1) 観察結果
トレンチ壁面の観察及びスケッチは、出入口を除く、N面、W面、S面の3面を対象として実施した。本トレンチでみられる地層は、下位より段丘面を構成する河川堆積層、及びその上位に分布する埋土(耕作土)、表土から構成される。地質構成表を表2−5−5−2に示した。トレンチ壁面の写真は5−3項に示した。
@ トレンチ壁面の地質構成
イ) 河川堆積層(A)
礫径10〜100mmの亜角〜角礫を伴う砂礫層。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は砂混じり粘土を主体とする。N面、S面共に級化構造が認められるシルト〜細粒砂のレンズを挟む。礫層中には部分的に幅20〜200cmの粘土のレンズを挟む他、S面の上部にはシルト〜粘土層が連続的に分布する。このシルト〜粘土層中には、部分的に生痕化石が認められる。
ロ) 河川堆積層(B)
礫径10〜50mmの亜円礫を伴う砂礫層。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は粘土混じり中粒砂を主体とする。N面の上部層では、粘着性を示す粘性土を挟む。一方、S面で暗褐色の不明瞭なラミナを伴う細粒砂層を挟む。河川堆積層(A)を、チャネル様に浸食して堆積している。ただし、浸食面は不明瞭である。
ハ) 河川堆積層(C)
礫径5〜50mm、最大径250mmの亜円礫を伴う砂礫層。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は粘土質中〜細粒砂を主体とする。本層上部には、礫混じりシルト層が分布し、その層厚は、S面で約120cm 、N面で約60cmである。下位ではN面、S面のX=1〜3付近で基質に粘性土分をやや多く含む。 X=6より西側では、斜交した堆積構造が認められ。なお、一部、下位層との境界が不明瞭な部分もある。
本層は、下位の河川堆積層(B)を浸食して堆積しており、軽微な不整合面を形成している。
ニ) 河川堆積層(D)
礫径10〜200mm、最大径は300mm。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質はシルト混じり中粒砂を主体とする。
ホ) 河川堆積層(E)
礫径50〜100mmの亜角礫主体、最大径は500mmに達する。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は中〜細粒砂を主体とする。S面X=3〜6にかけて不規則で不明瞭なレンズ状砂層が挟む。本層は、河川堆積層(D)及び、河川堆積層(C)を浸食しており、不整合面を形成している。
ヘ) 河川堆積層(F)
角〜亜角礫を含むシルトを主体とする。最大礫径は150mm程度である。下位層との境界はやや不明瞭である。
ト) 河川堆積層(F')
礫径10〜50mmの亜円〜亜角礫を伴う砂礫層。礫種は珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は粘土質細〜中粒砂を主体とする。全体的に赤褐色を呈し、くさり礫を伴うことが特徴である。
チ) 河川堆積層(G)
N面東側のみに分布する。礫径10〜100mmの亜円礫を伴う砂礫層。礫種は、珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質はシルト混じり粗〜細粒砂を主体とする。
リ) 河川堆積層(G')
本層は、下位より亜角礫を伴う黒褐〜黒灰のシルト〜粘土質細粒砂、細砂、礫径20〜50mmの亜円〜円礫を伴う砂礫層がほぼ整合で分布する。層序的には、河川堆積層(D)及び河川堆積層(F')の上位に分布するが、トレンチ壁面東側に見られる河川堆積層(F)及び河川堆積層(G)との層序関係は不明である。
ヌ) 河川堆積層(H)
礫径10〜100mmの亜円礫を伴う砂礫層を主体とする。礫種は、珪岩、緑色岩、砂岩、頁岩からなる。基質は、褐色のシルト混じり中粒砂を主体とする。この砂礫層の下部には暗灰色の中粒砂層が分布する。この中粒砂層は、粒子間の空隙が認められ、後述の推定断層が走っている部分であると考えられる。一方、W面では、砂礫層中に幅20cmで褐色の砂質シルトが分布する。また、S面では、厚さ約20cmで 幅約1mにわたり、褐色の砂質シルトが分布する。
ル) 表土(記号なし)
N、S面の西側斜面の表層部に分布する。細礫を含む黒褐〜黒灰の有機質シルト〜粘土を主体とする。
オ) 埋め土(記号なし)
暗灰〜黒灰色の有機質の砂質シルトからなり、植物根、礫、若干の粘性土分を含む。
A 断層運動による変形構造
本トレンチでは、明らかに活断層と認定される線状模様及び変形構造は認められなかった。しかし、観察結果から検討した結果、活断層の疑いがある線状模様及び地層の変形構造が推定されたため、その検討材料となった地質構造を要約して以下に記す。
・河川堆積層(G')中の亜角礫を伴う黒褐〜黒灰のシルト〜粘土質細粒砂の層厚が局所的に増大している。また、礫の長軸の向きが回転しているように観察される。これらは、断層運動による下盤側の巻き込まれによって生じたものと推定される。
・河川堆積層(G’)中に分布する細砂層が、推定される断層面で消失(切断?)しているように観察される。
・N面で、推定される断層面と河川堆積層(H)中の砂礫層が見かけアバットしているように接している。また、この砂礫層は、不明瞭であるが撓曲変形を受けているように観察される。
・W面では、推定される断層面の直上に基質の流出した空隙部連続するゾーンが分布する。
・上記のことから、河川堆積層(G’)と、河川堆積層(H)の境界面に断層面が存在すると推定される。なお、推定される線状模様の走向傾斜は、N2゜W15゜W及び、N20゜W25゜Wである。
2) 考察
@ イベントを認定した地層
上記結果から、想定された断層に起因する地層の変形は、河川堆積層(G’)と河川堆積層(H)で認められた。ところで、空中写真判読結果から、本トレンチ西方に分布する段丘面は、中位段丘面と考えられていることから、本地域の断層が逆断層であること、河川堆積層(H)と対応する層相がトレンチ壁面に分布していないことなどを考慮すると、河川堆積層(G’)は河川堆積層(H)よりも新しい可能性がある。したがって、本トレンチで観察される最新のイベント層は、断層下盤に分布する河川堆積層(G’)であると推定される。
なお、イベント層を覆う地層は、確認されなかった。
A 断層の活動年代
放射性炭素年代測定の試料は、下位より河川堆積層(A)層、(F)層及び(G’)層から採取した。年代値は、それぞれスケッチ図に示したが、トレンチの下底付近で19820±120yBP、20040±80yBP、表層に近い箇所で1060±60yBP〜1170±60yBP、イベント層と仮定している河川堆積層(G’)の下底付近で320±60yBP程度の値が得られた。このトレンチでは明瞭な断層が確定できなかったので、この値が断層の活動年代とは特定できない。トレンチ下底付近で得た年代値は、トレンチの掘削位置が低位面(L1)であることを考えると地形面とほぼ調和的な値を示しており、従来推定していた段丘面の形成年代はほぼ妥当であったと思われる。