(2)標高−10m以浅の火山灰分析

A.分析手法

ボーリングNo.1,No.2およびNo.3を通じ,肉眼ではNo.1の腐植土層中6.3−6.4mに僅か数mmの厚さで淡黄灰色を呈した火山灰が識別できるほかは,火山灰は全く識別が困難であった.肉眼で識別できた腐植土中にはさまれる火山灰のガラスの形態および屈折率を測定したところ,この火山灰は,バブルウォールタイプの火山ガラスを主体とし,屈折率が1.509−1.515であることからK−Ahであることが判明した.

そこで,ATより上位のテフラの層準を把握するために,このK−Ah産出層準を基準に,腐植土およびこれをはさむ地層を対象に10cm間隔で連続的に試料を採取した.この試料を洗浄・篩い分けし極細砂サイズ粒子(1/8〜1/16mm)に粒度調整し,この粒度調整試料中の火山ガラス,および自形で新鮮な角閃石や斜方輝石の含有率を測定した.通常は200粒子程度を観察するが,今回の調査地点ではATが砂礫中に著しく希釈され,混在していることなどが予想されるため,数千粒子を観察し,2000粒子中の個数で表現できるように検鏡した.この作業で僅かにでもテフラ起源鉱物が目立って含まれる層準については,同鉱物の屈折率を測定した.

B.分析結果および火山灰層序(図3−4−4−1−2

ボーリングコア中の極細砂サイズ粒子の粒子組成特性を図3−4−4−2−2図3−4−4−3に示す.また,これと詳細な火山ガラスの屈折率とをまとめて図3−4−4−4図3−4−4−5図3−4−4−6に示す.

C.No.1分析結果

(a)検出火山灰の産状

火山ガラスの形態および屈折率から特徴的な5層準を識別できる.

@深度3.0−3.1mの火山灰の産状

微量ではあるが細かい発泡壁の残存する火山ガラス(火山灰アトラスのパミスタイプ)が含まれる(巻末屈折率データ参照),検討した主要な火山灰は全て巻末偏光顕微鏡写真に表示,以下同様).屈折率は1.501−1.505である.

A深度5.2−5.4mの火山灰の産状

微小斑晶を多く含む無〜低発泡火山ガラスが2%程度含まれる.これより上下の層準にはこれらのガラスはほとんど含まれていない.ガラスには緑色普通角閃石が付着していることも多い.ガラスの付着した角閃石の屈折率は1..670−1.684で1.673−1.678にモードがみられる.

B深度6.3−6.4mの火山灰の産状

大きな発泡壁の残存する火山ガラス(火山灰アトラスのバブルウォールタイプ)が40%以上含まれる.屈折率は1.509−1.515である.水和の不良が目立つ.

C深度8.5−8.6mの火山灰の産状

微量ではあるがパミスタイプで屈折率が1.503−1.506の火山ガラスが含まれる.

D深度9.3−9.4mの火山灰の産状

少量ではあるがバブルウォールタイプで屈折率が1.496−1.501の火山ガラスが含まれる.これらのガラスは10.3mより上位の層準に頻繁に含まれるが,Bのガラスの混在しない層準における最下部の多産層準が9.3−9.4mである.

(b)検出火山灰の対比

上記深度に対応する火山ガラスの対比を以下で検討する.

@火山ガラス

No.2およびNo.3のカワゴ平火山灰(以降Kgと略記)起源のガラスと形態および屈折率が一致する.また,No.2およびNo.3ではやはりAと特徴の一致するガラスが多産する層準の上位にKgが挟まれること,および後述する深度6.3−6.4mには鬼界アカホヤ火山灰降灰層準が識別できることから,@のガラスはKg起源と考えられる.このような特徴のガラスは上下の層準に含まれないことから深度3.0−3.1mはKg降灰層準と考えられる.

