B1−5、B1−6の採取コアは乱れが少なく比較的良好で、断層でせん断されたような破砕帯は認められない。
B1−5、B1−6のコアの火山灰分析によると、B1−5の深度6.20m付近、及びB1−6の深度6.0m付近のコアから多量のAT火山灰が検出された。従来の研究から、AT火山灰の噴出年代は約22,000〜25,000年前と考えられている。コア試料の年代が22700±100 yBP(B1−5の6.20m付近)、21130±100 yBP(B1−6の6.0m付近)であることから、これらの年代値は地層の形成年代を示すとしても矛盾しない。
B1−5、B1−6の両ボーリングのコアには、中間の特定の深度に酸化鉄やマンガンが濃集した箇所がある。例えば、B1−5の8.2〜9.7m、B1−6の8.4〜10.1mが酸化帯である。これらの地層は岩相上よく似ている。この中間深度(酸化帯)から得られた試料の年代が、B1−3、B1−5、B1−6とも上位層よりも若く出る傾向がある。
以上の結果から、平成12年度調査のB1−3においてみられた試料の年代値と深度の逆転は、B1−5およびB1−6においても確認され、約1万年前より若い年代を示す試料を含む地層が、約15,000年〜22,000年前の年代を示す試料を含む地層の下位に存在するらしいということがわかった。このような状況の説明として、以下のようなケースが考えられる。
@ デコルマン*のような低角逆断層が存在し、古い地層が若い地層を被った。
(深度はB1−5で7.5m、B1−6で7.7m付近)
試料の年代値がすべて地層の年代値をあらわしているとした場合、低角逆断層の存在が考えられる。断層の活動時期については、B1−5の中間の5,900±40 yBPの年代を示す地層が古い地層に被われていることから、断層が約6,000年前以降に活動した可能性がある。このときの鉛直変位量はかなり大きく、およそ10mに及ぶことになる。
A 年代値の異常
採取した年代試料が上位層から下位層に侵入した場合で、例えば、地層の堆積後に、亀裂や植物根に沿って若い年代の炭質物が上位層や地表から移動・濃集した(物理的汚染)ことが考えられる。また、旧地表面と考えられる腐植土層は層序と矛盾しない年代値が得られているのに対し、マンガンの濃集した酸化帯では年代値が若く出る傾向があるため、酸化鉱物の濃集に伴って地中で新しい年代の炭素が付着するなど、酸化帯の形成に伴って年代の異常を生ずる何らかのメカニズムの作用が考えられる。
2つのケースについて考察すると、低角逆断層が存在する場合は、トレンチ内のF3断層の下盤側にも変形した地層が見られることや、Mf層の変形が著しく、累積変位が大きい可能性が考えられることと矛盾しない。しかし、B1−3、B1−5、B1−6のコアからは断層の存在を示す直接的な証拠はなく、また地表面においても調査地点の東方には断層変位を強く示唆する地形は認められない。一方、年代を測定した試料が外部から混入したものとすれば、1万年前より若い年代を示す試料が深度7mよりも深いところにそろってみられる理由を説明することは難しい。ただし、地下水の流動や、酸化鉱物の生成に関わって新しい時代の炭素が固定された可能性も否定できない。
以上の結果から、F1〜F3断層よりも深部に完新統を変位させるような低角の逆断層が存在する可能性については平成12年度調査の時点に比較すると高まったと言えるが、これまで得られた地形・地質情報の限りでは結論することがなお困難であり、東方に延長した地点における追加情報が必要である。
鳥戸断層の低角逆断層の有無については、これまで得られた地形・地質情報では結論を出すことが困難であり、追加情報が必要である。
なお、B1−3とB1−6は岩相も年代も異なるため、間に急傾斜の不整合面が考えられ、B1−3は深い谷を形成した後に堆積した可能性がある。
なお、年代が追加されたことに伴いトレンチT1(昨年度)の構造を検討する。B1−5の深度3.4〜3.57mの年代が18660±70 yBPである。この部分はトレンチのM層中の地すべり部分に当たる。同じくトレンチT1で見られた縦亀裂に落ち込んだ土壌の年代が22220±80 yBPであることと比較して、これらはほぼ同時代と見てよい。ただし、この年代はM段丘層の年代が約5万年前とされているため、整合しない。この解釈として、地すべり位置の土壌も縦亀裂に落ち込んだ土壌と同様に、亀裂に落ち込んだ土壌の可能性が考えられる。
*(注)デコルマン(decollement):特定の地層から上の一連の地層が下位の基盤から分離し、下盤とはほとんど無関係に変位・変形している構造。横圧力によって基盤と平行に滑動して衝上断層やこれに伴う褶曲を形成する。〔新版地学事典〕
図3−1−1 トレンチT1付近の断面図(鳥戸断層)