掘削の結果,トレンチ内にはB−4孔で確認した断層が東側法面と西側法面に出現した。断層の走向・傾斜はN42゚E〜N58゚E, 54゚〜62゚NWであり,北西側上がりの逆断層である。トレンチ内では断層を境として基盤岩である高舘層(上盤)と第四系の未固結堆積物が接し,断層上部は砂・礫層及び腐植質シルト層に覆われている。なお,トレンチ内では断層面の下盤側にある高舘層の上限面が露出していないが,B−4孔の掘削結果から,トレンチの底盤より30cm前後下に高舘層の上限面が分布することが明らかになっている。
以下では各法面で観察された地質状況を記載し,これらの地質状況から推定された断層運動(イベント)について記述する。
写真4−1−15 坪沼第二トレンチ(遠景)
上流側(南東側)より掘削地点を望む。リニアメントは家の背後に判読され,その北東方延長は坂下橋の下流側を通る。
図4−1−11 坪沼第二トレンチ周辺の平板測量結果図
(縮尺1/200)
○東側法面
坪沼第二トレンチの東側法面状況を,図4−1−12及び写真4−1−16に示す。
断層面は波曲しているが,一部で鏡肌を呈するセン断面が認められ,その走向・傾斜はN46゚E, 82゚NWである。断層粘土は法面下部で厚く,厚さ5〜8cmである(写真4−1−17)。
法面の左下隅には,新第三紀中新世の高舘層が分布する。高舘層は黄灰〜黄褐色を呈する火山礫凝灰岩からなり,全体に風化して脆いが,岩盤組織は保存されている。
法面に広く露出する第四紀の未固結堆積物は,層相に基づき11層に細分される(図4−1−12の凡例参照)。以下では,各層の特徴と断層との関係について下位の地層から順番に記述する。
砂礫層1:
断層の上盤側及び下盤側に分布し,断層運動による変位を被っている。断層の両側では,断層面沿いに100cm以上(鉛直変位量もほぼ同じ)にわたり,基底面の食い違いが認められる。層厚は,断層の下盤側で40cm以上,上盤側で20cmである。
断層の下盤側では,下部に平均径5cm以下の円〜亜円礫主体の礫層が分布し,上部には厚さ20cmにわたり最大径25cm,平均径5〜10cmの安山岩角礫を主体とする礫層が分布する。礫間は,上・下部相共に青灰色を呈する粘土混じり粗砂である。礫の含有率は70〜80%程度である。
断層の上盤岩には,安山岩の角〜亜角礫を主体とする礫層が分布し,下盤側下部の円礫を主体とする礫層は欠如している。
なお,本層上部の角礫主体層では,断層を境とした鉛直変位量は80〜90cmである。
砂・シルト層1:
断層の両側に分布し,断層を境として約80cmの鉛直変位量が認められる。層厚は平均20〜30cm,最大40cm。
本層は,青灰色を呈する軟質シルト〜細砂中に,同色の固結シルトを礫〜ブロック状に含む。なお,断層付近では,緑灰色を呈する細砂を伴い,径数cmの硬質礫を含む。
腐植質シルト層1:14C年代測定試料;T2E−1,3
断層の下盤側に分布し,上盤側では欠如する。層厚は40cm。
灰褐色を呈する腐植質シルト主体であり,青灰色を呈する層厚20cm以下の細〜粗砂を伴う。シルト・砂共に材を少量含む。
なお,シルト中に挟在する細砂薄層は断層付近で見かけ上水平であり,断層から離れると断層に向かって撓み下がる構造をなす。
砂・礫・シルト層:14C年代測定試料;T2E−4
断層の両側に分布し,断層に切られる。断層の両側では,断層面沿いに80cm(鉛直変位量は40〜60cm)にわたり,基底面の食い違いが認められる。層厚は,断層の下盤側で最大70cm,上盤側で10〜20cmである。
