地表踏査により、山口断層の松阪市笹川町と同市西野町山口の境界付近で、低位面相当の扇状地面Lfに断層変位が認められる箇所に断層露頭が確認された。この断層露頭はLf面構成層と考えられる砂礫層を変位させる低角逆断層であり、変位の生じた時代が新しいことが期待できる。また見かけ上の変位量が大きく繰り返し変位している可能性があることとあわせて、本断層帯の活動履歴を理解する上で重要な露頭と判断できる。そこで本調査ではこの断層露頭について露頭の拡大を行い、断層の構造、地質構成、変位の過程を確認し、断層活動について考察した。露頭の位置は松阪市笹川町字越前(高畑西方)で、地形断面測量のNo.11断面の近傍である。
露頭調査の手法はいわゆる露頭剥ぎで、トレンチ調査に準じて露頭を拡大整形し、詳細な観察を行った。露頭整形の規模は約11m(横幅)×5m(高さ)、壁面勾配はおよそ70〜80°前後で、一部は直立に近い。
(2) 地層の構成と断層の認定
調査の結果、基盤の花崗岩が段丘礫層に乗り上げる明瞭な逆断層と、これらを不整合に覆う新期堆積物が見られた。露頭の地層構成は上位より以下のとおりである(番号は図1−4に対応する)。
D 表 土
C 新期砂礫層
−−−−−−−−(傾斜不整合)
B 黒色土/砂 互層
−−−−−−−−(傾斜不整合)
A 段丘礫層(礫・砂・砂質シルト)
−−−−−−−−(傾斜不整合)
@ 領家帯花崗岩(細粒花崗閃緑岩)
a.段丘礫層(礫・砂・砂質シルト)
低位面相当の扇状地(Lf)構成物に相当する。ただし、花崗岩に接する層準は風化が進行しており、中位段丘Mの構成物の可能性もある。礫層は概ね4層認められ、間に細砂・シルト質砂を挟む。断層付近では礫が乱雑に密集し、断層変形に伴うクサビ状堆積物の可能性もある。断層下盤側の段丘礫層上部は褐灰色の砂質シルトで、土壌化層とみられる。
b.黒色土/砂 互層
段丘礫層を不整合に覆う傾斜した互層である。黒色土は概ね4層ある。間の細砂・細礫は比較的淘汰が良い。この互層は一部は水平層のようにも見えるが、全体としては東に傾斜しており、砂の堆積構造もほぼこれと平行である。
断層は次の3点から比較的明瞭に認定することができる。すなわち
@:露頭の下部において基盤の花崗岩が段丘礫層に乗り上げている。また、その部分の花崗岩は破砕されている。
A:礫層の内部には断層運動によって生じたと考えられる巻き込み構造が見られる。
B:段丘礫層は比較的明瞭な境界面をもって土壌化した地層の上に低角で乗り上げている。
(3)断層活動の考察
本露頭で確実に認められる断層活動は、礫層が土壌化層に乗り上げた際の活動である。礫層堆積中の断層活動については、堆積構造および累積変位量が比較的大きいと考えられることから推定が可能であるが、確実な証拠はない。また、黒色土/砂互層の堆積以降の活動については現在のところ不明であり、Bの互層の堆積環境をどのように考えるかによって異なる。
また、地形面Lfの変位量が2.1mと計測されたが、花崗岩基盤の変位量は、下盤側の花崗岩上面が河床以下にあるとすると4.2m以上と推定される。
a.黒色土/砂互層が斜面堆積の場合
段丘礫層が断層で変位した後、礫層の上面が多少侵食され、崖下にBの互層が傾斜して堆積したと考える。このときの断層活動は段丘礫層堆積途中に2回程度と推定される。互層の堆積後には変位がないことになる。
ただし、互層の傾斜は左方の崖においてもすぐ水平に戻らないことや、各地層の厚さが横方向にあまり変化しない点は、長期間にわたって変化のない堆積環境が維持されていたことを示すもので、斜面堆積と考えるには無理がある。
b.黒色土/砂互層が水平堆積の場合
断層活動は、段丘礫層Aの堆積中に1回以上、黒色土/砂互層Bの堆積後に1回(B〜Cの間)の計2回以上と考えられる。
ただし、互層を傾動させた断層運動の断層面は段丘礫層を切る断層面とは別にあるのかどうかという問題がある。同じ断層面によってこのような形態を生じるのは困難である。
今回の調査では黒色土の年代や花崗岩、段丘礫層の変位量が不明のため、断層活動の詳細解明については今後の検討課題である。
図1−4 露頭解釈図(S=1:50)