2−3 考察および評価

解析結果で得られた深度断面図に対して、特徴的な反射波境界および推定される断層について解釈を行った結果を図2−11−1図2−11−2図2−11−3に示す。図中に示した数値は、反射法処理により求めた地層のP波区間速度である。

 調査地は、北は七北田川の南から、南は広瀬川を超え名取川に至るいわゆる仙台平野に位置している。この地域は、地質図によれば地表近くは第四紀の段丘堆積物等に覆われているが、その下位には新第三紀鮮新世の堆積物(仙台層群とよばれる)、さらに中新世の秋保層群、名取層群と呼ばれる地層が分布し、最下位には先第三紀の古い地層(詳細はわからない)が基盤岩として分布していると考えられる。図1−1の重力図によれば、重力値(ブーゲー異常値)は、大略東の海岸付近から西の陸側に向かって徐々に小さくなっている。すなわち、先第三紀の地層は東から西の陸側に向かって深くなることが想定される。先第三系基盤までの深度は、場所によってやや変化があるが調査測線直下では 0.5〜0.75km 程度と想定される。

(1)測線1(図2−11−1

 測線1では図のようにA,B,C,D,E,Fの反射波境界を示した。この中で最も連続性がよく断面図全体に追跡出来るのはC、D面である。しかし、この面は受振点(RP)220付近で不明瞭になり、その東側で大きく下方に撓曲し、最終的には約150−200mの深度差になる。

 ここで、従来からいわれている大年寺山断層は地表ではRP.220に、長町―利府構造線は撓曲がもっとも大きいRP.300付近に対応している。この二つの断層面の推定位置をそれぞれF2,F1で示したが、長町―利府構造線には、この測線では殆ど断層落差がみられず、大きな撓曲構造として現われている。また、C−D間の地層は西から東に向かって薄くなっている。

 C面の上部ではこの撓曲帯の東側で、A,B,面を定義したが、これの西側への追跡は困難である。B−C間の地層は、C―D間とは逆に東に向かってやや厚くなっている。

 E面はやや不連続であるが、全体的に追跡出来、D−E間の地層は、東に向かってやや薄くなり、殆ど消滅するように見える。

 F面は、読み取れる最深の反射面であるが、極めて不連続で凹凸に富んでいる。重力のデータなどとも対比して、この面から下が先第三紀の地層と考えたが、いまのところ直接的な資料はない。なお、基盤の速度を 4.7km/sec に統一して示しているが、これは、特別に行われた長展開の屈折法の記録(2.2.5参照)より推定したものである。

 断面図に示された地層速度と堆積のパターンなどから推定すると、各地層は概略、

地表からD面まで:第四紀および第三紀上部

D−Fまで :第三紀中新世

のものと推定される。

 なお、この解釈図では大年寺山断層は30m程度の落差をもつものとして解釈したが、地層の区間速度や反射波の特徴を比較すると断層西側のD面が断層東側のC面に対比され、大年寺山断層が80m程の落差をもつものとして考えることもできることを付言しておく。

(2)測線2(図2−11−2

 測線2では、原記録中にはかなりはっきりと反射面が見られるが、重合処理を行った結果、反射面の連続性が極めて悪いことがわかった。これは、測線の中央部全体が断層帯になっているためとも考えられるが、堆積環境が測線1や3とは異なることも影響していると考えられる。図中に引いたA〜Gの層は、測線1や3とはまったく独立して命名している。ただしGは基盤上部と解釈した。

測線中央部の RP.100−300 にかけてが重合数が比較的高いにもかかわらず、特に反射波の連続性が悪い。両端の反射波は比較的連続している。

速度構造を見ると、反射波の連続性が悪い中央部で、基盤より上部と推定される地層の速度が周辺より速くなっている。

(3)測線3(図2−11−3

 全体に反射波の連続性がよく、東側に急傾斜している。測線西側では特に傾斜が急であり、西端の地表付近では 50〜60 度に達し、地表付近が地層の削剥面になっている。東側では比較的緩やか(0〜20度程度)になってくる。この急傾斜部分が測線1で見られた長町−利府線の南延長に当たると考えることもできるが、深部には落差の少ない断層が検出できるものの、地表付近では断層は検出できない。

 測線1と同じようにA,B,C,D,E,Fの反射境界を定義したが、地層速度、反射波パターンともによく対応しているものと考える。B及びC面は明瞭な不整合面を示し、測線1においてもこの傾向は認められる。測線西側の深部では突如反射が乏しくなるが、この部分はより時代の古い地層が盛り上がっていると考えられる。重合速度の解析結果からも、西側で急激に速度が増加している。この傾向は、タイムターム法による屈折波の速度解析結果(図2−4−3)とも整合する。この測線の西北および西側近くには、地質図上で、第三紀中新世中、下部の旗立層、高館層の露頭があり、D―E間およびE−F間の地層に対応している可能性がある。

(4)屈折法

 屈折法の結果は以下の通りである。

・Line−1 の東側(VP.500, VP.800)からの屈折波からは、第1層2000m/s、第2層4700m/s の屈折初動が見られる。第2層の速度は第1層と比較して極端に速くなっている。

・西側東北大学構内の発震点による屈折反射は、発震点が丘陵の上にあるためかシグナルレベルが弱い。

・VP. 1 での屈折からは第1層2000m/s、第2層2700m/s 程度であると推定される。第2層の速度は、測線東側と比較してかなり遅くなっている様であるが、その下に更に高速度の層がある可能性もある。

 ここで第1層としたものは新第三系鮮新世の仙台層群、第2層は基盤の中古生層に相当すると考えられる。

(5) まとめ

 従来、長町−利府線は広瀬川南側の青葉山周辺の地形・地質の観察から北西上がりの傾斜の逆断層とされてきたが、市街地をとおる反射法断面図からは最大傾斜30度程度の撓曲しか認められない。その西側に位置する大年寺山断層が、長町−利府線の構造運動に伴って生じた断層と解釈することができる。

 変位量を見ると長町−利府線の褶曲が全体で150−200m程度の西上がり、大年寺山断層が約30mの西落ちの構造帯ということになる。

測線2については、測線1や3とは直接対比できず、この部分での断層帯が複雑であることがわかった。

 測線3で見られた急激な西上がりの傾斜は、測線1の長町−利府線の撓曲の東翼部に対応すると解釈することもできるが、構造が両測線の間で連続しているかどうか、不明である。