青灰色を呈する中〜粗砂主体であり,同色のシルトを伴う。砂層中にはラミナが発達する。
なお,本層中には液状化跡が認められる(写真4−1−18)(巻末資料参照)。
腐植質シルト層2:14C年代測定試料;T2E−5
断層の下盤側に分布し,断層との直接的な関係は確認されない。しかし,断層付近では挟在する砂層が断層運動により引きずり上げられる構造が認められ,断層運動による変形を被っていると推定される(写真4−1−19)。
褐灰色を呈する腐植質シルトからなり,礫層,細砂層を伴う。礫は安山岩及び凝灰岩を主体とする亜円〜亜角礫である。
層厚は20cmである。
砂礫層2:
断層運動による影響を被っていない。本法面では,下位の腐植質シルト層2及び砂・礫・シルト層などの断層運動により変形した地層を不整合関係で覆う。
青灰色を呈する細〜粗砂と礫層からなる。砂層中には斜交層理が発達する。礫層は径3cm以下の円〜亜円礫主体であり,基底付近では最大20cmの亜円礫を含む。層相の側方変化が激しく,礫層と砂層が指交関係で接する。全体に断層を境として下流側(断層の上盤側)では礫質である。一部で,材を含む。
層厚は最大60cmである。
腐植質シルト・砂互層:14C年代測定試料;T2E−6B,7B,8
砂礫層2を覆い,断層運動に伴う変形を被っていない。
黒〜黒褐色を呈する腐植質と黄灰〜灰色を呈する細砂との互層からなり,互層間隔は5〜20cmである。本層中には材が比較的多く含まれる。
層厚は最大90cmである。
材集積層:
褐灰色を呈する腐植質シルト層を主体とし,礫混じり細〜粗砂を伴う。腐植質シルト中には多量の材が含まれる。
腐植質粘土層1:14C年代測定試料;T2E−11
灰褐〜黒褐色を呈する腐植質粘土からなる。最下部には,植物根の痕跡が発達する。本層中位には,灰色を呈する径4cm以下の礫状火山灰を含む粘土層が,厚さ40cm程度でほぼ水平に連続している。本層最上部には,黒色を呈し腐植分が非常に富む層が厚さ10〜20cm程度で分布する。なお,本層の層厚は60〜80cmである。
腐植質粘土層2:14C年代測定試料;T2E−12
黒褐〜暗灰褐色を呈する腐植質粘土からなる。層厚は70cmである。
耕作土:
上部は暗灰褐を呈する粘土〜シルト,下部は黄褐色を呈する細礫混じりシルトからなる。層厚は最大90cmである。
図4−1−12 坪沼第二トレンチ東側法面スケッチ(縮尺1/20)
写真4−1−16 坪沼第二トレンチ 東側法面 全景
写真4−1−17 坪沼第二トレンチ 東側法面 断層面近景
写真4−1−18 液状化の状況(坪沼第二トレンチ東面)
写真4−1−19 腐植質シルト層2の状況(坪沼第二トレンチ東側)
○西側法面
坪沼第二トレンチの西側法面状況を,図4−1−13及び写真4−1−20に示す。
断層面はやや波曲しているが,鏡肌を呈するセン断面が明瞭であり,その走向・傾斜はN42゚E〜N58゚E, 54゚〜62゚NWである(写真4−1−21)。また,セン断面には北東方向に80°傾斜した条線が発達する(写真4−1−22)。断層粘土は法面下部で厚く,最大で厚さ30cm,断層上部の第四系との境界部では厚さ5mm程度である。
法面の右下半には,新第三紀中新世の高舘層が分布する。高舘層は黄灰〜黄褐色を呈する火山礫凝灰岩からなり,風化してやや脆いが,岩盤組織は良く保存されている。なお,岩盤中には断層から派生する粘土脈が挟在する。
