(1) 地形面の対比
調査地の河川沿いには新旧の段丘面が発達しており、本調査では沖積面との比高・連続性・傾斜や開析度等に基づいてこれらをH1〜L2までの6段に区分した。地形面の各文献との対比は表2−2−2に示すとおりである。
表2−2−2 地形面対比表
(2) 地形概要
布引山地は南北に連なる鈴鹿山脈の南に位置し、東縁は一志断層で境され、比高数百mの急崖を形成している。山地の東側には、東へ緩く傾斜する扇状地性の段丘面が発達し、丘陵地を形成している。調査地の河川は北から順に、安楽川、前田川、鈴鹿川、安濃川、雲出川の各主要河川が、北西から南東へ、もしくは西から東へ流下し、河川沿いには沖積面が発達する。
(3) 地形面各説
調査地の主要河川沿いには、K面(見当山累層堆積面)、及び比高の異なる6段の段丘面(H1、H2、M1、M2、L1、L2)及び沖積面が分布する。
これらのうちM1〜L2及び沖積面は調査地全域に分布し、特にM1、M2は広い平坦面を形成する。一方、H1〜H2は分布域が限られ、H1は鈴鹿川北岸流域と椋川流域、安濃川南岸、雲出川北岸流域に分布する。また、H2は前田川沿い、安楽川、鈴鹿川流域、及び生水川流域の一部に点在し、さらに、雲出川北岸流域にも分布する。
また調査地には河川沿いの段丘面のほか、一部の山麓に扇状地が分布する。
以下に、各地形面について述べる。
@ H1面
亀山市前田川北方に分布する。面はやや開析が進み東へ緩く傾斜する。河床からの比高は70〜140mである。鈴鹿川北岸〜椋川のH1面はかなり平坦で面の保存がよい。安濃川の南岸の北神山工業団地丘陵頂部には開析の進んだH1面がある(半分は工業団地として造成済み)。久居市では緩やかな丘陵に広く分布する(一部は工業団地等が造成済み)。
A H2面
安楽川上流域では断片的に分布する。前田川南方のH2面は尾根部に残存しており(前田川の河床から30〜50m)、白木断層による明瞭な断層変形を受けている。関町のH2面は工業団地造成で失われているが、西側へ傾斜している。安濃町光明寺の住宅造成地にも分布していたが、すでに失われている。久居市森町の山田池南方付近は緩やかな丘陵を形成しており、庄田断層による断層変形を受けている。また、同市戸木町の風早池周辺(沖積面からの比高約30m)にもやや広く分布し、面の保存はよい。
B M1面
安楽川上流では断片的に分布するが面の保存は良い。前田川沿いでは東西に細長く分布する。安濃町ではかなり広い平坦面を形成しており、面の保存が良いが、全体に東、もしくは南東に傾斜しており、南部の大谷川では沖積面下に没するように見える。一方、戸島の西方から南西にかけて、断層変位による低崖が認められる。
C M2面
亀山市白木付近では河川沿いに断片的な小分布を示す。関町では小野川、安濃川沿いに細長い広い平坦面が発達している。亀山市小野町付近では河川の流下方向と逆方向に傾斜しており、関・亀山工業団地付近の地形面の西側傾斜と同様に、段丘面形成以降の地殻変動の可能性がある。芸濃町椋本〜中縄では平坦面が広く分布し、開析は進んでいない。ここでは横山池の西方に椋本断層ほかの低断層崖が3条認められる。津市の長谷山東麓には小規模な地形面が多数点在する。これらは扇状地性で他地区との直接的な対比は困難だが面の高度や開析度合いから、M2面に対比した。久居市では広く平坦面が分布し、わずかに沖積谷があるのみで開析は進んでいない。一部、山田池南方で庄田断層の低断層崖が認められる。
D L1面
安楽川ではL1面がよく発達し、面の保存も良い。河床との比高はやや高い(下刻が著しい)。安楽川、中の川沿いには河川沿いに細長く分布し、面の保存は良い。安濃川流域では滝川沿いに細長く分布し、面の保存は良い。津市の長谷山東麓では山麓緩斜面に放射状に分布し、やや開析されている。これらは他地域に比較してやや面が傾斜した扇状地性で、断層運動(一志断層)との関連が示唆される。
E L2面
安楽川沿いのL2面は河床からの比高がやや大きく、面の保存は良い。中の川流域では河川沿いによく発達し、河床との比高は小さい。L2面は安濃川流域(芸濃町雲林院)で最もよく発達し、河床との比高も小さい。安濃町安部〜中川付近では谷を埋めるように分布する。津市長谷山東麓では部分的に認められる。また、長野川流域でもよく発達し、河床との比高は小さい。
