7 増毛山地東縁断層帯の断層活動様式および活動性評価

本断層帯は,増毛山地の東縁に雁行しながら全体として約47kmの延長をもつ.主要な断層としては,5本のセグメント,即ち和断層と樺戸断層群a・b・c・dが存在するとされている.その他に,これらに付随して西側の自衛隊射撃場南西と浦臼断層に活断層が推定されている.

和断層

和断層については,恵岱別川下流南側の雨竜町牧岡において,T3面とされる段丘面に延長1.5km・確実度Tの撓曲崖,およびその西方に並走する逆向低断層崖が認められた.撓曲崖は南−北走向,幅100〜250mで東に撓み下がっている.撓曲崖の垂直変位量は10〜25m程度であり,T3面が5万年前に離水したとすれば,平均変位量は0.2〜0.5m/kyrで,活動度はB級となる.この北側の和市街地西方にある低地面(現河床面)には,断層活動による変形が認められなかった.これよりも北方では延長2.5km程度の撓曲崖が追跡できるが,確実度Uとやや不明瞭であり,それよりも北では土地の人工改変もあってより不明瞭となる.従って,和断層の全延長は6.5〜10kmとなる.松田(1975)の経験式(第1章,式1.1)により,和断層が単独で活動した場合,断層長から期待される地震のマグニチュードは最大6.5である.

樺戸断層群セグメントa

セグメントaは,雨竜町洲本から新十津川町大和,総富地川付近まで総延長19.5kmの活断層である.北部の雨竜町洲本〜豊里〜新生地区にかけてT3面ないしT5面が東へ撓み下がっている.この地区では複数の撓曲崖が認められるが,中央付近のそれには活背斜軸が存在し,鮮新統の断層露頭は認められたが,第四系を切る断層露頭は確認できなかった.その南側では三角末端面が延長4kmにわたって連続するが,T6面や現河床面に明瞭な変位地形はみられない.

その南方の新十津川町大和のT3面とT5面では,背後に逆向き低崖を伴う撓曲崖が認められる.総富地川下流両岸にも撓曲崖が存在し,いずれも不明瞭ではあるが,鮮新統上部層の緩やかな褶曲に対応しているようにみえる.全体としてみると,セグメントaの確実度はT〜Uである.また,すべてが連続するとすれば総延長19.5kmとなり,松田(1975)の経験式(式1.1)から予想される地震のマグニチュードは7.0である.

セグメントaの北部のT3面にあたる雨竜町豊里で実施したトレンチ調査によって,この崖が撓曲崖であることを確認した.また,T3面の形成時期は最終氷期前半以前と推定されることから,この撓曲が最終氷期には既に形成されていたと判断された.しかし,活動間隔と最新活動期に関するデータは得られなかった.ただ,地形の変位量から得られた平均変位速度0.5m/kyr,および断層の長さ19.5kmを,松田(1975)の経験式(式1.4)に代入すれば,活動間隔は約3,000年と求められる.

樺戸断層群セグメントb

セグメントbは,新十津川町中徳富から浦臼町於札内にかけて認定されている(活断層研究会,1991)が,このセグメントの存在する可能性は小さい.

樺戸断層群セグメントc

セグメントcは,活断層研究会(1991)によれば,浦臼町於札内から月形町札比内にかけて認定されている.北側の浦臼沢までは北東−南西走向で延長約3.5kmの撓曲崖がみられ,T3面・T2面・T1面が南東に撓み下がっている.

南側の部分には,幅100〜300m,延長8.5kmの撓曲崖,および並走するやや不明瞭な撓曲崖が存在する.これらの撓曲崖では各段丘面が南東へ撓み下がっている.このうち札的内川下流右岸のT3面では4.5mの撓みが見られ,0.09m/kyr程度の変位速度が得られた.左岸下流のT6面では約1mの撓みが測定され,0.14m/kyr程度の変位速度と見積られた.従って,B〜C級の活動度となる.本セグメントの全延長は12kmであるから,単独で活動した場合,松田(1975)によりマグニチュード6.6程度の地震が推定される.

