(1)概要

A.原理

大気中には12C,13C,14Cの炭素同位体がある.この内,14Cは,約5,600年の半減期で12Cの安定な炭素同位体に変化する.一方,大気中の12Cは,宇宙線を浴びると,14C炭素同位体に変わる.宇宙線シャワーの強度が一定であれば,一定量の14Cが生成され,14C/12Cの比は一定での大気中に存在する.この14C/12Cの炭素を取り込んだ植物や動物中の炭素の14Cは時間と共に少なくなる.少なくなる割合は一定であることから,遺体となった植物片等の14C/12Cの同位体比を測定すれば,その植物片形成の時間が推定できる.時間と共に14Cは急激に少なくなり,有意の14C/12Cが得られなくなる.宇宙線の強度については,年輪年代測定法との併用で,分析年代値の補正が可能となっている.

B.試料調整と測定実施機関

地域 地盤 環境 研究所で,肉眼観察で試料から不純物を除去し,炭質物を抽出して,試料の調整をおこなった.同研究所経由で,ニュージランド国立放射線測定研究所(GRI)に加速器質量分析法(AMS)法による測定を委託した.

C.測定方法

 測定方法は大きく分けて以下の2つの方法がある.

  ・β線計数法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間接法

  ・加速器質量分析法(AMS)・・・・・・・・・ 直接法

β線計数法は放射壊変で放出されるβ線を計測し,14C濃度を分析する方法である.具体的には,試料をベンゼン等の炭素化合物の液体とし,液体シチレーション計数法で測定をおこなう方法である.この方法では,β線測定が重要であるが,宇宙線等の外部からのβ線(バックグラウンド)より有意のβ線強度が必要である.この制約のため,試料が数10?100g程度必要で,測定限界が3万年前程度とされている.

加速器質量分析法は,14Cが壊変する際に放出されるβ線を検出するのではなく,14C原子質量を直接検出する方法である.加速器質量分析法はβ線計数法に比べ,より少量の1g程度で,測定限界が約5万年前まで測定できる長所がある.一方,試料のもつ問題(数千の年輪をもつ材化石では,箇所毎に年代値が異なる),上部地層中からの新規の炭素の混入,処理上の汚染など新たな問題も多い.

D.分析結果の整理と表示

14C年代測定値:試料の14C/12C比から,単純に現在(1,950年A,D,)から何年前(y.B.P.=year Before Present)であるのかを計算した値である.半減期5,568年を用いた.

補正14C年代値:試料の炭素安定同位体比(13C/12C)を測定して試料の炭素の同位体分別を知り,14C/12Cの測定値に補正値を加えた上で,算出した年代.

δ13C測定値:試料の測定14C/12C比を補正するための13C/12C比である.この安定同位体比は,下式のように標準物質(PDB)の同位体比から千分偏差()で表現する.ここで,13C/12C[標準]=0.0112372である.

暦年代:過去の宇宙線強度の変動による大気中14C濃度の変動に対する補正で,暦年代を算出する.そこで,年代既知の樹木年輪14Cの詳細な測定値を使用した   

(Stuiver et al.,1993; Vogel et al.,1993; TalMa and Vogel,1993).この補正は10,000年BPより古い試料には適用できないとされている.

文献

(1)加藤碩一・脇田浩二(2001):地質学ハンドブック.朝倉書店,696.

(2)第四紀学会編(1993):第四紀試料分析法.東京大学出版会,556.E.測定結果