F 沖積面
当該地域の主要河川である前田川、鈴鹿川、安濃川(支流の生水川、岩田川を含む)および雲出川沿いとそれらの支流沿いに分布する。現河床との比高は数mである。
なお、芸濃町雲林院などに分布する扇状地は沖積面に含めた。
(4) 断層変位地形の判読
@ 断層変位地形の区分
断層変位地形の判読に当たっては、活断層研究会編(1991)の方法を参考にした。空中写真では、まず、線上に続く谷地形や崖、異なる種類の地形の境界など、地形的に続く線状模様(リニアメント)を抽出し、それらが断層変位地形であるかどうかを判定する。断層変位地形としては活断層研究会編(1991)による表2−2−3に示されているが、ここでは主に、断層崖、低断層崖、逆向き低断層崖、撓曲崖、さらに、鞍部等を判読した。
表2−2−3 断層変位地形の主な用語(松田ほか、1977を一部改変);活断層研究会編(1991)より転載
A 断層変位地形の分布
調査地に分布する断層変位地形の概要を述べる。
調査地に見られる断層変位地形は、南北方向の地形境界(山地と丘陵)や高度不連続で、主に山地と丘陵の境界部に位置し、西上がりで南北方向のものが多い。これは、ほぼ一志断層に相当する。また、これからやや東に離れて、亀山市白木町、芸濃町椋本、安濃町戸島、久居市森及び風早池東方では、段丘面に明瞭な変位が認められる。これらの変位地形は、ほぼ南北方向〜北東−南西方向、多くは西上がりで、各々、一志断層、白木断層、椋本断層、戸島西方断層、庄田断層、及び風早池断層に対比される(活断層研究会編、1991;吉田ほか、1995;宮村ほか、1981)。
このように、調査地には南北方向の変位地形およびリニアメントが卓越するが、一部には東西方向、北側隆起のリニアメントも認められる。
以下、各断層ごとに空中写真で認められる断層変位地形について述べる。
A 一志断層
本断層は、地質断層として、調査地北端から南端まで南北に連続して分布する。しかし空中写真判読では、第四紀後期の活動を示唆するような変位地形は認められない。本断層沿いに認められる変位地形は、主に山麓の地形境界(山地と丘陵)や丘陵高度の不連続である。
調査地北部の雨引山東方には、山麓に傾斜の変換線が認められる。これらは本断層の一部であり、活断層研究会編(1991)の明星ヶ岳断層に相当する。しかも、この付近は花崗岩類と新第三系との地質境界にも相当する。
関町白木一色から中町にかけては、山麓に傾斜の変換線や崖地形が認められるものの、不明瞭で断層運動による変位地形かどうかは不明である。
芸濃町椋本周辺ではL1面およびL2面に変位地形は認められない。
芸濃町多聞から安濃町戸島にかけては丘陵高度の不連続、鞍部列、M2面高度の不連続が認められる。
津市の長谷山東麓では傾斜の変換線が認められ、そこにはM2相当の段丘礫層を切る断層露頭が認められる。
B 白木断層
亀山市白木町の白川小学校北方では、H2面を切る明瞭な断層崖が認められる。その北方では山麓に傾斜の変換線、不明瞭ではあるがH1面の撓曲、M2面の撓曲が認められ、南方ではM1面の撓曲が認められる。それぞれの垂直変位量は、H1面の撓曲で約13.5m、H2面の断層崖で9.4m、M1面の撓曲で3.8m、さらに、M2面の撓曲は約2.5mである。このように、古い段丘面ほど変位量が大きいことは断層変位の累積性を示すものと解釈される。
C 戸島西方断層
芸濃町椋本のM2面に逆向き低断層崖(西落ち)が認められる(写真3−1−8−地形5)。低断層崖の比高は約1mである。ただし、南側の低位段丘面上には変位地形が認められない。
D 椋本断層
芸濃町椋本の横山池西方では、M2面を切る低断層崖(西上がり)が認められる。その比高は約8mである。さらに、その西側約100および400mに逆向き低断層崖2本が認められる。低断層崖の比高は約1mである。これらは椋本断層の派生断層と考えられ、前述の戸島西方断層に相当する。
E 風早池断層
久居市戸木町の風早池東方のH2面に断層崖が認められる。断層崖の比高は8〜11mである。また風早池北東方のH2面は西に傾斜しており、雲出川の流下する方向と斜交する。
F 庄田断層
久居市森工業団地付近にH1、H2、及びM2面を切る低断層崖が認められる。低断層崖の比高はいずれの面も7〜9mであり、変位の累積傾向は認められない。