(5)トレンチT3.2(片野断層)

(1) トレンチの地層構成

トレンチT3.2の壁面写真とスケッチ図を図2−3−4−1図2−3−4−2に示す。

トレンチに現れた地層は、上位が土壌層(A層)であるが、下位の地層はトレンチの西側と東側では大きく異なる。すなわち、西側では巨礫層(C層)であるが、東側では砂礫層及び砂層、一部シルト層との互層である(B層)。概要を以下に示す。

土壌層(A層)−−−A1(耕作土)

A2(黒色土:黒ボク)

A3(礫混じり暗褐色土:土壌化層)

・細粒砂礫層(B層)−B1(砂質シルト:フラッドローム)

            B2〜B5’(砂層、間に砂礫層Sg1〜Sg3を挟む)

             Sg−U1〜U2(B層の上部に位置する砂礫層)

・巨礫層(C層)−−−C(花崗閃緑岩の巨礫を多数含む)

C−S(砂優勢の砂礫層の挟み)

A3は礫混じりの暗褐色土で、礫層(B、C)の上部が土壌化したものと思われる。巨礫層(C層)は本トレンチの西側に隣接するT3.1のC層と同様に、花崗閃緑岩質の最大径90cmの巨礫や緑色片岩を含み、全体に礫が卓越する。同層には中間に砂層(C−S)が挟まれる。B層は3〜4層の細砂〜中砂と、これらと互層する砂礫からなる。この互層部分はN面で明瞭だが、S面ではB2以下がやや不明瞭である。砂層にはシルト質の部分(B1、B5’)があり、このうち上位のB1は黄褐色の砂質シルトである。B1は段丘礫層の堆積末期のフラッドロ−ムと見られる。N面ではさらに上位に砂礫層(Sg−U1)がのる。一方、S面ではB1とほぼ同一層準に砂礫層Sg−U2がC層を不整合に被い、上位にSg−U1を載せる。

これらの地層の14C年代はA3が9,800±110 yBP、B1が11,220±40 yBP、B4が9,300±40 yBPとなっている。B1とB4の年代は逆転しているが、B4の試料は上位から侵入した樹根の可能性がある。また、B5の年代値は940±40 yBPであるが、この試料も上位から侵入した樹根の可能性が高い。

(2) 地質構造

C層は砂質挟み層のC−Sが西側で水平だが、座標3付近で急に下に折れ曲がる。B層は下位層B4〜B5’が椅子型に屈曲している。砂礫層Sg1の上面は砂層B2に対し庇状に突出している。これはN面、S面とも同様である。黒色土A2の下面は水平か緩く東に傾斜し、土壌化層A4もほぼ同様である。トレンチ中央の座標4の下部ではC層の小礫が西に傾斜して配列する傾向があり、これは片野断層のせん断面に相当すると見られる。また、B5’は座標3付近より東側にのみ分布し、上方(西側)はせん滅するように見える。屈曲の上方でせん滅する傾向はB5、B3も同様である。 

(3) 断層活動の考察

以下、堆積構造が明瞭なN面を中心に考察する。

本来、水平に堆積したと考えられるB2〜B5’が屈曲していることから、それらの堆積後に断層変形を被ったことは確実とみられる。B1より上位は若干、東に傾斜しているものの、Sg1に見られた庇状突起がB1まで及んでいない(S面)ので、B1は変形していないと判断される。

ここで、B層の分布形態の解釈によっては断層活動に2つのケースが考えられる。1つはB層が断層のほぼ下盤側にのみ分布する場合(ケース1)、もう1つはB層が断層の両側に一様に分布したが、その後削剥された場合(ケース2)の2つである。以下、それぞれの場合の断層活動について述べる。

<ケース1>

B層が断層の下盤側にのみ分布した場合の断層活動は以下の2回と考えられる。

@ 砂層B5’堆積前に巨礫層Cが断層変形を被り、低崖が形成された。

A B2堆積後、断層変形によってSg1〜B5’の屈曲が起こり、Sg1の庇状変形が形成された。

断層の活動年代はC層の堆積以降で、地形面はL2面であるから約2万年前(平成11年度調査)以降となる。一方、断層活動の上限については、B2層まで変形していることは確実であるが、B1やSg−U2はS面で傾斜しており、断層変形が及んでいないかどうかは判断しがたい。上位の土壌化層A3は下面が水平に近く、断層変位は及んでいないと判断されるため、断層活動の上限はA3の形成以前、すなわち約9,800年前以前となる。以上の点から、断層活動は「約2万年前〜約9,800年前に2回」となる。

<ケース2>

B層が断層の両側に分布していたと考えた場合、断層活動は次の1回となる。

・ B2堆積後、断層変形によってSg1〜B5’の屈曲が起こり、Sg1の庇状変形が形成された(ケース1のAに相当)。

このときのB層および基盤の変位量は2.6mである。断層の活動年代はB4堆積以降〜B1堆積以前であるが、B4の年代が得られず、下位の地層(B4,B5’)の年代値の信頼性が低いため、下限をC層とすると、「約2万年前〜約9,800年前に1回」となる(ケース1のAと同様)。

以上の2つのケースの妥当性については次項(総合解析)で検討する。