法面に広く露出する第四紀の未固結堆積物は,前述した東側法面では層相に基づき11層に細分され,西側法面では10層が露出している。以下では,各層の特徴と断層との関係について下位の地層から順番に記述する。
砂礫層1:
断層の下盤側のみに分布し,上盤側では欠如している。断層運動による変位・変形を強く被り,断層面付近では基質中に粘土分を含む。なお,西面では本層の分布から変位量を算定することはできない。
平均径10cm以下,最大40cmの円〜亜円礫主体の礫層からなり,礫率は60〜70%である。礫種は安山岩,凝灰岩類,花崗閃緑岩,砂岩などである。礫間は,青灰色を呈する粗砂である。
層厚は,断層の下盤側で40cm以上,上盤側で20cmである。
砂・シルト層1:14C年代測定試料;T2W−1
断層の下盤側と上盤側(北面)に分布するが,西面の上盤側では断層付近で欠如している。層厚は平均20〜30cm,最大40cm。
本層は,主として青灰色を呈する軟質シルト〜細砂中に,同色の固結シルトを礫〜ブロック状に含むほか,緑灰色を呈し層理が発達する粗砂を伴う。なお,本法面では,本層は大部分が崩落ブロック状をなしており,不動層は露頭中央下部で直接砂礫層1を覆っている厚さ10cmの砂〜砂礫層のみである。
腐植質シルト層1:14C年代測定試料;T2W−2
断層の下盤側にのみ分布し,断層面とは直接接していない。
灰褐色を呈する軟質な腐植質シルト主体であり,青灰色を呈する粗砂薄層を挟在する。シルト中には材を含む。
層厚は10cm前後である。
砂・礫・シルト層:
断層の下盤側にのみ分布し,上盤側では欠如する。基盤岩とは断層で接し,断層面には厚さ5mm以下の粘土が挟在する。断層による食い違いは,断層面沿いに少なくとも30cm以上である。鉛直変位量は露頭左下の見かけ上水平な部分を基に算定すると100cm以上となる。
青灰色を呈する細〜粗砂基質中に安山岩主体の角礫を50〜60%程度含み,東側法面における層相とは大きく異なる(写真4−1−23)。また,断層の上盤側に分布する高舘層の火山礫凝灰岩からなる礫も含まれており,本層を断層上盤側のブロックが崩壊して形成されたプリズム層と見なすことも可能である。しかし,プリズム層とするには火山礫凝灰岩の礫や岩片が少ないとの見方もできる。
層厚は,最大40cmである。
腐植質シルト層2:
西面では欠如している。
砂礫層2:14C年代測定試料;T2W−3
断層を覆い,断層運動による影響を被っていない。断層の下盤側では,下位の砂・礫・シルト層を不整合関係で覆い,断層の上盤側では砂礫層1を被覆する。本面では最下部に厚さ20cm程度の腐植質シルト層(T2W−3試料)が分布する。
断層より南東側(下盤側)では青灰色を呈する細〜粗砂主体であり,斜交層理が発達する。断層の上盤側では礫を多く含み,最大径50cmの安山岩角礫が混入する。
層厚は最大100cmである。
腐植質シルト・砂互層:
断層の上盤にのみ分布し,砂礫層2を覆う。
黒〜黒褐色を呈する腐植質と黄灰〜灰色を呈する細砂との互層からなり,互層間隔は5〜20cmである。本層中には材が比較的多く含まれる。
層厚は最大30cmである。
材集積層:14C年代測定試料;T2W−4
褐灰色を呈する腐植質シルト層からなり,稀に径20cm前後の亜円〜亜角礫を含む。本層最下部には多量の材が含まれる。
腐植質粘土層1:
