(2)トレンチT1(鳥戸断層)

(1) トレンチの地層構成

トレンチT1の壁面写真とスケッチを図2−3−1−1図2−3−1−2図2−3−1−3に示す。

トレンチで見られる地層は、層相および構造の違いにより、上位から耕作土・盛土(A層)、新期砂層〜砂礫層(B層)、礫層・砂層(C層)、及び花崗閃緑岩基盤(D層)に区分でき、各層はさらに細部の構造により以下のように区分できる。

・A層−A1(現耕作土及び盛土)

A2(旧耕作土:灰色砂質シルト、下部に泥炭質腐植土を伴う)

・B層−B1(シルト質砂礫、一部は人工改変か)

B2(礫層、砂層で下位の地層を削り込み、不整合に覆う、一部ラミナが発達)

B3(砂礫、下位の地層B7を削り込む、N面の東端にのみ分布)

B4(礫混じりの砂、ラミナがある)

B5(礫混じりの砂、傾斜したラミナがある)

B6(C1の崖下の乱雑な砂礫、傾斜したラミナがある)

B7(花崗質中砂〜粗砂、ラミナが変形してうねる、下部には砂礫が堆積)

B7’(乱雑な礫質堆積物、一部ラミナが湾曲)

・C層−C1〜C4(段丘礫層、花崗閃緑岩質の亜円礫〜亜角礫、随所に風化礫を含む)

C−S1〜S4(段丘礫層中のシルト、中細砂または粗砂の挟み)

C1'(C1層を覆う乱雑な礫層)

・D層−(カタクラサイト化した花崗閃緑岩、本来の粒状組織が不明瞭で黒色部が混じる)

以下、N面を中心に各層の層相について述べる。A2は圃場整備による人工層である。人工改変はS面ではB1の一部にまで及んでいると思われる。B6は傾斜したラミナが特徴的で、花崗岩質礫を主体とし、風化礫も含む点でC層の礫層と共通性が高い。なお、B7とB5は、層相がよく似ており本来は同じ地層であったと考えられる。

C層のうち、C1、C2、C3、C4には風化(マサ化)した花崗閃緑岩礫が含まれ、地層は東に傾斜している。C1〜C4には中砂〜シルト(C−S1〜S4)を挟む。このうち、C−S3には縦の亀裂があり(後述のK)、砂や土壌が入り込んでいる。

地層の14C年代は、A2下部にある腐植土が820±70 yBP *(A2はほぼこの年代)、B2に含まれる礫状の土壌粒子が1,930±40 yBP(B2の年代はこれ以降で、820±70 yBP以前)、砂層B7中の炭化物が12,150±40 yBP(B7はほぼこの年代)、C−S3の亀裂に入り込んだ土壌が22,220±80 yBPである。

S面のA2層からは中世(11世紀末〜16世紀代)の土器片が出土した。これはA2下部の14C年代値(820±70 yBP)と矛盾しない。

*(注) yBP:放射性炭素14Cによる年代値、1950年を基準として遡って表示する。

(2) 地質構造

トレンチ壁面には、3本の断層(F1〜F3)が認められる。せん断面は明瞭とは言えないが、礫の配列が見られ、礫層が砂層に乗り上げる構造が認められる。F1に沿ってC層はB7に衝上し、F1の先端はB6に覆われる。F2はC層中の亀裂でB5を切ることはない。F3もC層中の亀裂で、S面では先端部がC1’に被われ、B5層まで達していない。これらの断層の下端はトレンチ底よりも下方に延び、それぞれの関係は確認することができない。

B層のうち、上位のB1〜B2は下位層を削剥し不整合に覆っている。B3以下の地層は整然とした成層関係が認められない部分が多く、断層運動による変形や、それに伴う著しい不整合関係になっていると考えられる。B5、B6は崖下(断層の下盤側)に堆積し、内部構造は著しく乱れている。B6は斜面が崩落することによりC層を構成する礫が再堆積したものと考えられる。B5もその先端の褐色シルト質の部分がB6との境界で乱れていることから、B6の形成後に崩落し、B6に衝突するように堆積したものと想定される。またB4とB3はこの崩落堆積物を覆って堆積している。B7は断層F1によって切られC層が衝上している。B7層の内部の成層構造には圧縮による変形がみられる(B7a〜b)。

C−S2に地層の伸びと平行な白色の筋(LS)が見られ、これをすべり面として、上盤側の地層のシルト部分が剥離してすべり落ちたものと考えられる。

C−S3は傾斜した成層構造および礫の配列が認められる。さらにこれにほぼ直立した幅5〜10cmの縦亀裂(K)が入り、砂と有機質な土壌によって充填されている。縦亀裂は堆積構造を切っていることから、C層の堆積後に形成された開口亀裂と考えられる。

(3) 断層活動の考察

本トレンチの地質構造は複雑で、明確な変位基準に乏しい。したがって断層活動を詳細に解読することが困難であるが、主にN面をもとにし、一部はS面も参考にして以下のように解釈した。

断層F1はB7層を切ってC層を変位させており、C層、B7、B7’層堆積後に活動したことが明らかである。F1〜F3断層の前後関係については、N面においてF1はB7に達しており、F2はB5に達している。一方S面においては、F3断層はB5の下位層であるC1’に覆われてB5まで達しない。したがって、F3断層の活動はF1及びF2とは分離でき、F1〜F3断層の中では最も古い活動の可能性がある。B6はF1の活動に伴って形成された崩落堆積物、B5はF2の活動によって形成された崩落堆積物であると考えられる。しかし、F1とF2は同時に活動した可能性もある。またF1断層の下盤側にあるB7’は変形が著しい。なおB4〜B2の各層には、断層活動を直接示す変位や変形は認められない。したがって、断層活動はB4の時代には及んでいないと考えられる。

開口亀裂Kには、もとは地表にあったと思われる土壌の一部が落ち込んでいる。その形成時期は落ち込んだ土壌の年代以降で、かつ、B2による侵食の前である。すなわち、約22,000年前〜約900 年前となる。この亀裂はC層の撓曲・傾動の進行に伴って形成された引っ張り亀裂の可能性があるが、断層活動が原因であるかどうかは断定できない。

また、C−S2中の地すべりは、地層の撓曲変形がある程度進行した時点で起こったと考えられる。この地すべりは断層活動を契機として発生した可能性もあるが、原因と時期については特定できない。

以上の考察から、本トレンチ壁面において確実に確認できる断層活動は1回である。

<活動@> B7堆積後、B6、B5を崩落・堆積させたF1、F2の断層活動(約12,000年前〜約900 年前)

しかし、F3の活動は、F1とF2の活動とは分離できる可能性があり、さらにC層は上位の地層に比較して撓曲変形が著しく、上記の活動以前に変形が進行していた可能性が極めて高い。したがって、C層堆積後、活動@の以前に複数回の断層活動があった可能性が高い。

<活動A> C層堆積後、B7堆積前に撓曲変形させた断層活動(約80,000年前〜約12,000年前)

また、B2層(弥生時代以降〜中世以前の年代を示す)堆積以降は、最近の断層活動を示す証拠はない。

なお、上記の考察は以下の年代値を用いて行った。

・ C層:約5〜8万年前(Mf層に対比)

・ B7:12,150±40 yBP

・ B2:1,930±40〜820±70 yBP(同層は千数百年前の地層の可能性もあるが確証がなく、上限値は820±70 yBP、すなわち約900年前となる)

・ C−S3の亀裂Kの土壌:22,220±80 yBP