@ 小山断層
「日本の活断層」に記載された本断層の分布地域には、連続する明確な断層変位地形は認められない。ただし、一志町の射撃場付近に広く分布する高位面H1が山麓では東南東へ傾斜する傾向が認められる。周囲に連続する同じ地形面の観察によれば、この地点の地形面は本来はより緩傾斜であったと考えられるので、局所的に急傾斜が認められるのは地形面の西上がりの傾動(撓曲)によるものと判定した(地形断面測量参照)。この撓曲は幅広く、射撃場付近から北北東へ延びる。しかし、その南方の嬉野町島田では中位面Mや高位面H2には変形が認められない。これは、断層が南方には分布しないか、または高位面H2以降の断層活動がなかった可能性が考えられる。
また嬉野町島田では、高位面H2上に南北方向の溝状の凹地が見られる。しかし、この地形は北側の河川による侵食地形である可能性が高いと判断し、断層変位地形とはしなかった。
なお、上記の射撃場付近から嬉野町天花寺にかけて分布する高位面H1はきわめて緩傾斜であり、特に東端部はほとんど平坦である。これは東側が相対的に隆起するような、大局的に見ると逆向きの構造運動の可能性を示唆している(地形断面測量結果参照)。しかし、そのような構造運動の徴候を示す他の証拠は現在のところ確認できない。
A 鳥戸断層
松阪市大阿坂町岩倉より松阪市西野町にかけて、低断層崖や撓曲等の比較的明瞭な西上がりの断層変位地形が数多く断続的にみられる。松阪市大阿坂町岩倉ではNW方向の低断層崖・撓曲崖連続し、一部は沖積面にも低断層崖がみられる。同市小阿坂町山見、及び岩内町では山麓のMf面及びM面を切る低断層崖がある。松阪市小阿坂町新田の西方ではMf面上に撓曲崖が認められる。伊勢寺町蛇原西方では高位面H2及びMf面を切る低断層崖が明瞭である。伊勢寺町鳥戸南方(堀坂川右岸)ではM面先端に撓曲崖があるが、これはLf面と接しており、一部は更新世末期における侵食地形の可能性がある。
鳥戸断層の南部、松阪市伊勢寺町五輪峠以南の断層変位地形は不明瞭かつ断片的で、同市西野町付近に至るとほとんど認められなくなるが、同市西野町林の西方ではM面を切る低断層崖が一カ所認められる。
一方、鳥戸断層の北方延長部分には松阪市大阿坂町岩倉を境に断層変位地形は認められず、本断層の連続性および小山断層との関係は不明である。
B 山口断層
松阪市西野町山口から松阪市笹川町山村にかけて比較的明瞭な西上がりの断層変位地形が断続的にみられる。西野町山口ではM面に明瞭な低断層崖が認められ、笹川町高畑西方ではLf面に明瞭な低断層崖がみられる。松阪市笹川町真田付近ではL2面やM面と山地の境界が崖をなしており、これが断層変位地形の可能性もあるが、侵食が加わっていると判断し、図には表示しなかった。
C 六呂木断層
松阪市辻原町から松阪市小片野町親池西方にかけて比較的明瞭な西上がりの断層変位地形が分布する。北方の松阪市矢津町大広付近の直線状の谷は変位基準となる地形が少なく、断層を推定し難い。大広南西の河川の屈曲部付近は谷を挟んでL2面に北上がりの高度差があり、断層を推定し得る(ボーリング資料解析参照)。また、南端の谷中分水界は断層鞍部と判定した。
松阪市辻原町瀬戸谷付近の山腹には西上がりの低断層崖が認められるが、あまり明瞭ではない。同市六呂木町広出から上出の谷はLf面に明瞭な西上がりの低断層崖が連続的にみられる。また、六呂木町広出北方では、西上がりの低断層崖の東側に分離小丘状の突出した小丘が列状に連なり、全体として地溝状を呈する地形が認められる。しかしここには逆向きの断層変位を示す明確な証拠はないので、破砕帯などに起因する選択的侵食の結果である可能性がある。また松坂市小片野町親池北西では尾根に顕著な鞍部が判読され、これは断層鞍部と考えられる。
なお、六呂木断層の南方への延長は地形的には明確ではない。本調査では、断層が片野断層に連続しないで南西方向にのびることを示す明確な地形的証拠は見いだせなかった。六呂木断層は南方に隣接する片野断層に連続している可能性がある。
D 片野断層
松阪市小片野町から勢和村片野田郷にかけて、南北方向にほぼ連続して西上がりの断層変位地形がみられる。小片野町では低位段丘L1面のみならずL2面にも低断層崖がみられる。櫛田川南岸、勢和村片野田郷西方ではH2面に著しい撓曲変形がみられる。一部、L3面にも変位の徴候が見られるが不明瞭である。
なお、北部の扇状地f面と櫛田川左岸(北岸)のL3面には変位が認められない。また、勢和村片野田郷南方から朝柄川本流、勢和村朝柄中出にかけては低位段丘面が分布するが明確な変位は認められない。
E 阪内断層
松阪市笹川町谷付近で沖積面に低断層崖が見られるが、河川の侵食崖の可能性が高いと判断し、断層変位地形としては図示しなかった。
F 中央構造線
勢和村朝柄南方から東方の多気町にかけて、断層鞍部や山地の高度差が比較的直線的に連続するリニアメントとして判読される。この部分は多気断層に相当する。勢和村色太三ヶ野の北方では断層鞍部の連続が極めて明瞭である。伊勢自動車道勢和多気インター北側では南に流れる小河川の左屈曲が系統的に連続する部分が認められる。屈曲量は80〜130mである。これは、断層の左横ずれを示唆する地形ではあるが、紀伊半島西部の中央構造線が明瞭に右横ずれであり、中央構造線が全体としては右横ずれと考えられていることと一致しない。左屈曲地形がみられる河川の上流部と下流部が確実に対応し、この地形が実際に左横ずれであるかどうかは別途検討を要する。
G その他−大明神山断層
「新編日本の活断層」(活断層研究会、1991)では、松阪市南西の大明神山(399.5m)の南側山麓にWNW方向の断層−大明神山断層−を記載している。同断層は確実度U、変位基準を山地高度の不連続においており、谷の右屈曲も記載している。本調査の写真判読でもその存在を確認したが、花崗岩中のリニアメントと判断し、地形区分図にも表示した。また、谷の右屈曲も部分的には確認できるが、全体が右ずれしているわけではない。