調査地に分布する領家花崗岩類は古期花崗岩類と新期花崗岩類に区分される。
・ 古期花崗岩類:畑井トーナル岩、横野花崗閃緑岩、君ヶ野花崗閃緑岩
・ 新期花崗岩類:西野花崗岩、美杉トーナル岩
古期花崗岩類は、堀坂川以北の調査地北部〜中央部に君ヶ野花崗閃緑岩が、松阪市六呂木町以南の調査地南部に畑井トーナル岩と横野花崗閃緑岩が分布している。南部では、横野花崗閃緑岩が松阪市小片野町から勢和村片野にかけて、畑井トーナル岩に挟まれて東西帯状に分布する。新期花崗岩類の西野花崗岩は、松阪市西野町付近で君ヶ野花崗岩に、美杉トーナル岩は松阪市六呂木町北方で君ヶ野花崗岩と畑井トーナル岩に貫入する。
@ 畑井トーナル岩(Gh)
・分布:中央構造線の北側で、横野花崗閃緑岩は和泉層群を挟みこむように東西帯状に分布する。北側の横野花崗閃緑岩とは貫入関係にあるとされる。
・岩相:主に中粒のトーナル岩〜花崗閃緑岩から成る。片麻状組織が発達し、特に岩体北縁で著しい。主な構成鉱物は斜長石、石英、ホルンブレンド、黒雲母、カリ長石である。片麻状組織は緑泥石化した有色鉱物の配列に起因する。片麻状組織は概ね東西〜N70゜Eの走向を持ち、中〜高角度で北へ傾斜している。強弱の差はあるが、全体にマイロナイト化作用を受けており、北部では花崗岩組織を良く保存しているが、南部では岩石組織を失ってフリント質なマイロナイトに移化する。高木(1985)が石英の細粒化で特徴付けられる「軽微なマイロナイト化作用を被ったゾーン」とした地域を地質図に図示した。畑井トーナル岩には幅30〜80cmの暗灰色のドレライト岩脈(端山ほか(1982)の記載した輝緑岩の平行岩脈群)を伴い、貫入面の走向・傾斜は概ねN70゜W/60゜Nで、周囲の畑井トーナル岩の片麻状組織の方向と斜交する。
A 横野花崗閃緑岩(Gy)
・分布:調査地南部の櫛田川流域に、東西に広く分布する。岩体北縁では、堆積岩起源の変成岩類及び塩基性岩類と指交、貫入関係にある。
・岩相:比較的粗粒の眼球片麻岩様の片麻状花崗岩〜花崗閃緑岩である。構成鉱物は石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、普通角閃石などで、有色鉱物は緑泥石化していることが多い。径1cm程度で最大径2cmの淡紅色のカリ長石の眼球状斑晶を特徴とする。カリ長石の眼球状斑晶が発達する部分では普通角閃石を欠き、片麻状組織が不明瞭となる。
片麻状組織は概ね東西〜N70゜Eの走向を示すが、勢和村下出江および勢和村上出江に推定される東西方向の向斜構造や背斜構造を境として、傾斜方向が変化する(端山ほか1982)。勢和村上出江の櫛田川河床では、幅30〜40cmの暗灰色のドレライト岩脈が認められる。また、厚さ3〜30cmの片麻岩が片麻状構造に概ね調和的に取り囲まれていることがある。
なお、横野花崗閃緑岩は中部地方領家帯の天竜峡花崗岩に対比されている(端山ほか1982)。
B 君ヶ野花崗閃緑岩(Gk)
・分布:調査地北部の桝形山から中央部の阪内川周辺まで、南北に広く分布する。岩体中央部では西野花崗岩、南縁は美杉トーナル岩が貫入する。岩体北縁では変成岩類を捕獲する。
・岩相:中粒片麻状黒雲母花崗閃緑岩〜トーナル岩から成る。全域にわたりミグマタイト質で、片麻岩と複雑に入り組んだ構造を示す。構成鉱物は斜長石、石英、カリ長石、黒雲母などである。片麻状組織が認められ、岩体北部ではWNW−ESE走向で北へ40゜〜70゜傾斜する。
C 西野花崗岩(Gn)
・分布:調査地中央部の堀坂川と阪内川の間に分布する。君ヶ野花崗閃緑岩の岩体中央部で片麻状組織に調和的に半ドーム状構造をなして貫入している。
・岩相:主に粗粒弱片状黒雲母花崗閃緑岩から成る。構成鉱物は斜長石、石英、カリ長石、黒雲母などである。
D 美杉トーナル岩(Gm)
・分布:阪内川右岸の松阪市辻原町周辺に分布する。岩体北縁では君ヶ野花崗閃緑岩、南縁では畑井トーナル岩と横野花崗閃緑岩を貫いている。
・岩相:中粒の角閃石−黒雲母トーナル岩である。構成鉱物は斜長石、石英、角閃石、黒雲母などである。
(2)塩基性岩類(Br)
・分布:調査地南部の松阪市小片野町の親池周辺に小規模に分布する。
・岩相:構成鉱物は斜長石、黒雲母、ホルンブレンド、石英から成り、有色鉱物の大半は緑泥石化している。片麻状組織ないし片理を伴う。片麻状構造は、NE−SW走向で南東側に傾斜する。
(3)変成岩類(Sc)
・分布:調査地北部の嬉野町薬王寺南方および調査地南部の六呂木川上流部に小規模に分布する。
・岩相:薬王寺南方では硬質なホルンフェルスであるが、片理が認められることがあり、片理面はほぼ東西走向で北へ40゜〜70゜傾斜する。六呂木川上流部に分布するものは黒色・細粒の泥質片岩および砂質片岩から成り、片理が発達する。中粒の黒雲母、斜長石、石英によって構成され、全体に風化が著しく軟質化している。
(4)マイロナイト(My)
・分布:中央構造線の近傍で幅数mから百数十mの東西帯状の分布を示す。
・岩相:マイロナイト化した領家花崗岩類のうち、中央構造線の近傍において再結晶作用によって細粒化し、花崗岩の組織を明瞭に識別できない岩石をマイロナイトとした。調査地に分布するマイロナイトは、主として石英、長石が共に細粒化した緑灰色塊状・緻密な岩石であり、フリンティマイロナイト(高木、1985)と呼ばれる。まれに1〜2cm大のレンズ〜礫状に花崗岩組織を残した部分を伴うこともある。また長石の残斑晶を含むことがある