(6)断層変位地形

樺戸断層群の断層変位地形についての研究は,これまで杉山ほか(1987)・活断層研究会(1991)の概略的な報告があるのみである.以下では,活断層研究会(1991)による断層名を用いて,北から南へ向かって順に記載する.

@和断層

恵岱別川と雨竜川の合流点付近の雨竜町牧岡では,Lg−1面が撓曲変形している.撓曲帯の走向は南北,幅は100〜250mで東へ向かって撓み下がっている(延長1.5km).垂直変位量は10〜25m程度であり,Lg−1の離水年代を5万年前とすると変位速度は0.2〜0.5m/千年程度である.この撓曲帯付近の露頭では,鮮新世の美葉牛層が南北の走向で18〜23゜東に傾き,段丘堆積物も10゜程度東に傾く.この撓曲帯の西方250mには,西落ちの低断層崖が並走している.

この北方の沖積面にあたる北竜町和市街の西方には,低断層崖が報告されている(活断層研究会,1991)が,これは北西から流れる小豆川の旧河道と判断した.これより北方の撓曲帯はやや不明瞭ながら延長2.5km程度追跡できるが,それより北では人工改変も大きく不明瞭となる.従って,延長は6.5〜10km程度である.

A樺戸断層群セグメントa

雨竜町洲本から豊里にかけての山麓線に沿って,幅50〜200m・延長4kmの撓曲帯が走っている.この撓曲帯では,Lg−1面・Lg−3面が東へ撓み下がっている.雨竜町豊里から新生にかけて分布するLg−3面には,ほぼ南北走向の3本の撓曲崖が認められる.中央の撓曲崖の断面測量結果図3−1−3によると,撓曲崖の幅は200mで,5m東に撓み下がっている.これらの撓曲崖は,人工改変を受けている.

西側の撓曲崖と中央の撓曲崖の間には,南北走向の地形的な活背斜軸が存在している.この活背斜軸の西側では,Lg−3面の勾配が緩くなっている.幌加尾白利加川では,鮮新統が急立・逆転しており,数カ所で断層露頭がみられるが,第四系を切る露頭は認められない.

雨竜町新生から新十津川町大和にかけては,三角末端面が延長4kmにわたって連続するが,Ho面や沖積低地面に明瞭な断層変位地形は見あたらない.この三角末端面を構成するのは急立した美葉牛層(特に火砕岩層)である.

新十津川町大和には,北北東から南南西走向の2本の撓曲帯が存在し,それらの間に同じ走向の活背斜軸が存在している.東側の撓曲帯は幅200m・延長2.5kmで,ここではLg−3面・Lg−1面が東へ撓み下がっている.西側の撓曲帯は幅100mで,ここでLg−3面が西側へ撓んだ結果,緩勾配になっている.

新十津川町総富地川下流の両岸には,北北東から南南西走向のやや不明瞭な撓曲帯が存在し,ここでLg−3面・Lg−1面が東へ撓み下がっている.沖積低地面をはさんで延長は3kmである.

大和から総富地川にかけては,地質的に明瞭な撓曲構造は認められない.むしろ美葉牛層の10゜前後の傾斜の緩やかな褶曲に対応するように見える.

セグメントaが,すべて連続するとすれば総延長は19.5kmである.

B樺戸断層群セグメントb

新十津川町中徳富から浦臼町於札内にかけては,明瞭な断層変位地形は見あたらない.活断層研究会(1991)で表現されている撓曲崖付近には,大きな砂利採取場があり,そこにはほぼ水平な河川成砂礫層(美葉牛層)が分布するのが確認された.

C樺戸断層群セグメントc

浦臼町於札内から浦臼沢にかけて北東〜南西走向の撓曲帯が存在し,ここでLg−1面・Mp−4面・Mp−2面が南東へ撓み下がっている.この撓曲帯の中央部分では,撓曲帯の両側の段丘面は同一時代に形成されたものではない.このためこの部分が撓曲帯である確実度は高くない.断面測量の結果(図3−1−3)によると,浦臼沢左岸のMp−4面は,幅200mの撓曲帯で,13m東に撓み下がっている.

浦臼町浦臼沢から月形町札比内にかけては,北東〜南西走向・幅100〜300m・延長12kmの撓曲帯がみられる.確実度は小さいが,これに並走して1〜3本の撓曲帯もみられる.これらの撓曲帯では,Ho面・Lg−2面・Lg−1面・Mp−4面が南東へ撓み下がっている.断面測量の結果(図3−1−3)によると,札的内川下流左岸のHo面は,幅150mの撓曲帯で1m東に撓み下がっている.また,札的内川下流右岸のLg−1面は,幅150mの撓曲帯で4.5m東に撓み下がっている.この撓曲帯にそって,浦臼射撃場,札的内沢左岸,共有地の沢,晩生内左岸,札比内川左岸などの各地点で,厚軽臼内層上部の礫岩層が撓曲構造を示していることを確認した.

D樺戸断層群セグメントd

月形町北農場から知来乙にかけての山麓線付近には,撓曲帯が存在するようであるが,一続きの段丘面を変形させているわけではないので確実ではない.月形町知来乙から五耕地山にかけては,東北東〜西南西走向で,幅400mの撓曲帯が存在している.ここでは,Lg−2面が南南東へ撓み下がっている.

この撓曲帯はセグメントcの東側の確実度の小さな撓曲帯の延長部へ連続するようにもみえる.従って,cとdは同時に活動している可能性がある.

E浦臼断層その他

この地域の山地側には,従来,セグメントa南端部に並走する「自衛隊射撃場南西」(確実度V:長さ2.5km),およびセグメントcの北部に並走する「浦臼断層」(確実度U:長さ7km)の2つのリニアメントの存在が指摘されている.これらについては,段丘面の変位を確認できなかった.