今回の変形構造も基本的にT3.2とほぼ平行であるが、L3段丘礫層相当層(シルト質砂と砂礫の互層、フラッドローム)の撓曲に伴う短縮しわや、肩部のL2段丘礫層にわずかながらL3段丘礫層相当の砂層がのる構造が見られた。また、肩部の互層は、一部、地すべり状にずり落ちたと見られる構造がある。
以下、地層内容は昨年度のトレンチT3.2と同様なので、各地層の名称は昨年度の名称を踏襲した。
(1) トレンチで見られた地層構成
トレンチに現れた地層は、上位に土壌層(A層)が分布するが、下位の地層はトレンチの西側と東側では大きく異なる。すなわち、西側では巨礫層(C層)であるが、東側では砂礫層及び砂層、一部シルト層との互層である(B層)。概要を以下に示す。
・土壌層(A層)−−−A1(耕作土)
A2(黒色土:黒ボク)
A3(暗褐色土:礫混じり土壌化層)
・細粒砂礫層(B層)−B(砂・砂礫の互層)
B1(砂質シルト:フラッドローム)
B2〜B5(砂層、間に砂礫Sgを挟む)
・巨礫層(C層)−−−C(花崗閃緑岩の巨礫や緑色片岩礫を多数含む)
各地層の14C年代は、今年度の調査結果だけでなく昨年度の結果も合わせて検討すると、以下のようになる(*印は昨年度の結果を用いたもの)。
・ B5:約11,000 yBP
・ B4:9,300 yBP*
・ B2:9,600 yBP
・ B1:11,000 yBP*
・ A3:9,800 yBP*
・ A2:6,700 yBP
年代値は同一層準でもばらつきがあり、地質層序が逆転することもある。そのため、地層の年代を一義的には決められないが、年代試料の大半が縦に侵入したようなストロー状の炭化物(樹根か)であるため、できるだけ古い年代を示すものがその試料を含む地層の形成年代に近いものと考えられる。
(2) 地質構造
B層は下部層のB4〜B5が、横座標0〜1.5でC層の上にアバット状に堆積している。この下部層B4〜B5は横座標2付近でL型に撓曲している。横座標1〜2、縦座標0〜−1付近の撓曲の肩部のB4〜B5は層厚の増大や堆積構造の乱れなどが認められ、これらは傾斜の増加に伴って地すべり状にずり落ちた可能性がある。B2〜B4はいずれも鈎型の突起または庇状の形状を示し、スケッチ図の左下に推定される逆断層(西上がり)の延長上に並ぶ。これらの突起形状の成因については総合検討で考察する。
土壌層のA2、A3は緩く東に傾斜するが、壁面の東側ではほぼ水平になる。B5、Sg3、B4の西端は表層からの土壌化進行のために不明瞭となるが、トレンチの範囲内ではほぼ等厚で、L2面構成層相当のC層上にのっていることが確認された。
(3) 断層活動の考察
以下、昨年度のトレンチ調査結果と合わせて考察する。
L3段丘礫層相当層は主に下盤側に分布しているが、撓曲の肩部にもアバット状に堆積している。このことから、L2面形成以降(約2万年前以降)、L3段丘礫層相当層の堆積以前にも、1つ前の活動があったと推定される。
本来、水平に堆積したと考えられるB2〜B5’が撓曲していることから、それらの堆積後に断層変形を受けたことは確実である。B1より上位は若干、東に傾斜しているものの、Sg1に見られた鈎状(庇状)突起がB1まで及んでいない(平成12年度:S面)ので、B1は変形していないと考えられる。しかし、B1の分布が限られているため変形が及んでいないかどうかは断定できず、断層変形の及ばないことが確実な層準はA3、またはA2となる。
以上の変形構造を生じた断層活動の履歴は以下のようにまとめられる。
・ 過去の断層変位の低崖(花崗岩基盤の上面)を削ってC層が堆積(約2万年前)
・ 断層変位@・・・C層が平行変形
・ C層上盤側上面の側方を侵食しながらB5層〜B2層が堆積(約11,000年前以降)
・ 断層変位A・・・その直後にB5〜B2層がL型に撓曲し、同時に庇状〜鈎状の変形を生じた
・ B1〜SgU1が堆積し、土壌層A層が形成された(約9,800前)
したがって、片野断層におけるトレンチT3.3での断層活動は以下の2回と考えられる。
〔断層活動@〕 約2万年前〜約11,000年前
〔断層活動A〕 約11,000年前〜約9,800年前
この断層活動Aが最新活動と考えられる。