トレンチT3.2の調査結果(各論)では、L3相当の新期砂礫層やフラッドロームが断層の下盤側にのみ分布するのか(ケース1)、断層の両側に分布するのか(ケース2)について、トレンチT3.2だけでは判断できないとして両論併記とした。以下、両ケースの地質、地形条件を含めて検討する。
@ トレンチ内、及び周辺の地層分布による考察
トレンチT3.2のL3相当の新期砂礫層のうち、下部のB5’〜B4はトレンチ底部で確認されたせん断面(横座標3〜4の底部:以下、単にせん断面とする)よりも西側、すなわち上盤側にも分布することから、ケース2に合致する。しかし、N面ではB5’、B5,B4とも西側(上方)でせん滅するように見えることから、せん断面よりも西側に西上がりの低断層崖が存在した可能性が示唆される。その場合にはケース1でも可能で、B5’〜B4は断層崖の下盤側にのみアバットして堆積したものと解釈される。
また、トレンチT3.1(ボーリングB5−1,B5−2を含む)や図3−3でもL3相当の新期砂礫層やフラッドロームが認められないことから、断層の上盤側にもこれらの地層が堆積していたとは考えにくい。
なお、トレンチT3.2ではL3相当の砂礫層やフラッドロームが断層のほぼ下盤側にのみ分布しているように見える。これは、L3相当層がトレンチT3.1〜T3.2をかすめるようにして断層の下盤側に回り込んで広く氾濫し、堆積したためと想定される。写真判読でも、トレンチT3付近の北方のL1面・L2面境界は高低差が少なくやや判別しにくいことから、L3相当層は低所を埋積するように断層の下盤側にのみ堆積したことが考えられる。
A 微地形による考察
空中写真によるトレンチT3.1及びT3.2周辺の微地形判読によれば、トレンチ周辺や西方で削り残された残丘や旧流路のような地形は認められない。かつ、L3の上部層は巨礫を含まない砂礫や砂であるため、一旦、断層の上盤にも堆積した後、すべて侵食する流送力があったかどうかは疑問である。この点ではケース1を支持する。
B 変位量による考察
トレンチT3.2においてL3相当の新期砂礫層は著しく変形しており、その急傾斜した部分の上端と下端の比高は2.7mである。また、断層を挟む2本のボーリングで確認された花崗岩基盤の比高は2.6mである。両者を断層活動による鉛直変位量とみなすと、ほぼ同じ値となり、この限りでは断層変位に累積性が認められない。しかし、L3相当層は断層の上盤側には分布しておらず、花崗岩基盤の標高もボーリングで確認したものであるため、基盤上面の凹凸を考慮すれば、変位量とするにはやや信頼性に乏しい。なお、花崗岩基盤の比高2.6mを鉛直変位量とみなすと、断層延長(平成10年度調査)から経験的に知られる1回の変位量としてはやや大きい。このことは断層活動が複数回ある可能性を示唆し、ケース1を支持するが、明確な根拠ではない。
以上の考察から、トレンチT3付近の断層活動については、トレンチ壁面で観察される断層の活動以前にも断層活動が推定される。すなわち、ケース1のようにL3相当の砂礫層の堆積前に1回、ほぼ堆積終了後に1回の計2回と考えられる。また、トレンチT3.2の地層の分布形態から、断層面はトレンチ壁面で確認された1本のせん断面ではなく、複数のせん断面があると推定される。すなわち、T3.2では壁面のせん断面より西側(C層の屈曲部:座標3/0付近から西傾斜)で断層が変位し、その崖下に新期砂礫層の下部層(B5’〜B4)がアバットして堆積し、B2が堆積した後に壁面で確認されたせん断面によって上位のB2まで変形したと考えられる。
以上のように、T3付近の片野断層では、B2堆積後〜A3形成前に確実に1回の断層活動が認められ、その前のC層堆積後〜B5’堆積前にも断層活動が推定される。すなわち、「約2万年前以降〜約9,800年前に2回活動」と結論される。
C L3面の形成過程と断層崖の関係
補足的に、トレンチT3付近のL3面の形成過程と断層崖の保存状況の関係について考察する。トレンチT3.1、T3.2において、L2面構成層の上位に乗る地層のうち、L3相当堆積物B層中のフラッドロームより上位の砂礫層、及びA層中の土壌化層(A3)や黒色土(A2)は、南側に傾斜している(トレンチスケッチT3.2−W面参照)。写真判読でもトレンチの位置する段丘面L2の南端部、L3との境界部では地表が南に傾斜していることがわかる。これらの点から、トレンチT3付近はL2面からL3面への漸移帯に相当すると考えられる。L3相当層は、トレンチT3.1〜T3.2をかすめるようにして断層の下盤側に回り込んでL2面上に広く氾濫し、堆積したと推定される。
L3相当層堆積後に生じた断層崖は、現在の地形には明瞭には認められない。これは断層活動後に堆積した砂礫層によって断層崖が侵食され、フラッドロームが堆積した時期には低崖は存在していなかった可能性がある。このことは、トレンチT3.2のN面でA3層が緩やかに東に傾斜するものの、崖地形はなく、一方、S面ではA3層がほとんど水平であることからも裏付けられる。