分析に供した試料はボーリングNo.1,No.2,No.3から採取された25検体である(図1−17,表3−4−3−1,図3−4−3−1参照).花粉分析の結果は表3−4−3−2に示す.解析を行うために同定・計数の結果にもとづいて,花粉化石組成図を作成した(図3−4−3−2と図3−4−3−3).本分析調査ではハンノキ属を非常に多く産出する試料がみられるので,各花粉・胞子化石の出現率は,以下のようにして算出する.木本花粉(Arboreal pollen)の場合はハンノキ属を除く木本花粉の合計個体数を,ハンノキ属と草本花粉(Nonarboreal pollen)とシダ・コケ植物胞子(Pteridophyta & Bryophyta spores)の場合は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数とした百分率である.図表において複数の種類をハイフォン(−)で結んだものは,その間の区別が明確でないものである.
B.産出花粉
花粉分析の結果,この度のボーリング試料からは以下の化石が検出された.
木本花粉:モミ属,ツガ属,トウヒ属,マツ属(単維管束亜属,複維管束亜属,亜属不明),コウヤマキ属,スギ属,クマシデ属−アサダ属,ハンノキ属,ブナ属,コナラ属コナラ亜属(以後コナラ亜属と記述する),コナラ属
アカガシ亜属(以後アカガシ亜属と記述する),ニレ属−ケヤキ属,フウ属,サルスベリ属など52種類(taxa)
草本花粉:ガマ属,イネ科,カヤツリグサ科,フサモ属,ヨモギ属,キク亜科など21種類(taxa).
シダ植物・コケ植物胞子:ヒカゲノカズラ属,ゼンマイ属,イノモトソウ属,ミズワラビ属,サンショウモ,その他のシダ植物胞子,ミズゴケ属の7種類(taxa)
その他の微化石:クンショウモ
再堆積化石:メタセコイア属(保存状態がほかの化石よりも悪いので再堆積化石とした)
C.花粉帯
花粉分析の結果から花粉帯を粘土層と砂礫層および火山灰層の層序を基に下位より以下のように設定する(図3−4−3−2,図3−4−3−3).
(a)T帯(a,b亜帯)
ボーリングNo.3の試料番号18〜21(深度180.5〜199.5m)(佐川U火山灰層直下).マツ属,スギ属,コウヤマキ属,ブナ属,ニレ属−ケヤキ属などを主に産出し,アカガシ亜属,サルスベリ属を伴う.また,ハンノキ属の産出も多い.本帯は下位よりaとb亜帯に細分される.a亜帯は試料番号20と21(深度198.5〜199.5m)でブナ属とマツ属が優占するとともにアカガシ亜属の産出も目立つ.b亜帯は試料番号18と19(深度180.5〜181.5m)でブナ属とマツ属がやや減少してコウヤマキ属,スギ属,ニレ属−ケヤキ属,ハンノキ属が増加する.
(b)U帯
ボーリングNo.3の試料番号16と17(深度151.5〜152.5m)(サクラ火山灰層の直上).スギ属とコウヤマキ属が著しく多産する.低率ながらアカガシ亜属,サルスベリ属を伴う.また,ハンノキ属の産出も多い.
(c)V帯
ボーリングNo.3の試料番号14と15(深度139.5〜141.5m).
花粉化石の保存状態が非常に悪く,産出も非常に少ない.マツ属,コウヤマキ属,ブナ属などが散見される.
(d)W帯(a,b,c亜帯)
ボーリングNo.3の試料番号5〜14(深度83.5〜110.5m).
ボーリングNo.1の試料番号1と2(深度39.5〜40.5m).
アカガシ亜属,コウヤマキ属,スギ属,コウヤマキ属,ブナ属が優占して産出し,ニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属などを伴う.本帯は下位よりa,b,c亜帯に細分される.
a亜帯はボーリングNo.3の試料番号12と13(深度109.5〜110.5m)でアカガシ亜属が卓越して産出し,コウヤマキ属,ブナ属,マツ属などを伴う.
b亜帯はボーリングNo.3の試料番号9〜11(深度96.5〜98.5m)でコウヤマキ属が卓越して産出し,スギ属,アカガシ亜属を伴う.また,フウ属もこの植物の花粉としては多産する.サルスベリ属を低率で産出する.なお,本亜帯の花粉化石は風化または酸化作用を受けたようであり,保存状態は全般的に悪い.
c亜帯はボーリングNo.3の試料番号5〜8(深度83.5〜86.5m)とボーリングNo.1の試料番号1と2(深度39.5〜40.5m)でブナ属が卓越して産出し,マツ属,スギ属,コナラ亜属,ニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属などを伴う.
(e)X帯(a,b,c亜帯)
ボーリングNo.3の試料番号1〜4(深度51.7〜54.5m)(BT−74火山灰層直上).
ボーリングNo.2の試料番号1と2(深度38.5〜39.5m).
コウヤマキ属,スギ属,コナラ亜属が優占して産出し,マツ属,ブナ属,ニレ属−ケヤキ属等を伴う.また,アカガシ亜属,サルスベリ属など僅かに産出する.また,最上部ではハンノキ属が卓越して産出する.本帯は下位よりa,b,c亜帯に細分される.
a亜帯はボーリングNo.3の試料番号4(深度54.5m)でコナラ亜属とコウヤマキ属が優先して産出し,スギ属,ブナ属,ニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属などを伴う.
b亜帯はボーリングNo.3の試料番号2と3(深度52.45〜53.5m)で花粉化石の保存状態が非常に悪く,花粉化石の産出も少ない.コウヤマキ属,スギ属,ハンノキ属,ブナ属,コナラ亜属などを産出する.サルスベリ属も僅かに産出する.
c亜帯はボーリングNo.3の試料番号1(深度51.7m)とボーリングNo.2の試料番号1と2(深度38.5〜39.5m m)でスギ属が卓越して産出し,マツ属,イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科,コナラ亜属などを伴う.