札的内川下流左岸のT6面で行われたトレンチ調査では,2回の活動歴が推定された.第一には,第1層の撓み下がりが断層運動による撓曲であるとした場合のイベントで,変位量は約1mである.その時期は,約8,000年前以降〜2,000年前以前と推定される.第二のイベントは,トレンチ南東端の不連続で示される「逆断層」運動で,変位量は4b層で約1.2mである.その時期は,約2,000年前以降〜300年前以前と推定される.ただし,これらのイベントの確実性は小さい.

樺戸断層群セグメントd

セグメントdは,月形町北農場から知来乙にかけての山麓線にはやや不明瞭な撓曲崖がみられ,また知来乙から五耕地山にかけては幅400mにわたりT4面を南南東に撓曲させている.この撓曲崖は,セグメントcの東側の確実度の小さい撓曲崖の延長部へ連続するようにも見られる.従ってcとdが同時に活動している可能性もあり,この場合両セグメントを合わせると延長18kmとなり,マグニチュード6.9の地震が想定される.

その他のセグメント

上に述べたセグメントの他に,従来からこれらに並走して新十津川町の自衛隊射撃場南西と浦臼断層に活断層が推定されていたが,今回の調査では確認できなかった.

活動性の評価

以上のように,和断層および樺戸断層群セグメントa・c・dの4つの活断層の存在・分布は,地形・地質調査および物理探査の結果確認された.

これらのセグメントが一度に活動する範囲,即ちどの程度の長さの断層が一度に活動するのかについては,これを明らかにするデータは得られなかった.しかし,地形調査から得られた平均変位速度を比較すると,北部の和断層やセグメントaでは0.2〜0.5m/kyrであるのに対し,南部のセグメントc・dでは0.09〜0.14m/kyrと小さな値を示す.従って,北部がやや活動性が大きい可能性がある.

松田の経験式(第1章,式1.1)から,個々のセグメントが独立に動くとした場合には,北部では最大でマグニチュード7.0の地震が発生すると推定される.南部ではほぼ同じく6.9程度の地震が想定される.なお,本断層帯の全体が活動するとすれば,マグニチュード7.6となる.

次に,断層の活動の間隔すなわち地震の再来周期について検討する.

北部のセグメントaでは,雨竜トレンチにおいて最終氷期における活動の痕跡は認められたが,間隔について明確な証拠は得られなかった.従って,活動間隔を地形調査によって得られた断層長と平均変位速度から推定すると,セグメントaのみが活動した場合にはおよそ3,000年,また,和断層(0.2〜0.5m/kyr.)と同時に活動した場合には,4,000〜11,000年の活動間隔が得られる.しかし,完新世のT6面には,断層変位地形が見られないことから,数1,000年間隔で活動しているとは考えにくい.むしろ間隔はそれよりも大きい可性能がある.最新活動を示すデータも得られなかったが,T6面や最も新しい低地面に変位が見られないことから,数千年以前から現在まで活動はなかったと判断される.したがって,明確な結論は今後の課題であるが,近い将来に活動する可能性は否定できない.

それに対して南部のセグメントc,浦臼町札的内では,完新世のT6面に変位が見られる.T6面で掘削された浦臼トレンチでは,約8,000年前以降〜2,000年前以前,および約2,000年前以降〜300年前以前の2回の断層運動が考えられた.また,1m前後の変位量,および地形的な変位から求めた変位速度(0.09〜0.14m/kyr)から,断層の活動間隔は11,000〜7,000年と求められることから,次のイベントの発生までには数千年以上の時間的余裕があることになる.

ただし,このイベントの存否については第6章で述べたように調査者の間でも一致した結論には至っていない.もし今回トレンチ内で認められた構造が全て初生的なものであるとすれば,過去2,000年間に活動はなかったことになり,近い将来にこの断層が再び活動する可能性も否定できない.

一方,地形地質的な調査で得られた各断層セグメントの存在とその位置については,各種の物理探査によって異常な構造が推定された部分に対応し,確実度が高い.従って,今回示された活断層の通過する地域およびその周辺では,日頃から地震防災に配慮するとともに,公共の建物や重要構造物を避けるような措置や,それに対応する土地利用を考慮しておく必要がある.