1. 地震活動のシナリオを描くに際しての2つの仮定
5.3.4項の4で指摘したように,坪沼第2トレンチでのイベント1以後,「平均再来間隔の約2倍経過しているにもかかわらず,現在までに地震が起きていない」ということは,不自然である。したがって,坪沼第2トレンチは坪沼−円田断層の全地震イベントの一部だけを記録しているに過ぎない可能性がある。このことは,坪沼第2トレンチで認められる3つのイベントから概算される平均鉛直変位速度が0.05m/ky以下(2.26m(総鉛直変位量)/ 44,000年以上)であり,5.3.2項で概算した平均鉛直変位速度の1/5にも満たないことからも強く示唆される。
上記の食い違いは,5.3.4項の3で述べた引きずり変形成分の過小評価傾向を考慮しても,なお解消することが困難であると思える。残りの変位速度は変位地形を伴う北西側山地基部の断層(根添に露出する断層やボーリングB−3の北側に予想される断層など)で分担されていると考えるのが妥当であろう。
そこで,以下に描く地震活動のシナリオの第一の仮定として,
「坪沼第2トレンチでのイベント1以後に,未確認の“最新イベント”が起こった」
ことを想定する。根添で観察される断層はリニアメントとして北東方向に連続するものの,坪沼第2トレンチの北側近接部を通過する。この断層の最終イベント時期が13,800年前以後であることから,このイベントが上に仮想した“最新イベント”に相当する可能性がある。
坪沼第2トレンチでのイベント1の時期,とくにCase−2の場合(7,280年前以後で,6,750年前以前)のそれが,長町−利府線近傍における7,300年前の地層に認められた液状化のイベントの時期とほぼ一致する。そこで,第二の仮定として,
「坪沼第2トレンチでのイベント1と長町−利府線近傍における7,300年前の地層に認められた液状化のイベントが,同時期である」
とみなすことにする。
上記の2つの仮定はともにありそうなことであり,これらを前提とした地震活動のシナリオを以下に描いてみる。
2. 地震活動のシナリオ(図5−3−1を参照)
a. イベント1の地震の起こり方
このイベントは13,800年前から7,280年前の間(表5−3−3のCase−1),あるいは7,280年前から6750年前の間(表5−3−3のCase−2)に起こった。坪沼第2トレンチでのイベント1の真の変位量は0.92mであり,これに相当するマグニチュードは,松田(1975)の式から約6.6である。これとほぼ同時期に,長町−利府線でも液状化を伴う地震が発生した(上の第二の仮定)。イベント1での坪沼−円田断層の変位量と松田(1975)の式から概算される断層の長さは,坪沼−円田断層の長さ12kmとほぼ一致するので,この地震断層は長町−利府線には連続しなかったとみなしてよい。したがって,坪沼−円田断層からの地震と長町−利府線からの地震は,ある程度の時間差のある連動地震として発生したか,もしくはマルチプル ショックの地震であっと想定される。この時に長町−利府線から発生した地震は,断層の長さと松田(1975)の式から,最大規模なら約M7.0である。
b. 想定された“最新イベント”の起こり方
坪沼−円田断層でこのイベントが発生した時期は,イベント1から平均再来間隔程度の時間が経過した時である。平均再来間隔は,単位鉛直変位量としてトレンチでの実測値(0.77m)を採用したときには2,600〜3,000年(図5−3−1),断層の長さと松田(1995)の式からの概算値(1m:表5−3−2)を採用したときには3,300〜4,000年(図5−3−1)となる。さらに,イベント1の時期として表5−3−3のCase−2を採用したときには,上の2つの平均再来間隔に対応した“最新イベント”の時期は,それぞれ3,750〜4,700年前,または2,750〜4,000年前となる(表5−3−4,図5−3−1)。この時期は長町−利府線近傍での2,500年前直後の液状化イベントより古い可能性が高い。したがって,この液状化が長町−利府線の地震活動によるものであったとしても,この時の地震は坪沼−円田断層での“最新イベント”とは別個の地震ということになろう。
c. 将来の地震発生の切迫度の評価
表5−3−4に来るべき地震の切迫度(“最新イベントの時期”/平均再来間隔)の評価を示す。長町−利府線に関しては,2,500年前直後の液状化イベントを“最新イベント”の時期と仮定してある。
表5−3−4 地震発生の切迫度の評価
長町−利府線と坪沼−円田断層の要注意指標はともに1前後である。このことは,すでに注意を要する時期に至っていること,そして来るべき地震の起こり方は,イベント1の場合と同様,連動地震かマルチプル ショックになる可能性が高いことを示唆する。