A火山ガラス

特徴は雲仙普賢岳でその特徴的な噴火様式が観察されたブロックアンドアッシュフロータイプの噴火によくみられる.近畿地方周辺では三瓶火山が1万年以降に度々このような噴火を繰り返している.同火山の噴出物もやはり微小斑晶を多量に含む無〜低発泡の火山ガラスを主体とする.有色鉱物としては緑色普通角閃石を主体とし,黒雲母を含む.深度5.2−5.4mには本質とみられる黒雲母は明確に識別できないが,このほかにガラスの特徴と有色鉱物が角閃石を主体とするテフラを噴出する火山が見あたらないことから,Aのガラスは三瓶火山起源である可能性がある.No.2の深度7.4−7.5mとNo.3の9.0−9.1mにも同様の特徴を有し,角閃石の屈折率が本層準のものと類似するテフラが含まれる.これら3層準は対比でき,本報告ではこれらのテフラをHo(Hornblendeの略)と仮称する.なお,最近の福岡,松井(2002)では4700年前の可能性が高い.

B火山ガラス

形態(バブルウォールタイプ)から広域テフラであることは明かである.ガラスの屈折率および水和不良であることからこれらのガラスは我が国一級の広域テフラ鬼界アカホヤ火山灰(以降K−Ahと略記)に対比で,No.1の深度6.3−6.4mはK−Ah降灰層準である.

C火山ガラス

近畿地方北部では姶良丹沢火山灰(以降ATと略記)の上位に堆積する大山ホーキ火山灰(以降Hokiと略記)の屈折率と類似する.深度8.6−8.7mの上下層準にはこれらのガラスがほとんど含まれないこと,および,深度9.3−9.4mに後述するAT層準が識別できることから,No.1の深度8.5−8.6mはHoki降灰層準である可能性が指摘できる.

D火山ガラス

Bと同様バブルウォールタイプであることがら広域テフラである.屈折率および水和良好であること,およびK−Ahを挟む細粒土直下の砂礫層に含まれていることからこれらのガラスはAT起源であると考えられる.AT起源と考えられるガラスは深度10.3mより上位に頻繁に含まれ,深度9.3−9.4mより上位には,同層準より多くのAT起源ガラスを含む層準もみられる.しかし,深度9.3−9.4mはK−Ah起源の混在率がきわめて小さい.また直上にHokiとみられるガラス産出層準も識別できることから,No.1では深度9.3−9.4mにATが降灰したと考えられる.

これより上位の層準に多量に含まれるATは周辺の保存の良い地域に堆積したATの再堆積であると考えられる.K−AhがAT層準付近にまで混在している理由は明確ではないが,あるいはボーリング掘進中の混在も予想される.

D.No.2分析結果

(a)検出火山灰の産状

火山ガラスの形態および屈折率から特徴的な4層準を識別できる.

@深度5,8−5.9mの火山灰の産状

細かい発泡壁の残存するパミスタイプの火山ガラスが約17%含まれる.屈折率は1.499−1.503である.この層準には火山ガラスの付着した緑色普通角閃石および斜方輝石も含まれる.角閃石の屈折率は1.670−1.684,斜方輝石は1.704−1.709である.

A深度7.4−7.5mの火山灰の産状

微小斑晶を多く含む無〜低発泡火山ガラスが2%程度含まれる.これより上下の層準にはこれらのガラスはほとんど含まれていない.ガラスには緑色普通角閃石が付着していることも多い.ガラスの付着した角閃石の屈折率は1.671−1.689で1.673−1.679にモードがみられる.

B深度8.8−8.9mの火山灰の産状

大きな発泡壁の残存するバブルウォールタイプの火山ガラスが7%程度含まれる.屈折率は1.510−1.513である.水和の不良が目立つ.

C深度12.6−12.7mの火山灰の産状

少量ではあるがバブルウォールタイプで屈折率が1.496−1.501の火山ガラスが含まれる.これらのガラスは14.3mより上位の層準に頻繁に含まれるが,Bのガラスの混在しない層準における最下部の多産層準が12.6−12.7mである.

