調査は、空中写真による地形判読、地質踏査(概査、精査)、航測図化及び地形測量であり、最終的には精査範囲として《青川地域》、《宇賀川地域》、《田光地域》、《湯の山地域》及び《水沢地域》を選定した。
(1) 空中写真判読結果
判読による調査範囲の地形分類は、大局的には、山地、丘陵地、低地に区分される。
南北方向に延びた幅約16km、長さ約55kmの鈴鹿山脈の東縁には、比高数百mの急崖が形成されている。その急崖の東側には、高度約300m以下の丘陵地及び段丘地域が分布しており、段丘面は特に中位段丘面、低位段丘面の発達が著しい。低地は主として員弁川、朝明川、三滝川など主要な河川に沿って局所的に分布している。
断層変位地形としては、今回実施した空中写真判読において、調査地域の境界断層系や前縁断層系の活動で生じた変位地形が多数確認された。変位地形の形態は、大部分は東向きの断層崖〜低断層崖*1あるいは撓曲崖*1として判読された。一方、北勢町麓村〜大安町石榑北山や同町新町では、西向きの逆向き低断層崖も存在する。
平面的な分布は、境界断層系の変位地形が山地と丘陵の境界に一条分布するが、前縁断層系の変位地形は、数条で平行に分布することが多い。判読結果による地形分類図は、図1−3−2−1に示す。
(2) 地質踏査結果
地質概査で調査地域に分布する地質は,古い時代から以下のように大別された。
・美濃帯に属する中・古生層(ペルム〜ジュラ系)及びそれらを貫入する白亜紀貫入岩類:岩相は緑色岩類〜石灰岩相、砂岩・泥岩を主体とする砕屑岩類と花崗岩類の貫入岩である。
・新第三紀中新世堆積岩類(千種層):岩相は主として泥岩、砂岩、凝灰質泥岩等である。
・鮮新世〜更新世東海層群(奄芸層群):層相は湖沼〜河成の泥、シルト*1、砂、礫である。
・段丘堆積物および扇状地堆積物:層相は、砂、礫である。
・沖積層および新期扇状地堆積物:層相は、砂、礫である。
地質精査での各地域の結果概要は次のとおりである(図1−3−2−2に地質図及び変位地形分布図を示す)。
@ 青川地域(員弁郡北勢町〜大安町)
調査地域の地質は、主に東海層群の礫層やシルト層、砂層及び段丘堆積物の礫層である。
前縁断層系の変位地形*1は、主に青川左岸の中位段丘面(M2面)上で、比高5mの崖を形成している。低位段丘面上の変位地形は、人工改変により現地踏査ではやや不明瞭である。
A 宇賀川地域(員弁郡大安町〜三重郡菰野町)
露出で確認された地質は、主に東海層群礫層、シルト層及び段丘堆積物の礫層である。
断層による変位地形は、比高約5m程度の急崖が中位面(M2面)上に認められるが、その北方延長の低位面上では、低崖は不明瞭である。
B 田光地域(三重郡菰野町)
調査地域の地質は、主に東海層群の砂層、シルト層及び段丘堆積物の礫層である。
変位地形としては、低位段丘面上に四条平行に低崖地形が認められた。
C 湯の山地域(三重郡菰野町)
調査地域の地質は、東海層群の礫層を主体とするが、境界断層を挟んだ西側には、中生代の砕屑岩類が分布する。
変位地形は、三滝川の左岸に分布する中位及び低位段丘面上に低崖地形が分布する。
D 水沢地域(四日市市〜鈴鹿市)
調査地域の地質は、主に礫層を主体とした扇状地堆積物である。
変位地形は、同一段丘面上での低崖地形として、水沢扇状地内に二条、鈴鹿市大久保付近で一条が不明瞭ながら推定された。
(3) 航測図化調査結果
米軍写真*1を用いた航測図化により、青川地域では、トレンチ箇所の断層崖の改変状況や土地利用の変遷が読みとることができ、トレンチ掘削地点の細部にわたる選定での有力な情報となった。
宇賀川地域では、現地形でトレンチ地点の北側にのびる前縁断層系の連続性が不明瞭であったが、航測図化図面では前縁断層系で等高線の変化などが明瞭に認められた。
田光地域周辺では、航測図化の結果、当初トレンチ候補にしていた崖部が過去の流路を示す等高線の形状を呈しており、その崖部は侵食崖の可能性が強いことが判明した。
湯の山地域周辺では、航測図化の結果、湯の山温泉北側の段丘面上でほぼ南北方向に連続する低崖地形が現地形よりも明瞭に認められた。
(4) 地形測量調査結果
地形測量は、総延長距離10,693.4mの測量を変位地形周辺で実施し、地形面に現れている断層変位量(鉛直変位量)を正確に求めた。現地での測量は、主に前縁断層系を対象に行い、境界断層系は主に地形図や文献を活用して解析した。
その結果、藤原町山口から亀山市と鈴鹿市の行政界付近にかけて、変位地形の鉛直変位量(変位速度)と断層の連続性について精度の高いものが求められた。
図1−3−2−1 地形分類図
図1−3−2−2 地質図及び変位地形分布図