6−2−3 断層変位の検討

第1層の撓みについて

第1層の上面境界面の分布は,トレンチ起点部(西側)の20m東側までは地形面とほぼ平行な緩斜面である.これ以東では傾斜6〜8°で緩やかに東側に撓み下がり,起点部から東40m付近を中心に幅8m程度の盆状構造をなす.この撓み下がりおよび盆状構造の部分では,より上位の地層が削り込む堆積構造が認められない.また,段丘堆積層の上部層(第3層)が離水期の堆積物と考えられる細粒層から構成されているため,第1層をこの部分で削り込んで堆積したものとは考えにくい.

従って,この撓み込み構造はテクトニックな運動により形成された可能性がある.このことは,現在の地表の微起伏が,第1層上面境界線の下方への撓み込み部分で,より緩やかな撓み込みを呈していることと調和的である.

第2層および第3層の厚層化区間の変形構造と変形機構

第2層と第3層の層厚は,上記の第1層が撓み下がる部分より東側(起点側より20m以東)で厚くなる.即ち,起点側(西側)ではこれら両層を合わせた層厚は90〜150cmであるが,これ以東では徐々に層厚が増加し,トレンチ終点部付近(東側)では220〜300cm以上と起点側層厚の2倍以上に厚層化している(図6−4).この厚層化が始まる地点付近では,第2層および第3層が,第1層に対してアバットおよびオーバーラップするような堆積構造は認められない.

この厚層化する部分では,第1層の上面境界は波状の形態を示し,礫層中の礫が第3層内にとり込まれている部分もある.また,第2層および第3層には,褶曲と層内の小規模なスラストで特徴づけられる構造が発達する.即ち,第2層および第3層内では東に向かうに従って,半波長100〜200cmのやや開いた小褶曲から,半波長50cm以下の閉じた小褶曲へと,褶曲の度合いの異なる背斜が西傾斜の小逆断層に切られている.そして,これらの小褶曲の軸面は,法面上方に向かうに従って東側へ屈曲している.

従って,この区間の第2層および第3層内では,トレンチの西側から東側へ向かうほど変形の程度が大きくなる.また,第1層上面境界が撓み下がる地点(起点側より20m東側)を境として,変形様式がその両側で不調和である.これは,第1層上面境界が撓み下がる地点より西側の地層が東側へ移動しつつ,第1層上面境界が盆状を呈する地点(起点側から東側30〜50m間)で西側の地層が押しつけられ,内部で褶曲を形成しながら側方短縮し,肥大化したものと考えられる.

さらに,この区間での第1層上面の波状構造は,第2層および第3層内の変形構造とは非調和な部分が多い.また,第1層の下部では礫は明瞭な堆積性のインブリケーションを示し,南北ないし北東−南西走向で西側へ20°以下で傾斜するものが多い.しかし,この卓越方向と異なって周囲のインブリケーションと斜交するものがある.これは初生的な堆積構造とは異なる後生的な変形構造を示している.第1層上部(20〜50cm)では礫の配列に乱れがあり,第1層の礫層中の礫が第3層内にとり込まれている部分もある.このような礫層における構造の乱れは,第2層および第3層の側方への移動で形成されたものではなく,氷期における凍結擾乱作用により形成されたものであると考えられる

これらのことから,本区間では認められた変形構造は,凍結擾乱作用に関わる斜面における匍行性移動により形成されたものである.

撓みの形成時代

上述したように,第1層が撓み下がる部分で第2層および第3層は,ソリフラクションによってその層厚を肥大化させている.従って,第2層および第3層堆積後の地表面は,第1層上面境界が撓み下がる部分で,ソリフラクションによる斜面の変形構造の形成前に,既に第1層上面と同様な形態の斜面を形成していたと考えられる.即ち,ソリフラクションによる斜面変動以前にテクトニックな撓曲崖が形成されていたことになる.前述のようにトレンチ部の段丘面の形成時期は,最終氷期前半以前とされている.また,花粉分析の結果から,第3層は冷涼期〜寒冷期の堆積物であることが判明している.従って,段丘面および撓曲は,最終氷期には既に形成されていたことになる.