(b)検出火山灰の対比

@火山ガラス

Kg起源のガラスと形態および屈折率が一致する.また,本層準の下位にはK−AhおよびHoが識別できることから,@のガラスはKg起源と考えられる.このような特徴のガラスは上下の層準に含まれないことから深度5.8−5.9mはKg降灰層準と考えられる.

A火山ガラス

特徴はNo.1のHoと類似する.また,角閃石の屈折率もほぼ一致することからAのガラスはHo起源であり,深度7.4−7.5mはHo降灰層準と考えられる.

B火山ガラス

形態(バブルウォールタイプ)から広域テフラであることは明かである.ガラスの屈折率および水和不良であることからこれらのガラスは我が国一級の広域テフラK−Ahに対比できる.従って,No.2の深度8.8−8.9mはK−Ah降灰層準である.

C火山ガラス

Bと同様バブルウォールタイプであることから広域テフラである.屈折率および水和良好であること,およびK−Ahを挟む細粒土直下の砂礫層に含まれていることからこれらのガラスはAT起源であると考えられる.AT起源と考えられるガラスは深度14.3mより上位に頻繁に含まれ,深度8.8−8.9mより上位には,同層準より多くのAT起源ガラスを含む層準もみられる.しかし,深度8.8−8.9mはK−Ah起源の混在率がきわめて小さい.またK−Ahとの間に目立って含有量の大きい層準は見あたらないことから,No.2では深度8.8−8.9mにATが降灰したと考えられる.

これより上位の層準に多量に含まれるATは周辺の保存の良い地域に堆積したATの再堆積であると考えられる.K−AhがAT層準付近にまで混在している理由は明確ではないが,あるいはボーリング掘進中の混在も予想される.

E.No.3分析結果

(a)検出火山灰の産状

火山ガラスの形態および屈折率から特徴的な4層準を識別できる.

@深度7.5−7.6mの火山灰の産状

細かい発泡壁の残存するパミスタイプの火山ガラスが約11%含まれる.屈折率は1.496−1.504である.この層準には火山ガラスの付着した緑色普通角閃石および斜方輝石も含まれる.角閃石の屈折率は1.669−1.681,斜方輝石は1.703−1.708である.

A深度9.0−9.1mの火山灰の産状

微小斑晶を多く含む無〜低発泡火山ガラスが8%程度含まれる.これより上下の層準にはこれらのガラスはほとんど含まれていない.ガラスには緑色普通角閃石が付着していることも多い.ガラスの付着した角閃石の屈折率は1.672−1.689で1.673−1.677にモードがみられる.

B深度10.7−10.8mの火山灰の産状

大きな発泡壁の残存するバブルウォールタイプの火山ガラスが4%程度含まれる.屈折率は1.508−1.513である.水和の不良が目立つ.

C深度15.8−15.9mの火山灰の産状

バブルウォールタイプで屈折率が1.496−1.501の火山ガラスが明瞭な含有量ピークを示し含まれる.

(b)検出火山灰の対比

@火山ガラス

Kg起源のガラスと形態および屈折率が一致する.また,本層準の下位にはK−AhおよびHoが識別できることから,@のガラスはKg起源と考えられる.このような特徴のガラスは上下の層準に含まれないことから深度7.5−7.6mはKg降灰層準と考えられる.

A火山ガラス

特徴はNo.1およびNo.2のHoと類似する.また,角閃石の屈折率もほぼ一致することからAのガラスはHo起源であり,深度9.0−9.1mはHo降灰層準と考えられる.

B火山ガラス

形態(バブルウォールタイプ)から広域テフラであることは明かである.ガラスの屈折率および水和不良であることからこれらのガラスは広域テフラK−Ahに対比できる.従って,No.3の深度10.7−10.89mはK−Ah降灰層準である.

C火山ガラス

Bと同様バブルウォールタイプであることから広域テフラである.屈折率および水和良好であること,およびK−Ahを挟む細粒土の最下部に含まれていることからこれらのガラスはAT起源であると考えられる.

以上の結果を取りまとめ,ボーリング間で対比したものを図1−16図3−4−4−1−2に示した.