと考えられる。

また、断層面ではストリエーション(条線)が確認されている。ストリエーション(条線)の方向は断層の走向に対して、西に60゜〜70゜傾斜したものと東に40゜傾斜したものも見られる。前者では断層運動は左横ずれで垂直成分が卓越し、後者は垂直成分と右横ずれ(水平)成分がほぼ同程度であることを示している。ストリエーションが全て同じ方向を示していないが、これを用いてネットスリップを推定すれば、最大1.5m程度である。

したがって、単位変位量は露頭面での垂直変位0.8〜1.1m程度と考えられる。また、ストリエーションを考慮し最大のネットスリップを推定すれば1.5m程度となる。

C平均変位速度

単位変位量を最新活動時期で除して、平均年に速度を見積もると0.55〜0.02m/千年となり、活動度B〜C級となる。

また、最大ネットスリップから平均変位速度を求めた場合0.75〜0.04m/千年となり、この場合も活動度B〜C級となる。

D想定マグニチュード

変位地形・断層露頭の連続性は、二日町断層・八幡断層と比較して明瞭でない。あえて長さを示せば約3kmである。

一方、単位変位量は露頭面での垂直変位0.8〜1.1m程度が得られている。また、ストリエーションのばらつきがあるものの、ネットスリップは最大でも1.5m程度と推定されている。

内陸性の地震断層においては、長さLや単位変位量Dと地震のマグニチュードMの関係が松田式(松田(1974))により以下のとおり知られている。

Log L = 0.6 M − 2.9 (Lの単位はkm)

Log D = 0.6 M − 4.0 (Dの単位はm)

この式に、L=3kmを代入すると、推定されるマグニチュードはM=5.6となる。D=0.8〜1.1mを代入すると、推定されるマグニチュードはM=6.5〜6.7となる。

ストリエーションのばらつきがあるため信頼性には欠けるが、ネットスリップが最大で1.5mから推定されるマグニチュードはM=6.9となる。

これら得られた推定されるマグニチュードの内、信頼性のあるものはM=6.5〜6.7である。しかし、この露頭位置が断層変位を代表しているかは不明である。また、信頼性には欠けるがストリエーションを考慮した場合、最大M=6.9が得られている。

したがって、最大M=7程度まで想定可能である。

E長期予測

変位基準面は複数あるものの、断層変位が1回であるため長期予測を行うことは困難である。

しかし、最新活動時期が40000yBP以降2000yBP以前であるため、再来周期の長さによっては、近い将来、最大M=7程度の規模の地震が起きる可能性も否定できない。