(2)データ処理

記録された波形を処理して、地下構造を表わす断面図を作成した。データ処理の手順を図2−1−1に示し、以下、その概容を説明する。

なお、本処理には反射法探査データ処理ソフトProMAX を使用した。

(1) 前処理

(a) データの転送と編集

8mm磁気テープから処理装置(ワークステーションSUN Ultra60)にデータを転送し、不必要なデータを取り除く。

(b) 共通反射点編集

発震点・受振点の組み合わせと、測量によって得られた各座標を用いて、各データのCMP(発震点−受振点の中点)の位置を計算し、ショット記録を共通反射点記録に編集した。屈曲した測線においては反射点が2次元的に分布するので、反射点の平均的な位置に仮想の測線(重合測線)を設定し、ばらついた反射点をあたかもその測線上で反射しているように集めた。P1、P2測線の重合測線の位置を、図2−1−2図2−1−4に示す。

(2) 重合前フィルタ

重合前には、できるだけ反射波を強振幅かつインパルス(impulse:瞬間的に振幅を有する波形)に近い波形に変換し、反射波の周波数帯域以外のノイズを弱めたり除去したりするため、デコンボリューション・フィルタ(下記)や帯域通過フィルタなどが適用される。

(a) デコンボリューション・フィルタ*

このフィルタは震源波形、地層特性など反射地震記録に、コンボリューションの関係で含まれている基本波形をインパルスあるいはそれに近い波形に変換するフィルタの一種である。デコンボリューション・フィルタの具体的な効果は以下のとおりである。

・ 様々な周波数成分をもつ間延びした反射波を,インパルスに近い(高周波かつ分解能の高い)波に変換する。

・ 主として浅部の影響による重複反射波を除去または弱め、独立した反射波に変換する。

*(注)線形フィルターをかけることをコンボリューション(convolution)、その逆操作をデコンボリューション(deconvolution)と言う。

(b) 帯域通過フィルタ

信号である反射波とノイズである他の波との周波数帯域が異なっている場合には、反射波の帯域のみを通す帯域通過フィルタをかけることにより、S/N比(signal − noise ratio)の向上が期待できる。そのためには周波数領域でフィルタを設計し、それをフーリエ変換して時間領域のフィルタ・オペレータを求め、反射記録にコンボリューションする。具体的には何種類かの帯域のフィルタ・テストを実施して、最適なものを適用する。

(3) 静補正

発震点および受振点の標高差、表層付近での弾性波の速度差による反射波の遅速、表層の厚さの変化による反射波の遅速などを補正する(前一者は標高(地形)補正、後二者は表層(風化層)補正と呼ばれる)。これを実施しない場合には構造解釈を誤ったり、水平重合法において反射波そのものを消去することがある。

具体的には、各発震点・受振点の標高の移動平均を仮想の基準面とし、あたかもその基準面上で測定が行われたかのように各発震点、各受振点の記録を上下させる。

なお、本処理での最終の基準面は、P1、P2測線とも標高100mとした。

表層(風化層)補正は、ショット記録の初動から屈折法の解析を行って求められる。

本処理では、全ショット記録を用いた屈折トモグラフィーによる表層解析を行い、補正量を求めている。屈折トモグラフィー解析により得られたP1、P2測線の表層付近の速度分布を図2−1−6図2−1−7に示す。

(4) 速度解析

CMP重合に用いる重合速度分布を求める処理である。具体的には、様々な重合速度でNMO補正(後述)、水平重合を施し、そのうち反射波の振幅強度が最大となったときの速度を最適な重合速度として採用する。速度解析はこのような最適な重合速度を時間の関数として選んでいくものである。速度解析は、測線に沿ったある間隔で行われ、その間の速度は内挿により求められる。ここで求められる速度は重合速度と呼ばれ、地層が水平な場合は RMS速度に近似的に一致するが、地層が傾斜している場合にはRMS速度より速くなり、また傾斜が急であるほど速い値となる。速度解析の方法としては、定速度走査法と定速度重合法があるが、ここでは両方を用いた。

(5) NMO補正およびCMP重合

CMPアンサンブル(各CMP毎に対応するデータを集めたもの)に対して発震点・受振点間距離の違いによる反射波の到達時間(走時)の遅れを補正し、発震点と受振点が同一位置にある場合(ゼロオフセット)の走時に合わせる操作が NMO補正である(NMO:normal move−out correction)。NMO補正を行うにはあらかじめ地下の速度分布を設定する必要があり、通常は速度解析により得られた速度分布を用いる。このNMO補正後のCMPアンサンブルを足し合わせて、反射波を強調する操作が水平重合(CMP重合)である。共通反射点Pでは、A−P−a,B−P−b,C−P−c,D−P−d,E−P−e およびF−P−f のそれぞれ異なった経路をもつ反射記録(T) が得られる。P点からの反射波の走時は、水平距離Xの増加とともに遅くなっている。次に速度解析で得られた速度を用いてp−P−p 経路の仮想の記録に合わせる(NMO補正)と、P点からの反射波はいずれの経路のものもほぼ同じ走時の記録(U) が得られる。さらにこれらを足し合わせる(水平重合)と、ランダムなノイズや反射波以外の波は打ち消しあって相対的に弱くなり、逆にP点からの反射波は加算され、強調された記録(V)が得られる。

(6) 残差静補正

高度補正や表層補正を施した後でも,初動屈折波と反射波の経路の違いによる時間の不規則性や、表層補正で行う2層構造の仮定を採用したことによる局所的な速度の異常に起因するものは完全には補正されず、CMPアンサンブル内での同一反射の到達時間は一定ではないのが普通である。水平重合反射法探査においては、最適なCMPアンサンブル群が得られるように統計的処理を施してこの時間差を補正し、各発震点および受振点における2次補正値を求める。

(7) 重合後フィルタ

重合後のフィルタとしては、重合断面をより地下構造を反映した断面にすることを目的に用いられ、通常、帯域通過フィルタ、F−Kフィルタ、デコンボリューション・フィルタなどが使用される。

(8) マイグレーション

傾斜した地層から反射した波でも各データの直下に表示されるため、重合記録上の反射面の傾斜や位置は地下の実際の反射面とは異なってくる。記録上での見かけの傾斜や位置を移動させて、真の傾斜および位置に復元することをマイグレーション処理という。マイグレーションの方法としては波動方程式マイグレーションが最も一般的で、計算手法により差分法、F−K法などがある。

ここでは、地下の速度分布が不明確な場合やノイズの多い記録に有効な差分法を用いた。

マイグレーションに使用する速度としては、通常、水平多層構造の場合には重合速度をそのまま用いるが、反射波が傾斜している場合に重合速度をそのまま用いるとオーバーマイグレーションの可能性が出てくる。

(9) 深度変換

(8)までの処理によって得られる断面図の縦軸は時間である。地下構造を解釈するためには時間軸を深度軸に変換する必要がある。地下の速度分布を仮定して縦軸を深度に変換する。深度変換に使用する速度には、通常、重合速度から得られる区間速度が用いられるが、ここでは地層の傾斜等を考慮した。

(10) 断面図作成

以上の処理を施した両測線のマイグレーション前の時間断面図、深度断面図、マイグレーション後の時間断面図、深度断面図およびカラー表示深度断面図を作成した(巻末に掲載)。

本データ処理に用いられたパラメータを、表2−1−5にまとめて示す。

表2−1−5 浅層反射法探査のデータ処理