本地区は,尾白利加川の下流部にあたり,開析の進んだ丘陵地とその東縁の台地および川沿いに発達した河成段丘により特徴づけられる.地形面は,高位よりT3面,T4面,T5面,T6面および低地面が区別できる(図5−1地質図).T3面は,主に尾白利加川より北側の丘陵地東縁部に分布し,東向きの顕著な斜面として存在する.T4面は尾白利加川に沿って分布するが,連続性は悪い.T5面は尾白利加川に沿って分布し,連続性は良好である.T6面は,現河床からの比高が5〜10m前後で,丘陵地東側と尾白利加川沿いの地域に広く分布し,雨竜市街および追分市街を載せる.低地面は,主に尾白利加川とその支流に沿って分布し,全体として樹枝状の分布パターンを示す.
地形面の変位および撓曲
上述した河成面はいずれも撓曲し,深川層群の背斜軸部に向って急激に上昇するように見える.変位地形の累積性を明らかにするために,5,000分の1地形図を用いて断面図を作成し,図5−2に示した.この際,有力なリニアメントとして識別できる地形変換の基準線に尾白利加川の谷方向を考慮に入れ,ある角度をもってほぼ平行にT3面,T5面,T6面,および低地面の断面線を引いて断面を作成した.
T3面の撓曲部は,幅が最大約1.3km,最小0.35kmとみなされ,その間の変位の高度差は30〜68mである.T5面の撓曲部の幅は約0.2〜0.5kmで,その間の変位の高度差は6〜18mである.T6面については,地形変換の基準線付近でわずかに変位しているように見えるが,全体としてはその断面は低地面にほぼ平行しており,ほとんど変位は認められない.低地面については,変位は全く認められない.
T3面とT5面について変位の高度差を比較すると,古い段丘面ほどその値が大きくなり,変位の累積性が認められる.ただし,第四紀前半の堆積物は本地区付近には存在しないようなので,第四紀全体を通した変位の進行状況は不明である.
地質・地質構造
掘削地点付近の地質は,地質図(図5−1)・層序表(表5−1)に示したように,下位より新十津川層群(増毛層)・深川層群・段丘堆積物(T3〜T6面堆積物),および低地面堆積物より構成される.
新十津川層群は,曲の沢川付近の滝ノ沢背斜軸部に分布し,泥岩〜砂質泥岩より構成される.珪藻化石の検討などから,後期中新世とみなされている(古沢ほか,1993).
深川層群は,第四系の下位に広く分布し,層厚は約1000mである.下位より幌加尾白利加層,一ノ沢層および美葉牛層に区分されている.本層群の年代は,貝化石,珪藻化石および凝灰岩の放射年代(K−Ar)などの検討から,後期中新世末〜鮮新世中頃とみなされている(古沢ほか,1993).
段丘堆積物は,いずれも河川成礫相の特徴を示す.このうちT3面堆積物は,トレンチ地点付近で実施したボーリング調査によれば,10m程度の厚さを示す.表層部1.5m前後は,主に粘土〜砂質粘土層である.T5面堆積物は,上部2m前後は粘土層となっている.トレンチ地点南西約1kmの砂利採取場跡地(採取地点は図5−1のRYU−03)では,地表下1.8m付近の粘土層中に腐植層が挟まれ,その14C年代は980±60yBPである.低地面堆積物は,厚さが3m前後であり,表層に腐植・土壌をともなう.
調査地区は雨竜町豊里にあり,地質構造的には雨竜町恵岱別川から新十津川町の徳富川下流付近まで続く新第三系の右雁行背斜系列のうち,滝ノ沢背斜の東翼部にあたる(地質概略図参照).本背斜は,尾白利加川を縦断して北北西−南南東方向の軸を有し,約10kmの長さをもつ西緩東急の構造形態をとっている.東翼部のうち,尾白利加川付近より南側では直立・逆転帯となっており,北側では30°〜40°前後の傾斜帯となっている.なお,尾白利加川河床露頭の観察によれば,深川層群を切り,直立・逆転帯に走向がほぼ一致する断層として地質断層1〜3の存在が確認できる(図5−1).
トレンチ地点の評価
トレンチの掘削候補地は,T3面にみられる撓曲帯の縁辺部に位置している.地形的に認められたリニアメント付近で,反射法の結果では,深川層群に対応する東傾斜の反射面の傾きが急激に緩くなり,西傾斜に転ずる背斜状の構造が確認されている.このことは,トレンチ箇所付近で行なわれたボーリング調査でも確かめられている.