なお、調査の結果大野断層については存在を示唆する証拠が全く得られなかった。したがって、大野断層は存在しないものと考えられる。
既存資料調査では、長良川上流断層帯を構成する4断層は、主に地形判読により活断層として認定されていた。活断層の分布を示す証拠が示されているものは、脇田(1984)で八幡断層の断層露頭が1箇所,白鳥町(1996)で那留断層と考えられる断層露頭が1箇所のみであった。
したがって、地形地質調査により、断層変位地形や活断層露頭・活断層の存在を示唆する露頭を確認することとした。
那留断層については、地質調査で那留断層の片位置伴うと考えられる第四紀における活動の痕跡が発見されたが、位置の特定が困難であったため、反射法探査1測線と確認のためのボーリング2孔を実施した。
断層毎に、これらの成果を述べ、実在性に関する評価結果を示す。
(1) 二日町断層
地形調査では、次の情報が得られた。
二日町断層については、北北西−南南東方向に連続する鞍部として、地すべり地形を挟んで南北2条の断層変位地形の連続として抽出できる。
北側の変位地形は、東西2条の平行した断層変位地形の連続に区分できる。これら断層変位地形の連続上には、高位段丘面,中位段丘面及び扇状地・崖錐が分布するが、これら更新世後期と考えられる地形面上には変位地形は認められない。
南側の変位地形も、北側同様、東西2条の平行した断層変位地形の連続に区分できる。これら断層変位地形の連続上には、扇状地・崖錐が分布するが、これら更新世後期と考えられる地形面上には変位地形は認められない。
地質調査の内、地質概査では、次の情報が得られた。
南区間の東側の断層変位地形の連続については8箇所の断層露頭を確認した。このうち露頭番号7地点では崖錐が切られている可能性がある。北区間については断層露頭は確認できなかった。
多くの断層露頭が発見された南区間では、リニアメントの方向と断層面の方向が斜交や、方向は調和的であるが傾斜方向がばらつく結果が得られた。
したがって、二日町断層のリニアメントは、共役な小断層の集合により形成された断層破砕帯であると考えられる。断層破砕帯形成後には熱水の貫入があり、熱水変質によりさらに軟質化しているため、明瞭なリニアメントとして抽出できるものと考えられる。
地質精査では、露頭番号7地点を中心として1/2,500地質精査及び断層露頭の詳細観察を行い、崖錐堆積物中には断層が存在しないことを確認した。しかし、崖錐堆積物の基底面に約2mの段差があることを確認した。
地質調査の結果では、基盤岩と崖錐堆積物は不整合で接している可能性が高いが、崖錐堆積物の基底に段差があることから活断層である可能性を完全に否定できていない。
以上の成果を総括すると、南区間の東側の断層変位地形の連続についてには、二日町断層の存在は確実であるが、共役断層の集合体と考えられるため、一本の断層線として絞り込むことはできかった。また、今回の調査結果では、活動履歴を明らかにすることができなかった。
そのため、変位地形の分布と断層露頭の位置を総合的に考え、活動履歴未詳の断層としてストリップマップに示した。
これ以外の断層変位地形の連続については、断層露頭や断層の存在する露頭が発見できなかった。したがって、推定断層としてストリップマップに示した。
(2) 八幡断層
地形調査では、山地中の地形変換線や水系の屈曲、鞍部の連続などがみとめられ、これらは活断層研究会(1991)に示された全ての断層線(確実度TUV)位置と明確に一致する。しかし、渓流が断層位置を横断する箇所などにおいて段丘面を変位させている箇所は認められない。
地質調査の内、地質概査では、これら断層変位地形の連続周辺に断層露頭が発見され、八幡断層の存在位置(断層線)を絞り込む(推定する)ことができた。これら地形・地質調査により推定される断層線を覆って崖錐や段丘堆積物が大和町落部集落の南西部と調査地域南端の長良川沿いに分布するが、地表には断層変位地形は認められなかった。
また、脇田(1984)により崖錐を切る断層露頭が報告されており、その位置が地質境界になっているため地質精査として、1/2,500地質精査及び報告されている断層露頭の詳細観察を行った。
その結果、面的な地質分布から八幡断層は中・古生層堆積岩類と奥美濃酸性岩類の境界断層であることが想定でき、脇田(1984)により示されている断層露頭では、中・古生層堆積岩類のチャートが断層関係で奥美濃酸性岩類および崖錐堆積物と接していることが確認された。
これらの事実から、落部地点の断層が八幡断層の本体であると断定でき、崖錐堆積物を変位させている断層であることも明らかになった。しかしながら、崖錐堆積物の年代を特定できる試料が発見できなかったため最終活動年代の絞り込みが困難である。
また、複数回の活動履歴があるかどうかも本地点の露頭からは判断できず、「繰り返し活動する可能性のある活断層」であるという証拠は得られていない。
以上の結果から、地層境界部を推定断層とし、落部地点の周辺約1kmを活断層としてストリップマップに示した。
活断層の変位量は、崖錐堆積物の基底面を変位基準面とした場合、露頭面で約1m(垂直変位量は約0.8m)である。ストリエーションは確認できなかったため、ネットスリップは不明である。
(3) 那留断層
地形調査では、次の情報が得られた。
