0 まえがき

北海道周辺では,1993年1月15日に釧路沖地震(マグニチュードM7.8)が発生して以降,同年7月12日に北海道南西沖地震(M7.8),そして94年10月4日には北海道東方沖地震(M8.1)と,僅か2年弱の間に被害地震が相次いで発生した.これらの地震により市民生活や経済活動は大被害を受け,その復旧に大きな費用と長い時間を要した.1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震は,阪神・淡路地方に戦後最大級の大災害をもたらした.この地震は,M7.2で特に大きなものではなかったが,都市の直下に存在する活断層が引き起こした直下型地震であり,実際に地表に断層が出現した.このため,北海道においても活断層と直下型地震の関係が大きく注目されるようになった.道はこれまでの教訓を生かし,直下型地震を念頭においた地震防災対策の検討に資するため,1995(平成7)年度から道内に存在する活断層の調査・研究を開始した.

この調査の目的は,活断層の分布位置や規模を明確にすること,およびその活動時期と活動間隔を解明することである.特に,最も新しく活動した時期を明らかにすることが重要である.断層の位置や長さが明らかになれば,地震発生地域をおおまかに推定したり,地震の規模を予測することができる.活動間隔や最新活動時期が明らかになれば,その断層が将来活動するまでの時間的余裕を判断することもできる.また,過去に断層がどのように活動したのかを知ることは,将来ありうる地震の性質を把握することにつながると考えられる.

地震学の最近の研究成果によれば,地震発生のメカニズムは断層運動そのものであるとされている.太平洋側の海溝付近にあるプレート境界付近で発生する巨大地震は,その活動間隔が数十〜数百年といわれている.これまで北海道に被害をもたらした地震は,このタイプのものが多い.一方,本州地方ではプレート境界型の地震とともに,内陸あるいはプレート内に震源を持つ地震が,大きな被害をもたらしてきた.内陸直下型の地震は,M6.5〜7以上の規模になると地表に地震断層を出現させるため,活断層が動くことによって発生する地震であることが理解できる.その活動間隔は,千年〜数万年のオ−ダになるのが一般的で,規模の割に大きな被害をもたらすことが特徴である.しかしながら,古い歴史的記録の少ない北海道では,これまで活断層と直下型地震の対応関係が明確にされた例はない.

北海道内に分布する断層で,活断層であることが確実とされるものは62断層である(活断層研究会,1991).これらのうち,主要都市の直下あるいは近傍に分布する活断層が活動した場合には,大きな被害の発生する可能性が高い.このため,北海道地域防災計画の一環として,大都市近傍に分布する5断層(帯)について調査を実施することになった.この計画では,各断層(帯)につき3年間の調査を行い,全体を9年間で完了することになっている.

この解説書は,平成7年度〜9年度に実施した,札幌市の北東方向に位置する増毛山地東縁断層帯(樺戸断層群)に関する調査結果をとりまとめたものである.平成7年度の調査は北海道費(活断層調査研究費)で実施したが,平成8年度は国の地震調査研究交付金事業,平成9年度は地震関係基礎調査交付金事業(いずれも科学技術庁)として実施されたものであり,本解説書もこれによるものである.

本断層帯の調査を実施するにあたって,北竜町・雨竜町・新十津川町・浦臼町・月形町の担当者には,資料を提供して頂いたり,調査実施に対する地元の理解を得るために尽力して頂いた.雨竜町の長谷川直己氏および浦臼町の氏原志呂夫氏・土橋克夫氏には,トレンチ調査用地の借用を快諾して頂いた.平成7年度の物理探査による地下構造の解明および平成8年度のトレンチ調査は応用地質株式会社に委託して実施した.また,北海道立地下資源調査所の大津直研究職員・小澤聡研究職員・黒澤邦彦環境工学科長・遠藤祐司研究職員には,現地調査にあたり協力して頂いた.なお,北海道活断層調査委員会の各委員からは調査の実施および結果の解釈について,種々の技術的助言を頂いた.ここに記してこれらの方々に深く感謝の意を表する.