2−4−4 調査結果のまとめと解釈

(1) 調査結果のまとめ

各ボーリング孔で採取した地層について特徴的な事項について説明するとともに、地層対比を行い、地質断面図を作成した。断面図は各地点毎に作成し、図2−4−4−1図2−4−4−2図2−4−4−3図2−4−4−4に示した。各地点のボーリング結果による地質状況は次の通りである。

1) 青川上地点

各孔とも、下位より、黄褐色の礫混じりシルト〜シルト質細砂が分布し、その上位に段丘面を構成する砂礫層が分布する。どちらの層相も礫混じり土であるが、固結度、基質の違いから、比較的明瞭に区分される。また、地表踏査の結果と合わせ層相から、下位の礫混じりシルト〜シルト質細砂は、東海層群米野累層に対比されると思われる。段丘堆積物は、砂礫から構成されるが、AUB−1〜3孔で、砂礫層中に、褐色の粘性土が挟まれている。このことから、低崖地形を挟んで一連の地層が分布すると推定され、中位面を構成する堆積物は一連の堆積物であることが明らかとなった。段丘堆積物の厚さについては、表2−4−4−1に示すように、AUB−1孔〜2孔で3.35〜4.52m、AUB−3孔〜5孔 で5.22〜5.64mで、上盤に比べ、下盤でやや厚いものの概ね一定の厚さを保っている。 このことは、地形の保存が比較的良好であったことを示していると考えられる。

2) 青川中地点及び青川中’地点

ボーリングコアでの地質は、青川中地点では、青川上地点と同様、東海層群米野累層が、青川中’地点では東海層群大泉累層が分布する。本地点の米野累層は、3層相が認められ、上位から、シルト〜シルト質細砂、シルト混じり礫層、礫混じりシルト〜細粒砂層に区分される。上位2層準は、AMB−3孔とAMB−4孔で対比できる。これらの東海層群を覆って段丘堆積物が分布する。この堆積物は、層相からAMB−3孔の1.79〜3.12mとAMB−4孔の5.58〜8.45mの灰色粘性土を含む砂層が対比され、このことから、AMB−4孔の最上位に分布する砂礫層(低位段丘堆積物)の下位に中位段丘堆積物相当層が埋没していると推定した。後述するようにトレンチ調査で得られた炭素同位体の年代からみても壁面に出現する砂礫層が低位段丘堆積物と考えられており、ボーリング結果もそれに調和的である。

青川中’地点でも同様のことが考えられ、AMB−1孔とAMB−4孔とで、層相からの判断や東海層群上位の層厚がほぼ同じであること、また、低位段丘堆積物の厚さが、AMB−4孔の厚さとほぼ同じであることから、AMB−1孔の大泉累層直上に分布する砂層も中位段丘堆積物と推定している。

3) 宇賀川地点

本地点(UGB−1孔〜UGB−4孔)で採取した地層は、UGB−1孔〜2孔では、東海層群多志田川累層 (あるいは大泉累層)、UGB−3孔〜4孔では東海層群米野累層が分布する。多志田川累層(大泉累層)は、比較的硬質な青灰色のシルト〜シルト質細砂、砂質シルトからなる。本層の層相の特徴は、大泉累層のシルト層優勢層に類似するが、地表踏査や既存文献からの地質分布からは、多志田川累層に対比されると思われる。

UGB−3孔〜4孔は、青川上地点と同様の層相であるため、東海層群米野累層に対比した。UGB−3孔の6.6〜13.95m区間では、花崗岩礫を混入するようになり(青川上地点の米野累層はほとんど花崗岩礫を含まない)、米野累層と上位の段丘堆積物との区別がむずかしいが、@基質が米野累層のそれと類似すること、A地質踏査の結果から菰野町と大安町境界付近に分布する露頭で、花崗岩礫を含む礫層が米野累層の上位に分布し、層相から判断して段丘堆積物に相当しない等から花崗岩礫を含む礫層もあわせて米野類層に対比した。

段丘堆積物は、各ボーリングで連続性を示唆する粘性土層などの細層は認められなかったが、表2−4−4−2に示すように、段丘堆積物の厚さが4.25〜6.60mで大きな層厚の変化が少ないこと、層相の特徴が類似していることから、本段丘堆積物は、堆積時期がほぼ同じの一連の堆積物であると推定される。

