・既往調査及び既往文献では,白石断層の北端は児捨川以南の流域であるとされていたが,本調査では児捨川以北の福岡深谷まで断層の存在を示唆する事象が確認された。
・福岡深谷以北〜松川以南地域では,リニアメントが山地内及び山地・丘陵前縁に判読されるが,いずれの地域でも断層の存在を示唆する事象が得られなかった。
・松川以北の地域では,丘陵及び段丘面の前縁にリニアメントが判読され,北部の小村崎地区ではリニアメント近傍で低位段丘堆積物中の火山灰層が段丘東縁で局所的に東へ20°程度傾斜する事象が確認され,断層の存在が想定された。
・松川左岸の矢附付近では中新統の構造がリニアメントに近づくほど傾斜が急になる傾向があり,基盤中の断層の存在が示唆された。
以上の結果から,白石断層の北方延長は少なくとも児捨川以北の福岡深谷まで連続し,松川以北でも南北〜北北東−南南西方向の活断層が分布する可能性があると判断された。特に,北部の小村崎地区では他地区より活断層の存在する可能性の高い地区であるとの結論を得たため,地表踏査(精査)を実施した。
小村崎地区の地表踏査(精査)では,リニアメント周辺における段丘面,沖積低地面上の微地形分布を把握し,今後の調査方針策定に資するデータを得ると共に,トレンチ調査等,今後の詳細調査候補地点として以下に示す3箇所を選定した。
・蔵王町北境地点:丘陵前縁の比高3mないし1〜2mの低崖部。
・蔵王町平沢地点:低位段丘面(L1)前縁における比高3〜4mの低崖部。
・蔵王町小村崎地点:低位段丘面(L1)前縁における比高3〜4mの低崖部及び,さらにその前縁に分布する比高1m程度の低崖部。
このうち,小村崎地点においては,河川方向に直交して崖地形が2条連続することなどから,本年度は小村崎地区を詳細調査地点として選定し,浅層反射法地震探査,ボーリング調査及び弾性波探査を実施した。
浅層反射法地震探査(P波)は,リニアメントを横断する300m区間に側線を設定し,受振点・発振点間隔を2.5mとして探査した。探査結果は以下の通りである。
・深度断面図によると,距離程150mより西側の標高60m以浅に,40°〜50°で西傾斜する地層不連続部ないしは擾乱部を判読することができる。但し,上記の構造も標高25m以浅では認め難くなる。
・距離程50m付近より西側には,小規模な地層の撓みや擾乱部が約50°前後で西傾斜配列する構造を判読することができる。但し,標高80m付近に分布する明瞭な反射面に異常構造は認められず,断層の存在を認定するには至らない。
次にボーリング及びトレンチ調査結果についてみると,小村崎地区の地表付近に分布する地質は,下位より円田層・段丘堆積層・洪積砂礫層・ローム層・黄褐色シルト層・黒色腐植土層などである(図5−2−1)。
14C年代測定により洪積砂礫層下部は,33,480年ないし49,980年より古い年代を示す。また,黄褐色シルト層は約5,100〜7,000年,黒色腐植土層は約2,500〜3,800年の年代を示す。
前縁のリニアメント部で実施したトレンチ調査の結果,地形的段差部を横断する黒色腐植土層・黄褐色シルト層の分布に,断層運動を反映するような変位・変形は認められない(図4−2−10,図5−2−1)。また,地層の年代が>33,480ないし>49,980年を示す腐植質シルト層を介在する洪積砂礫層の下底面は,ほぼ水平に分布することがボーリング(KB−1孔・KB−2孔)により確認された(図5−2−1)。
一方,低位段丘と沖積平野との境界部に分布するリニアメント部(背後リニアメント)で実施したボーリング調査・浅層反射法地震探査(P波)の結果,基盤の円田層に地層の擾乱などを想定することが可能である。但し,円田層は周辺の地表踏査によりもともと乱堆積構造が発達することが判明しているため,上記の擾乱構造が必ずしも断層の存在を指示するものとはならない。また,背後リニアメントを挟んで実施したボーリングコア(KB−3孔・KB−4孔)には顕著な断層・破砕部などは分布しないことを確認した(図5−2−1)。
なお,低位段丘に分布する砂礫層は,背後リニアメントに直交する約200m区間において,ほぼ一様に2°〜4°の傾斜を示す(図5−2−2)。従って,同砂礫層堆積以降(少なくとも数万年前より古い時期)に背後リニアメント部における断層活動は想定できないものと判断される。