(4)平均変位速度

4.1.2項で述べたように,反射探査測線の距離程50m付近には,小断層により変位した腐植物混じりの堆積層が分布する。14C年代値は,約35,000年前ないし約31,000年〜39,000年前以前となっている。

一方,反射探査測線150m付近で実施したボ−リング(B−5孔)では,深度3.0m〜深度7.5m間の腐植土試料で実施した14C年代測定において,31,850±690yBP(深度3.0m)ないし約25,000年〜36,000年以前の値を得た。従って,上記の砂・シルト層は,層相や14C年代値などを考慮すると,前述した反射探査測線50m付近の露頭に分布する地層と連続する可能性の高いものである。簡易測量によると,両層の分布高度は,断層が想定されるゾ−ンを挟んで下流側が約9m高い。この堆積層の年代が約3万〜3.5万年前であると仮定すると,この間の上下方向の平均変位速度は,0.25〜0.3m/1,000年と算定される。平成7年度に実施した地表概査結果では,茂庭層基底面を変位基準とし,坪沼断層の活動開始時期を約45万年前と仮定した場合のおおよその鉛直平均変位速度を,0.3~0.4m/1,000年程度としている。本調査で求められた平均変位速度値は,平成7年度調査による想定値を補強するものと言える。

但し,30,000〜35,000年の年代値(2試料)は14C年代測定の計測限界値に近いと共に,周辺で採取した他のデータ(5試料)ではスケールオーバーしている。さらにB−5孔では,最も下位の地層で検出した値が約15,700年を示し,上位と逆転した値となっている。このように,上記の平均変位速度(0.25〜0.3m/1,000年)には不確実な部分が含まれるとみなすことも可能である。この場合,第二トレンチの断層が少なくとも6,750〜7,280年前以降に活動していないという事実に着目すると,トレンチでの最終活動であるイベント1の鉛直変位量0.77mに基づき,第二トレンチでの平均鉛直変位として0.11m/1,000年以下の値が算定される。