UGB−5孔での地質は、下位より、東海層群多志田川累層、完新世の氾濫原堆積物、耕作土が分布する。氾濫原堆積物は、大きく3層準に区分され、下位より砂礫、粘性土、腐植土を含む粗粒砂からなる。氾濫原堆積物の層厚は、3.32mである。トレンチ掘削による壁面観察結果から、氾濫原堆積物のうち、下位の砂礫、粘性土は断層による変形を受けているが、上位の腐腐植土を含む粗粒砂は変形を受けていないことが明らかとなった。

4) 田光地点

本地点に分布する地層は、下位より、東海層群大泉累層、さらにTBB−3孔〜4孔では、大泉累層の上位に東海層群米野累層が分布する。それらを覆うように低位段丘堆積物が分布する。東海層群大泉累層は、主として、黄褐色の中〜細砂を主体とし、凝灰質な箇所をともなう。東海層群米野累層は、宇賀川地点の一部の層相と同様、花崗岩礫を含むが、@基質が上位の段丘堆積物に比べ褐色を帯びる、A地表踏査の結果を考慮して本礫層を米野累層に対比した。

段丘堆積物は、花崗岩礫を多く含む砂礫層で、基質も花崗岩起源の鉱物粒を多く含む。全体にシルト分は少ない。表2−4−4−3に示すように、段丘堆積物の厚さが4.21〜 6.00mで層厚の変化が少ないこと、層相の特徴が類似していることから、本段丘堆積物は、堆積時期がほぼ同じの一連の堆積物であると推定される。

(2) 分析・測定試料の採取と分析結果

分析試料は、地層の形成年代、地層の堆積環境、断層の活動時期の特定等を明らかにするために、以下に挙げる分析試料を採取することを努めた。

・炭素同位体年代測定試料:木片、炭化物、腐植土等

・花粉、珪藻分析試料  :腐植土混じり粘土、シルト等

・テフラ分析試料    :主として火山ガラス(ただし、採取試料としては地層を構成するもの(砂礫、砂等)も同時に採取する。

・珪藻・有孔虫分析用試料:粘土、シルト等

しかし、ボーリングコア観察の結果、次にような点で試料の採取ができなかった。

@ 試料採取を対象とする地層が、砂礫層であるため、上記項目に適する試料の存在が確認されなかった(炭素同位体試料など)。

A 基質の流出が著しいため、テフラ分析に耐えうる量を確保できない。

B 試験的に砂礫層から火山ガラスを抽出したが、同定できるの火山ガラスが分布していない。

(3) ボーリング調査結果からの解釈

ボーリングコア観察(トレンチ掘削を行っている地点ではトレンチ観察結果も含めて)の結果から、以下の4地点について検討結果を要約する。

1) 青川上地点

ボーリング掘削は、空中写真判読結果及び地表地質踏査結果から、中位段丘面(M2面)を変位させたと推定される断層崖を挟んで上盤側で2本(AUB−1孔〜2孔)、断層崖直下で1本(AUB−3孔)、下盤側で2本の計5本(AUB−4孔〜5孔)を実施した。

この地点付近を構成する地質は、下位より、「東海層群米野累層」、「中位段丘面を形成する段丘堆積物」、「現在の耕作土」から構成されることが明らかになった。また、段丘堆積物に挟在される粘土層の分布から、段丘堆積物は崖を挟んで一連の堆積物であることが推定される。断層については、ボーリング調査結果から得られた段丘堆積物基底面の標高分布から、AUB−2孔とAUB−3孔の間で基底標高の不連続部が推定され、AUB−3孔付近で実施したトレンチ掘削から、西側に傾斜する低角度の断層面が出現した。このことから本調査地点に分布する崖は、同一の段丘面中の断層崖であり、この断層は、段丘堆積物の基底面を約6m(断層面の西側が隆起)変位させていることが明らかとなった。

