椋本断層は、東側より主断層FM1(西上がりの逆断層)、副断層FM2、副断層FM3(いずれも東上がりの逆断層)の3本から成る。このような構造は、逆断層による変形として典型的なものであり、南北方向に走る本地区の活断層群が東西方向の圧縮応力の元で形成されたことを示している。布引山地東縁断層帯の中では、本地区のみにしか見出されていない。
図1−2−2 椋本地区総合断面図
図1−2−2は椋本地区で行った地表踏査、ボーリング、トレンチ調査の結果を総合して作成した東西方向の断面図である。以下、この断面図から言える事を列記する。
ア 基盤の東海層群はシルト岩主体で砂岩、礫岩、一部火山灰層(阿漕火山灰)から成る。地層は東側へ傾斜するが、FM1断層より東では緩い東傾斜で、これより西側では東へ急傾斜する。この構造は平成9年度の物理探査(浅層反射法)による推定結果と同様である。
イ 段丘礫層は層厚がおよそ7mである。しかし、断層FM1〜FM2間は約3.2〜3.5mとかなり薄く、逆にFM1断層以東では約9mと厚い傾向がある。このような礫層の層厚の違いは断層運動に伴う層厚の増大(FM1断層の下盤側)に起因するものと考えられる。
ウ 段丘礫層にのるシルト(Sil)は、FM2、FM3断層のいずれでも断層の両側に分布しており、シルト堆積途中に断層変位があったことがうかがえる。なお、FM2、FM3断層とも、下盤側のシルトが厚いことから、断層変位による下流(東側)の隆起に伴うせき止めの影響が考えられる。
エ トレンチTM1で、傾斜して堆積する崖錐状礫層G2は、段丘礫層堆積後にFM1断層が活動して崖地形を形成したために段丘礫層が崩落し、崖下に堆積したもの(二次堆積)と推定される。崖錐状礫層の形成時期は、その下位にシルトが薄く水平に挟まれ、かつ、崖錐状礫層がシルト下部と指交関係にあることから、シルトの堆積初期と推定される(トレンチTM1の結果より)。
(2) 各トレンチの地層Silの対比
椋本地区で行った3箇所のトレンチで見られたシルト(Sil)は、段丘礫層にのり、層相が類似している点で共通性が高い。これを表1−2−2に示す。このSilは、礫層の堆積後に広汎に氾濫した細粒堆積物(flood loam)と思われる。SilはFM2、FM3断層の西側で比較的厚く堆積しており、下流側の隆起によりせき止められているから、すべてのSilが同時代とは限らない。しかし、Silの年代は少なくともAT以前で“2.2(または2.5)〜5万年前”である。この年代幅の中では同時代であると言える。
表1−2−2 各トレンチのシルト(Sil)の一覧
(3) トレンチTM3における断層活動 (図2−3−9、図2−3−14参照)
前述のように、トレンチTM3での断層活動と変位量はトレンチだけでは解明できないため、ボーリングの情報も合わせて検討する。
シルトSil−1は上下を礫層で挟まれており、断層の下盤側では層厚が増大している。このことから、Sil−1堆積中に断層活動が認められる。変位量の検討に当たってはSil−1の下限を用いるべきだが、直下の砂層Sdとの境界が不明瞭のため、段丘礫層Gの上面を用いる。
本トレンチの断層活動は、トレンチTM3での断層活動の考察と合わせると以下のように推定される。
@ Sil−1堆積中(G上面〜Sg間:約3.5〜5万年前)
A Sil−2堆積中(Sg〜Pt間:約2.5〜3.5万年前)
B TS堆積後 (TS以降:2.2万年前以降〜現在まで)
(4) 椋本断層の活動時期 (図1−2−3参照)
以上の検討結果から、椋本断層の活動時期について検討する。
椋本地区の各トレンチで推定された断層の活動時期は以下のとおりである。
・ 主断層FM1:約5万年前以前(段丘形成途中)、及び約5万年前以降活動
・ 副断層FM2:約5万年前以前、約3〜5万年前、及び約3万年前以降(〜770yBP以前)活動
・ 副断層FM3:約3.5万年前以前(〜約5万年前)、約2.5〜3.5万年前、及び2.2万年前以降に活動
副断層FM2、FM3 は主断層FM1の活動と連動すると考えられる。したがって、椋本断層は以下の時期に活動したと推定される。
@ 約5万年前以前
A 約3.5〜約5万年前
B 約2.5〜3.5万年前
C 2.2万年前以降
以上の活動時期を図1−2−3に示す。ただし、前述のようにトレンチTM1での活動は2回以上、トレンチTM3での活動も3回以上と考えられる。椋本断層全体では活動回数が4回以上の可能性があり、このうち、最近5万年間では3回以上と考えられる。図1−2−3は断層の活動回数ではなく、“活動時期の範囲の可能性を示す図”と解釈すべきである。
段丘形成以降(最近5万年間)の活動を対象として、椋本断層の活動間隔を推定すると、
・ 約5万年前〜現在(約5万年間)に3回以上活動(インターバル2回分以上)
・活動間隔25,000年以下となる。
通常はトレンチ調査によって推定されたイベント回数を断層の活動回数に読み替える。しかし、本調査の場合、主断層の活動回数が推定困難であること、副断層の活動回数が断層帯全体の活動回数を代表するとは考えにくいことの2点を考慮して、断層の活動回数及び活動間隔をこれ以上特定できないと判断した。
図1−2−3 椋本断層の断層活動総括図
(5) 椋本断層の鉛直変位量
各トレンチにおける鉛直変位量は表1−2−3、表1−2−4、表1−2−5のとおりである。
主断層FM1の鉛直落差は、ボーリング孔が離れているため標高差ではなく、扇状地の傾斜を考慮したもの*である。一方、副断層FM2、FM3ではボーリング孔が近いため標高差をとった。
椋本断層FM3の変位量は表1−2−5から以下のようになる。
・ 変位@=1.5m(G〜Sg間の鉛直落差)
・ 変位A=1.2m(Sg〜TS間の鉛直落差)
・ 変位B=1.3m(TSの鉛直落差)
(平均=1.3m)
それぞれの断層変位の時期は、前述の活動時期と合わせると次のようになる。
・ 変位@ 約3.5〜5万年前
・ 変位A 約2.5〜3.5万年前
・ 変位B 2.2万年前以降〜現在まで
表1−2−3 椋本断層−FM1断層の鉛直変位量
*(注) 椋本地区の扇状地の平均勾配は地形断面測量F断面から1/103で、ボーリング孔間距離が133.5mである。よって、FM1断層の鉛直落差は、標高差から扇状地の傾斜分1.3mを差し引く必要がある。