上記の結果にボーリングの調査結果、年代試料の測定結果を併せてさらに考察を行う。トレンチ断面にボーリングの柱状図を加えて示すと図3−1のようになる。年代測定の結果では、トレンチ内のLf層下部の砂層中の炭化物が12,150±40 yBPで、ボーリングB1−3の古土壌のうち、@深度9.60−9.66mが8,430±40 yBP、A深度7.60−7.70mが15,720±50 yBP、及びB深度6.05−6.15mが15,740±50 yBPである。年代の@は、AとBよりも若く年代が逆転している。また、トレンチ内試料の年代はボーリングコアの@と年代が逆転しており、両者の標高差は約7.0mである。
このように短い距離で地層の年代が逆転していることの説明としては、2通りの可能性が考えられる。一つは、ボーリングB1−3付近がかつて大きく侵食されて谷を形成し、その後、Lf層上部や沖積層相当の地層が埋めた不整合の可能性が考えられる。しかし、トレンチ壁面にはLf層を侵食した谷(不整合)は認められず、不整合でこれを説明することは困難である。もう一つの解釈は、トレンチで見られた逆断層とは別の断層がある可能性である。断層の深部から分岐してトレンチの下を通り、ボーリングB1−3を貫いて東に抜ける低角逆断層によって、相対的に古い地層が新しい地層の上位に積み重なり、層厚が増大した可能性が考えられる。その場合には、断面図からLf構成層下面の鉛直変位量は約9.0mとなる。試料@とAの間に断層が通るとすれば、その活動年代は@の年代以降、すなわち8,430±40 yBP以降となるが、活動回数や最新活動時期は不明である。仮に、Lf層下面の鉛直変位量9mが、ボーリングB1−3の土壌の年代8,430±40 yBP以降に変位したものとすると、最近約1万年以内の変位量としてはかなり大きい。
上に述べた低角逆断層の有無についてさらに検討するため、年代に関する情報を補強する目的で、ボーリングコアの火山灰分析(深度2.80−22.80m)を行った。その結果、深度8.3m以浅の地層から少数ながらATと考えられる火山ガラスが検出され、それ以深では全く検出されなかった。このことから以下のような推論をおこなった。
8.3m付近より下には、不整合あるいは断層などの地層の不連続が考えられる。8.3m以深に火山ガラスが見られない理由として、それ以下の地層が
(a) ATよりも古い地層
(b) アカホヤAh以前でATよりも相当上位(時代がかなり若い)
の2つの可能性がある。(a)の場合は不整合となり、この時ボーリングコアの@の年代8,430±40 yBPは誤りとなる。(b)の場合は断層の可能性があり、年代@は妥当な値となる。ボーリングコアの試料の年代値が正しいとすれば、(b)のように新しい地層の上に下位の地層が乗り上げた逆断層の可能性が高いと判断される。
上記の検討の結果からは、ボーリング試料の年代値の逆転を説明できるような低角逆断層の存在を結論することはできない。しかし、トレンチ内のLf相当の地層のうち、下部にある礫層B7’が断層の下盤側にあって変形構造が大きいことから、トレンチで見られる断層以外にも断層が存在する可能性が示唆される。一方、空中写真判読によれば、トレンチ地点の南方のMf面(梨畑)には明瞭な撓曲崖があるが、トレンチ地点およびこれより前縁のLf面では、断層の存在を示唆する地形的証拠は認められない。
いずれにしても、ごく近傍で年代の逆転する地層が存在することは、これまでに得られたデータだけでは解釈が困難な問題であるため、今後補足調査を実施することが望まれる。