2) 青川中地点及び青川中'地点

ボーリング掘削は、空中写真判読結果及び地表地質踏査結果から、麓村断層の西側に沿って分布すると推定される高角度の断層(いわゆる逆向き断層)を挟んで2本(青川中’地点、AMB−1孔〜AMB−2孔)、麓村断層が通過すると推定される段丘面境界(青川中地点、AMB−3孔〜AMB−4孔)で2本、合計4本実施した。掘削地点は、AMB−1孔及びAMB−4孔が低位面(L1面)、AMB−2孔及びAMB−3孔が中位面(M2面)に位置する。

青川中’地点付近を構成する地質は、下位より、東海層群大泉累層、中位段丘堆積物、低位段丘堆積物、表土(耕作土)である。AMB−2孔には、低位段丘堆積物はみられない。この結果と既存文献から、本地点付近に断層が通過することはほぼ間違いなく、中位段丘基底面を変位基準面とすると、鉛直方向(東側隆起)に約11m変位していることが明らかとなった。一方、青川中地点付近を構成する地質は、下位より、東海層群米野累層、中位段丘堆積物、低位段丘堆積物、表土(耕作土)である。AMB−3孔には、低位段丘堆積物はみられない。この結果とトレンチ観察結果から、本地点付近に断層が通過することが推定され、中位段丘基底面を変位基準面とすると、鉛直方向(西側隆起)に約9.2m変位している可能性のあることが明らかとなった。なお、AMB−2孔とAMB−3孔の間には東海層群大泉累層と米野累層との地層境界が分布すると推定される。

3) 宇賀川地点

ボーリング掘削は、空中写真判読及び地表地質踏査の結果から、麓村断層の延長と推定される大安町石榑南地内に分布する中位段丘面上の低崖地形を挟んで、両側2本ずつ計4本(UGB−1孔〜UGB−4孔)実施した。また、宇賀トレンチ掘削地点でトレンチ地点深部の地質を把握するために1本(UGB−5孔)実施した。

本地域に分布する地質は、下位から、東海層群多志田川累層、東海層群米野累層、中位段丘堆積物、表土(耕作土)からなることが明らかとなった。東海層群多志田川累層は、UGB−1孔〜2孔でみられ、東海層群米野累層は認められない。一方、UGB−3孔〜4孔には東海層群米野累層が認められ、それより下位の大泉累層や多志田川累層には達していない。断層との関連においては、低崖地形を挟んで、段丘堆積物の基底面がUGB−2孔とUGB−3孔の間で不連続の可能性があり、断層の存在が示唆される。これが、断層による変位であるとした場合、中位段丘堆積物の基底面が、鉛直で約10〜13m程度変位していると推定される。

UGB−5孔付近の地質は、下位から東海層群多志田川累層を基盤とし、氾濫原堆積物(下位から砂礫層、粘土層、礫混じり粗粒砂層)が基盤を覆って分布する。

4) 田光地点

ボーリング掘削は、空中写真判読及び地表地質踏査の結果から、田光断層が分布すると推定される菰野町田光地内に分布する低位段丘面上の低崖地形を挟んで、両側2本ずつ計4本(TBB−1孔〜TBB−4孔)実施した。

本地域に分布する地質は、下位から、東海層群大泉累層、東海層群米野累層、低位段丘堆積物、表土(耕作土)からなることが明らかとなった。東海層群大泉累層は、各孔に認められる。一方、米野累層は、TBB−3孔〜4孔のみに分布し、TBB−1孔〜2孔には認められない。段丘堆積物は、花崗岩類を供給源とする砂礫から構成され、本層中に明瞭な鍵層は分布しないものの、低崖地形を挟んでほぼ同じ厚さで分布していることから、同一低位面の堆積物であると推定される。断層との関連においては、この段丘堆積物の基底面を基準とした場合、TBB−2孔とTBB−3孔の間で標高差が想定される。これは、地表の低崖地形の位置とほぼ一致することから、断層運動によって生じたものと考えられ、この基底面の鉛直変位量は4.8mと推定される。

各ボーリング地点の項目を整理して表2−4−4−4に示す。

図2−4−4−1 地質断面図

図2−4−4−2 地質断面図

図2−4−4−3 地質断面図

図2−4−4−4 地質断面図

表2−4−4−4 ボーリング資料整理表