(1) 断層の活動間隔
調査地域における断層の活動間隔は、トレンチ調査で複数のイベントが確認されなかったため、次のような方法で求めた。
@ 物理探査やトレンチ調査結果から推定した4種類の断層面の角度とトレンチ調査での単位変位量(実移動とする)を演算して、それぞれの鉛直変位量を算出する。
A 年代が判明している低位面の地形測量による鉛直変位量を、@で求めた鉛直変位量(単位鉛直変位量となる)で除して、各断層面ごとの活動回数を求める。
B 地震活動が繰り返し一定間隔で起こる前提で、低位面の年代を活動回数で除する。
その結果、算出された断層の活動間隔は、各断層面ごとの値の平均値を取ると、約4,000年〜6,000年であると考えられる。
(2) 最新活動時期
断層の最新活動時期は、トレンチ調査でイベントの認定ができた堆積物での放射性炭素年代などの測定結果から、暦年代でAD1020年〜AD1410年の範囲という結果を得た。すなわち、11世紀初めから15世紀初めの平安時代中期から室町時代初期に一番最後の断層活動があったと推定される。ただし、最新活動時期に対応する歴史地震は、古文書による文献調査からも今のところ特定されていない。
(3) 断層の分布と断層活動及び地震規模
@ 断層の分布と断層活動
断層の分布状況は、変位地形、地質の分布状況、大深度地質構造等から検討した。その結果、断層の延長は前縁断層系で約17km、境界断層系では約18kmである。しかし、断層活動としてはひとつにまとまった一連の活動で動く可能性があり、その場合は両断層の重複する距離を考慮すると、断層延長は約33〜34kmと考えられる(各図表はV章参照)。ただし、1回の地震で前縁断層系と境界断層系の活動が同時に起こるのか、あるいは別々に起こるのかの予測は現状では非常に困難であり、今後の研究課題でもある。
A 地震規模
地震規模の想定は、松田(1975)の式のうち断層延長を利用し最大地震マグニチュード(ML)を求める方法では、
ML=7.4
地表断層長さ=前縁断層系+活動的な境界断層系
=34km
である。
また今回は、断層面の角度や剪断長が調査結果から概ね推定されていることから、地震によって生じた断層面の大きさ全体を表すモーメントマグニチュード (MW)を求めると、
MW=6.8〜6.9
L=34km(鈴鹿東縁断層帯の推定最大断層長)
W=17km(角度=60゜、深度=15kmで設定した断層面の角度と深度から求めた断層長の幅)
d=0.7〜0.9m(断層長における平均的なみかけ剪断長)
である。
これらの結果から、今回の対象とした鈴鹿東縁断層帯で発生する地震はマグニチュード7程度と推定される。
(4) まとめと今後の課題
今回調査を実施した鈴鹿東縁断層帯について、トレンチ調査から、約2万年〜3万年前に形成された低位段丘面の構成層を切る低角逆断層が確認され、少なくともこの年代まで断層活動が継続していたことが認められた(太田・寒川,1984が追認された)。
最新の活動時期は、放射性炭素年代測定から、概ね11世紀初めから15世紀初めの平安時代中期から室町時代初期であることが推定された。また、トレンチ調査での複数イベントの確認はできなかったものの、鉛直変位量を利用して求めた地震の発生間隔は、地震活動が繰り返し一定間隔で起こっているという前提で求めた場合、約4,000年〜6,000年と推定された。さらに、鉛直変位量の平均変位速度*1の分析から、断層長は約34kmと判明し、その断層の延長距離を考慮して統計的に求めた発生地震規模は、マグニチュード7程度であることが推定された。
しかしながら、この推定はあくまで鈴鹿東縁断層帯のうちの主に前縁断層系での調査結果をもとに推定しており、断層延長約34kmの全体にまんべんなくトレンチ等の直接的な方法を行った結果でないことに留意する必要がある。
今後は、トレンチ掘削などが物理的に不可能あるいは効果のない箇所での断層の確認方法や単位変位量の把握等が研究課題となろう。
今回の総合解析では、推定した活断層が起こす地震には固有性があり、それが厳密に守られるという仮定で考察しているが、実際のところ、地震の再来間隔や規模がどの程度分散するかはよく分かっていないのが現状である。また、一つ前の地震規模が小さかったとき、次の地震までの間隔は短くなるとされるタイム−プレディクタブルモデルの考え方も考慮しておく必要があろう。すなわち、今回の調査で判明した11世紀初めから15世紀初めの地震が断層の全域で破壊の起きた、十分な応力を開放した地震であったかどうかについて、さらに検討を加えていくことも忘れてはならない。
現時点では、当該地域でのM7程度の地震発生は切迫していないものと思われるが、それよりやや小規模の地震発生の可能性については予測は困難である。また、鈴鹿東縁断層帯が活動しなくても、近接する活断層が活動する可能性もあることから、活断層の周辺に居住している住民は十分に注意を払い、日頃から地震防災に心掛けていく必要がある。
今後は、自分たちの住んでいる地域の活断層の位置や地盤条件についてよく確認し、建物の安全性等について十分な配慮が必要である。そして、住民、地域、自治体、国や防災関係機関等が一体となって、それぞれの責任において地震対策を推進していき、地域の防災力を高めていくことが大切である。