今年度の調査で明らかになった布引山地東縁断層帯(南部)の活動は以下のとおりである。これは平成12年度及び13年度の調査結果を合わせて検討したものである。
@ 鳥戸断層:トレンチT1地点(平成12,13年度)
トレンチT1において、F1〜F3の3断層が確認された。F1断層は、約12,000 yBPの炭化物を含む地層を切っていることから、約1.2万年前以降に活動した。上位の820yBPの地層には変位が見られないから、この活動は約900年前以前である。F2断層はF1とほぼ同様の地層を変位させている。
F3断層に沿っては、中位段丘礫層Mfに著しい変形が認められ、F1,F2の活動より前の活動を示唆しているが、その年代は特定できない。
なお、F1断層よりさらに平野側において行った追加ボーリング調査の結果、隣合う3本のボーリングにおいて、試料の年代値が深度方向に逆転することが認められた。このことはトレンチの下を通る低角逆断層の存在を強く示唆するが、地表面において対応が確認できる断層変位地形は認められない。
A 山口断層:トレンチT2地点(平成12年度)
平成11年度の露頭調査において、約1万年前の土壌に衝上する逆断層が確認された。また、断層上端付近に、この土壌化層上に崩落した可能性の高い礫層が見出されること、およびその上位を覆う腐植混じり砂層の年代もほぼ1万年前であることから、断層活動の時期は約1万年前である可能性が高い。これらのことから、この断層は約1万年前以降に活動したと言える。
なお、直近のトレンチT2においては、露頭のものと同じと考えられる断層上に位置する約1,300yBP以降の砂層には変位が認められないことから、この年代以降には活動がない。
B 片野断層:トレンチT3.2〜T3.3地点(平成12,13年度)
トレンチT3.2においては約2万年前に形成されたと推定されるL2段丘礫層を切る逆断層が確認された。この断層は上位の砂・砂礫互層(L3段丘礫層相当)を変位させているが、その上位にのる9,800yBPの年代を示す土壌化層A3(礫混じり暗褐色土)には変位が認められない。また、今年度のT3.3でL3段丘礫層下部層の年代が約11,000年前であることがわかった。このことから、片野断層の断層活動は〔断層活動1〕(約2万年前〜約11,000年前にL2段丘礫層相当層が変位)と〔断層活動2〕(約11,000年前〜約9,800年前にL3段丘礫層相当の砂・砂礫互層が変位)の2回と考えられる。
これらの結果と平成10年度の椋本断層の調査結果を併せて表示すると、布引山地東縁断層帯(北部・南部)の活動は図3−2−1のようになる。同図で、山口断層と片野断層の最新活動時期が約1万年前で一致しており、両断層の活動の連動の可能性が示唆される。
一方、鳥戸断層のトレンチT1では「約1.2万年前〜約900 yBP」の他にも、ボーリングから「約6,000年前以降の活動」が推定されており、この点は今後の検討課題である。
なお、布引山地東縁断層帯(北部)の椋本断層と同断層帯(南部)の各断層とは活動時期が重複しているが、別の断層セグメントの可能性があり(後述)、関連性については明らかでない。
(2) 布引山地東縁断層帯の断層分布とセグメント区分
付図3に布引山地東縁断層帯(北部・南部)の活断層総合解析図(1:50,000)を示す。
(a) 断層分布による区分
以下、布引山地東縁断層帯における各断層の形態による区分の可能性を述べる。
形態による区分の方法として、次の点に注目する。
a.断層帯の全体の方向が急に大きく変化する場合
b.断層帯の全体の方向と異なる方向の分岐断層が出現する場合
c.断層帯と大地形の境界との位置関係
これらの注目点のうち、b.は“断層の末端部は分岐する”という考え方(中田・島崎・鈴木,1998)を参考にしたものである。