活断層研究会(1991)で確実度Tの断層線が示されている那留付近に、高位段丘面と中位段丘面の間の北東方向の段丘崖が断続的に認められる。高位段丘面は北東方向に向かって傾斜しており、中位段丘面は大局的に段丘崖に向かって南西方向に傾斜している。したがってこの段丘崖は低断層崖の可能性がある。
この一連の変位地形を北側には、低位段丘面が分布するが、この段丘面上には断層運動よると考えられる変位地形は認められない。
那留集落と大間見集落の間に位置する山地には確実度Vのリニアメントが鞍部の連続及び谷の屈曲として追跡できる。
大間見及び日枝洞集落付近の河川沿いには低位段丘面が存在するが、段丘面上には断層変位地形は認められない。
大間見、小間見の間の山地には断層変位地形は認められない。
小間見付近では、鞍部と直線的な水系・尾根の屈曲等が北西−南東方向に認められた。小間見川に沿って低位段丘の分布が認められるが、段丘面上には変位地形は認められない。
したがって、那留断層は大間見−小間見の間の山地で北区間・南区間に2分割され、北区間では高位段丘堆積以降低位段丘堆積前までの間で活動している可能性がある。
南区間では、低位段丘堆積以降に活動している可能性は小さい。ただし、段丘面の分布が狭小であるため、地質調査により詳細に確認する必要がある。
地質調査の内、地質概査では次の情報が得られた。
北区間では、那留集落二反田での和田川改修工事に伴って出現した那留断層の断層露頭位置が特定できた。(既に、断層露頭は河川改修により被覆されていた。)
南区間では、大和町小間見で崖錐を切る断層露頭が発見された。
地質精査では、北区間・南区間の2地点で実施した。
北区間では、白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」 に記載された和田川沿いの河川改修工事の際に現れた断層露頭を中心に1/2,500地質精査と断層露頭の再発掘を行った。断層露頭の再発掘地点では、基盤の中・古生層および更新世初期の烏帽子岳火山噴出物層を切る断層は確認できたが、沖積層まで変位を与えるようなものではなかった。また繰り返し断層活動があったという証拠は得られなかった。しかし、確認された断層や割れ目(節理や密着亀裂)の方向解析を行った結果、活断層研究会(1991)に示されている那留断層の方向と一致するNW−SE走向が卓越しており、那留断層の活動に伴い形成された断層及び割れ目である可能性が示唆された。
北区間の位置や活動性については、依然把握できていない。これらを明らかにするためには、地形調査により低断層崖の可能性が指摘されている那留地点の西側に存在する段丘崖(高位段丘面と中位段丘面の間)を反射法探査及びボーリング調査により調査することした。
南区間では、大和町小間見の断層露頭を中心とした1/2,500地質精査と断層露頭の詳細観察(含む年代測定)を実施し、平面的に断層の方向を追跡することは困難であることが判明したが、断層露頭では40000yBP〜2000yBPの間で1回の断層変位が確認され、単位変位量も露頭面で0.8〜1.1m(ストリエーションを考慮すればネットスリップは最大で1.5m程度)の垂直変位量が確認された。したがって、活動度はB〜C級となる。
以上の結果から、那留断層は南北2区間に分けてストリップマップに示した。
北区間・南区間ともに断層露頭に乏しく、推定断層として示したが、南区間では活断層露頭が発見された小間見付近の約350mのみ活断層として示した。なお、北区間については反射法探査・ボーリング調査により第四紀断層の可能性が指摘されているが、断層線として示した位置に断層露頭が存在しないため推定断層として示している。
(4) 大野断層
地形調査では、活断層研究会(1991)で断層線が示されている位置に、高位段丘面と中位段丘面の間の東向きの段丘崖の連続として認められたが、中津屋−大島−那留集落に囲まれた長良川左岸地域では高位段丘面及び中位段丘面の傾斜方向はすべて系統的な北傾斜を示しているため、この部分のみを逆向き低断層崖として認定することは地形調査の結果のみで結論づけることは困難であった。
地質調査では、活断層研究会(1991)で示されている断層線を横切る約200mわたる道路法面の観察を行った結果、大野断層の存在を示す証拠は確認できなかった。
白鳥町中津屋の北方800mの送電線の下の露頭では、中・古生層の砂岩が大野断層を横切るように、長さ50mにわたり連続的に分布している。砂岩は風化により軟質となっているものの、破砕された様子はなく、断層が示されている位置に断層は認められなかった。
また、白鳥町(1996):「活断層調査委託報告書」では、大野断層の存在を直接観察していないため、大野断層の実在性について検討できないことが判明した。今回の調査に利用可能なデータとしては、
・U測線で物理探査結果の不連続のが認められ、ボーリング調査により地 質構造の不連続をこくにんしたこと
・T測線・V測線では、見かけ比抵抗の不連続が認められたこと
の2点が得られているが、今回の地形地質調査で作成した地形分類図・地質図によれば、いずれも岩相境界・地形境界にあたり、断層により生じた不連続とは考えられない。
以上の調査結果から、大野断層は存在していないと考えられる。
したがって、ストリップマップには図示しない。
(5) 各断層の調査成果
各断層に対する調査成果を表1−3−5−1−1 に示す。
表1−3−5−1−1 長良川上流帯の調査成果