トレンチ掘削面の状況を写真4−1−12,写真4−1−13,写真4−1−14に示す。トレンチ内の地質状況については東側法面で最も良く観察されたため,本調査では東側法面についてスケッチ(縮尺1/20)を行った(図4−1−10)。
法面には厚さ4mの崖錐堆積物層が露出し,これをトレンチ上部の平坦地から低崖にかけて分布する腐植土層が被覆している。
崖錐堆積物層は,シルト質礫主体でシルトを伴う。シルト質礫は平均径20cm以下,最大40cmの安山岩亜角礫を主体とし,礫間を灰褐色シルトに充填される締まりの良い堆積物である。礫は概ね中硬質であるが,径数cmのものはクサリ礫化している。礫率は平均50〜60%であるが,部分的に礫率が低下する。礫の長軸配列及び礫率の粗密により堆積構造が認められ,概ね東北東方向に緩く傾斜している。
シルト層は法面の中段に厚さ50cm前後で分布するほか,法面下部では礫質シルト中にレンズ状に挟在する。法面中段では,全体に上方細粒化の傾向があり,下部では径数cmの亜角〜亜円礫を5〜10%程度含む。法面下部では,黄褐色を呈する軟質な粘土を伴う。
腐植土層は,法面上部の平坦地ではほぼ水平な構造を有し,下位の崖錐堆積物層を軽微な傾斜不整合で覆う。なお,腐植土層下の崖錐堆積物中には腐植分が滲みだして,基質が黒色を帯びている。一方,低崖部では,腐植土層は崖錐堆積物の構造を切って斜面なりに堆積し,不整合面から離れると傾斜が緩くなる。このような構造は崩積土に良く見られ,低崖を覆う腐植土層は上部の平坦面を構成する腐植土層が再堆積したものであると推定される。また,低崖下部の腐植土層にはほぼ水平な堆積構造が認められ,腐植土の再堆積に際しては雨水や背後斜面を穿つ小沢からの表流水が関与した可能性がある。
以上の結果から,坪沼第一トレンチでは,掘削した低崖は断層運動に伴う変位崖ではなく,侵食崖であると判断される。なお,本トレンチより山側で実施したボーリング調査では,トレンチ掘削対象よりも山側に断層が想定されており,トレンチ背後の低崖は断層に伴う変位崖である疑いがある。
写真4−1−11 坪沼第一トレンチ(遠景)
坪沼川左岸に広がる南向き斜面下部で掘削。土砂が露出している箇所がトレンチ掘削地点。
図4−1−9 坪沼第一トレンチ周辺の平板測量結果図(縮尺1/200)
写真4−1−12 坪沼第一トレンチ 東側法面
写真4−1−13 坪沼第一トレンチ 西側法面
写真4−1−14 坪沼第一トレンチ 北側法面
図4−1−10 坪沼第一トレンチ 東側法面スケッチ(縮尺1/20)