まず、北方の鈴鹿東縁断層帯と布引山地東縁断層帯は、それぞれ断層帯全体が南北方向であるのに対し、その間にはこれとは異なる北東−南西方向に分布する断層(坂本断層)が存在することから、この境界で区切ることができる。また、布引山地東縁断層帯(北部)はほぼ南北方向に分布しており、形態上、一括できると見られる。布引山地東縁断層帯(北部)の南端部で、庄田断層は、他の断層が南北方向であるのに対し、北東−南西方向へと大きく方向を変えている。また、南端部は庄田断層と風早池断層に分岐していると見ることもできる。このことから、布引山地東縁断層帯は北部と南部の境界付近で区分できる。
布引山地東縁断層帯(南部)の小山断層ではH面の撓曲の方向(北東−南西:これを“小山撓曲”とする)と、鳥戸断層及び山口断層とは雁行しているが、全体としては直線的に続く。六呂木断層〜片野断層は分布が連続していることから一連の断層と見られる(岡田・東郷、2000と同じ)。あるいは、山口断層の南方延長が屈曲して六呂木断層〜片野断層に連続すると見ることも可能である。
また、布引山地東縁断層帯の各断層と大地形境界との位置関係から見れば、布引山地東縁断層帯(北部)は大半が前縁断層、同断層帯(南部)では小山断層・鳥戸断層・山口断層はほぼ境界断層、六呂木〜片野断層は花崗岩基盤岩中に分布し、いずれでもない。この意味では布引山地東縁断層帯の“北部”と“南部”は区分できる。
以上のことから、布引山地東縁断層帯は鈴鹿東縁断層帯とは区別され、さらに布引山地東縁断層帯(北部・南部)は、分布形態から次の2つに区分される。
@ 布引山地東縁断層帯(北部)全域
A 布引山地東縁断層帯(南部)全域
ただし、断層変位地形の分布形態だけからセグメントを区分することは困難である。
(b) 断層の活動時期による区分
活動時期に着目した場合、本断層帯は以下のように区分できる(それぞれの分布範囲については、付図3、活断層総合解析図を参照)。
@ H面およびM面以降の地形面を変位させている区間
A M面以降の地形面のみ変位させている区間
B H面には変位が見られるがM面を変位させていない区間
名称によって区分した既存の各断層との対応では、Aの区間にはM面の形成時代以降に活動したとされる庄田断層だけが該当し、Bの区間には明星ヶ岳断層、風早池断層、小山断層(小山撓曲)が該当する。その他の断層は@に相当し、古くからM面形成時代以降最近まで継続的に活動したとみられる。
風早池断層と小山断層(小山撓曲)は分布域がやや離れているが、走向が一致しており、かつて一連の活動をしていた可能性も考えられる。ただし、これらの断層にはM面以降の地形面に活動の徴候がないことから、布引山地東縁断層帯の北部〜南部の境界付近の活動は、「風早池断層〜小山断層」系列から「一志断層(長谷山東方)〜庄田断層」系列へと活動の場が移ったものと解釈される。@、Aの最近の活動だけを見ると、Bのうち小山断層に相当する区間の約7 kmが空白となる。松田(1999)は、断層帯の間に5 km以上の空白がある場合は別の断層帯として扱っており、これに従えば、今後の活動性に着目した場合には、布引山地東縁断層帯を北部と南部に分割できる。
既存の地質図(「津西部」図幅)では、風早池断層の北方付近に「片田撓曲群」が、西側一帯には「久居撓曲」が表示されており、第三紀末〜第四紀更新世前半には長谷山の東方から風早池断層付近にかけて構造変形が進行し、撓曲帯と断層変位地形を形成したと推定される。
(c) 平均変位速度による区分
図3−2−2に布引山地東縁断層帯(北部・南部を含む)の地形面の平均変位速度分布を示す。同図には参考まで鈴鹿東縁断層帯(平成7年度調査)の結果も併せて示した。図中の区分は「境界断層、前縁断層、その他(花崗岩基盤岩中の断層)」の3つとした。横軸は便宜的に布引山地東縁断層帯南方の中央構造線を起点とする“距離”をとった。