灰褐〜黒褐色を呈する腐植質粘土からなる。最下部には,植物根の痕跡がわずかに認められる。本層中位には,灰色を呈する径4cm以下の礫状火山灰を含む粘土層が,厚さ40cm程度でほぼ水平に連続している。本層最上部には,黒色を呈し腐植分が非常に富む層が厚さ10〜20cm程度で分布する。なお,本層の層厚は60cm前後である。
腐植質粘土層2:
黒褐〜暗灰褐色を呈する腐植質粘土からなる。層厚は50cm以下である。
耕作土:
上部は暗灰褐色を呈する粘土〜シルト,下部は黄褐色を呈する細礫混じりシルトからなる。層厚は最大70cmである。
図4−1−13 坪沼第二トレンチ 西側法面スケッチ
(縮尺1/20)
写真4−1−20 坪沼第二トレンチ 西側法面 全景
写真4−1−21 坪沼第二トレンチ 西側法面 断層面近景
写真4−1−22 砂・礫・シルト層の層相(坪沼第二トレンチ西面)
写真4−1−23 断層面の状況(坪沼第二トレンチ西面)
○北側法面
坪沼第二トレンチの北側法面状況を,図4−1−14及び写真4−1−24に示す。
本法面には,断層の上盤側ブロックが露出する。
法面の下半には,新第三紀中新世の高舘層が分布する。高舘層は黄灰〜黄褐色を呈する火山礫凝灰岩からなり,風化してやや脆いが,岩盤組織は良く保存されている。岩盤中には,断層から派生する粘土脈が少数挟在する。
法面に広く露出する第四紀の未固結堆積物は,前述した東側法面では層相に基づき11層に細分されるが,本法面では,このうち8層が露出している。腐植質シルト・砂互層より下位の層は,全体に7°前後で東側法面に向かって緩く傾斜している。
以下では,各層の特徴と断層との関係について下位の地層から順番に記述する。
砂礫層1:
平均径10cm以下の安山岩角礫主体の礫層からなり,礫率は60〜70%である。安山岩礫は暗灰〜暗灰緑色を呈し,割れ目が多い。礫間は,青灰色を呈する粗砂である。
層厚は20〜30cm。
砂・シルト層1:14C年代測定試料;T2N−1,2
主として青灰色を呈する軟質シルト〜細砂中に,同色の固結シルトを礫〜ブロック状に含むほか,緑灰色を呈し層理が発達する粗砂を伴う。層厚は20cm以下であり,西側法面との境界では上位の砂礫層2に削られて尖滅する。
腐植質シルト層1:
本法面には露出しない。
砂・礫・シルト層:
本法面には露出しない。
腐植質シルト層2:
本法面には露出しない。
砂礫層2:
法面中央〜西側法面間に分布する。
径5cm以下の安山岩角礫を主体とし,礫間を青灰色の粗砂が充填する。
層厚は最大20cmである。
腐植質シルト・砂互層:
黒〜黒褐色を呈する腐植質と黄灰〜灰色を呈する細砂との互層からなり,互層間隔は5〜20cmである。本層中には材が比較的多く含まれる。層厚は30〜40cmである。
材集積層:
褐灰色を呈する腐植質シルト層主体で礫混じり粗砂を伴う。粗砂中には石英粒が多量に混入する。本層最下部には多量の材が含まれる。
腐植質粘土層1:
灰褐〜黒褐色を呈する腐植質粘土からなる。最下部には,植物根の痕跡が認められる。本層中位には,灰色を呈する径4cm以下の軽石を含む粘土層が,厚さ40cm程度でほぼ水平に連続している。本層最上部には,黒色を呈し腐植分が非常に富む層が厚さ10〜20cm程度で分布する。なお,本層の層厚は60〜70cmである。
腐植質粘土層2:
黒褐〜暗灰褐色を呈する腐植質粘土からなる。層厚は50cm弱である。
耕作土:
上部は暗灰褐を呈する粘土〜シルト,下部は黄褐色を呈する細礫混じりシルトからなる。層厚は70cmである。
図4−1−14 坪沼第二トレンチ 北側法面スケッチ
(縮尺1/20)
写真4−1−24 坪沼第二トレンチ 北側法面