今回の調査では、断層の最新活動時期は宇賀川地点で把握された。そこでの堆積物のAMS法による放射性炭素年代は、年代値の内異常な値は取り除き、断層による変形を受けた地層の最新年代880±60yBPと、その上位の変形を受けていない地層の最も古い年代で700±70yBPの値が得られた。このため地震活動時期は、この間に起こったと推定される。暦年代では、補正放射性炭素年代と年輪年代との交点を一般的には採用し、西暦ではAD1180年〜AD1290年の間である。ただし、測定による誤差を考慮すれば、最大95%確率(σ2)の範囲まで年代値を広げることが可能で、その場合の年代の範囲は、AD1020年〜AD1410年まで広がる。つまり最新の活動時期は11世紀初めから15世紀初めの平安中期から室町時代初期の断層活動であることが推定される。
三重県では地震は比較的少なく、この時代の地震記録は図3−1−4−1に示すようにもともと少ない。
増訂大日本地震史料から鈴鹿東縁断層帯地域に対応する古地震を挙げると、尾張一宮周辺で被害のあった1124年3月25日の地震(M=6級)、琵琶湖周辺の敦賀で被害があり、また京都でも強震だが規模はやや小さい1325年12月5日の地震(M=6.5〜6.7)、また1407年2月21日の山城、大和、伊勢、美濃地方の強震(M=7級)、1408年1月21日の熊野灘の地震(M=7〜8)等がある。さらに1586年1月18日の地震(伊勢湾周辺、伊勢亀山、多度地方に被害のあった地震:M=8級)が鈴鹿東縁断層帯にかなり関連するものであるが、16世紀であり、最新活動時期がやや異なる。
「新収日本地震史料」の中では、政治の中心に応じて地震記録のある場所が限定されているのが明らかで、この時期は京都や鎌倉に地震記録の主な出典がみられる。京都を出典とする地震の記録は、1020−1100年で約80、1100−1200年で約140、1200−1300年で約120、1300−1400年で約180という状況であり、本調査地に近接するものとしては、1082年8月12日伊勢や1180年12月14日紀伊熊野、1295年6月8日伊勢といった出典があるが、十分に特定できる地震記録ではないと思われる。このため、いまのところ最新活動時期に対応する古地震は明確ではない。
図3−1−4−1 全国有感地震回数(有史−明治5年)
(上田和枝・宇佐美龍夫,1990,有史以来の地震回数の変遷.歴史地震,6,181−187.)