図3−2−2から、平均変位速度の全体の分布傾向にはいくつかの山がみられる。区分としては、鈴鹿東縁断層帯(北部)の南端部で変位速度が著しく低下することから、ここで区切ることができる。布引山地東縁断層帯は、北部も南部も変位速度が0.1(m/千年)前後で、ほぼ同等と見ることができる。これに対し、鈴鹿東縁断層帯では0.1〜0.3(m/千年)と、布引山地東縁断層帯より大きい傾向がある。同図には変位速度の分布傾向を包絡線状の破線で示した。ただし、変位基準がないか、または変位地形が不明瞭なために変位速度が不明の部分は“?”を付けた。例えば布引山地東縁断層帯(北部)の椋本断層の南端33km付近(安濃町安部:戸島西方断層の延長)は変位速度が極めて小さくなることが確認されている。また、小山断層(小山撓曲)付近は中位面以降の最近の活動が認められないことから変位速度の区分から除外される。同様の理由で風早池断層も除外される。
以上の平均変位速度の分布傾向から、布引山地東縁断層帯は以下のように区分される。
@(断層帯北部)白木断層〜椋本断層〜戸島西方断層
A(断層帯北部〜南部)戸島西方断層南方〜庄田断層
B(断層帯南部)鳥戸断層〜山口断層〜六呂木断層〜片野断層
(d) セグメント区分の可能性
以上の各断層帯(布引山地東縁断層帯(北部)、布引山地東縁断層帯(南部))の分布形態、活動時期、及び平均変位速度による区分を総合して、セグメント区分について検討した。
セグメント区分においては、断層の分布形態や平均変位速度も重要ではあるが、断層の活動時期が最も重要な要素である。最近の活断層研究においては、活断層の活動について最近十数万年の活動に注目している(活断層詳細デジタルマップ,2002など)。すなわち、高位面以前の古い活動傾向よりも、中位面以降の最近の活動傾向の方が今後の活動性について高い精度で判断できると考えられている。
前述の平均変位速度による区分では、布引山地東縁断層帯が、戸島西方断層南方で区切られるとした。しかし、平均変位速度の傾向から別の区分となっても、同時に活動しないという確証はないため、活動時期の新期活動区間を重視すれば、図3−2−2のようなセグメント区分が可能である。すなわち、布引山地東縁断層帯のセグメント区分は以下のようになる。
〔セグメント1〕布引山地東縁断層帯(北部)全体 :延長約27 km
〔セグメント2〕(南部)鳥戸断層〜山口断層〜六呂木断層〜片野断層:延長約17 km
以上のセグメント区分において、布引山地東縁断層帯(南部)のうち小山断層の区間(約 7 km)は旧期活動区間であって最近の活動がないため、今後活動する可能性がない区間と判断される。
したがって、本県が防災対策において考慮すべき起震断層の断層長は、布引山地東縁断層帯(北部)が27km、布引山地東縁断層帯(南部)が17kmとなる。
(3) 断層長による地震規模の想定
起震断層における地震のマグニチュード(ML)、断層の長さ(L)との間には松田(1975)の経験式がある。すなわち、
<断層長とマグニチュードの関係>
logL=0.6 ML−2.9 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
ただし、L:断層長(km)
ML:断層長Lの時の最大マグニチュード
ここで、断層長は布引山地東縁断層帯(北部)が27km、布引山地東縁断層帯(南部)が17kmである。(1)式にこれらの断層長を代入すると、各断層帯の活動によって想定される地震規模は
・ 布引山地東縁断層帯(北部):ML=7.2
・ 布引山地東縁断層帯(南部):ML=6.9
となる。
したがって、本県が地域防災計画を策定する場合には、上記の値を用いるのが妥当である。