(1)宇治川断層の分布(長さ)と連続性

A.宇治川断層の性質

断層を横断するP波反射法探査の測線は,西から東の順で,八幡測線,淀測線,堀川−巨椋池測線,三栖測線,観月橋測線,桃山南測線,小栗栖−石田測線の7測線である.最も北東の小栗栖−石田測線を除き,各測線での断層は,基盤岩上面やそれを覆う大阪層群が南側沈降の共通の性質を持つ.基盤岩上面の形状が明瞭に現れた堀川−巨椋池測線では,基盤岩上面は断層で切断されているが,他の測線でその関係は明瞭に現れていない.断層付近の大阪層群中の反射面は基盤岩上面の変位・変形と調和的で,幅200m程度の急斜帯(撓曲)として現れる.下位ほどその変位量が大きく,地表近くでは殆ど水平となり,変位の累積性が認められる.

B.各測線での特徴

西方の八幡測線では基盤岩上面を基準とすると,その変位量は約120mである.淀測線で基盤岩上面の変位量は明瞭ではないが,基盤岩上面近くの大阪層群中の反射面では,約120mの変位量が認められる.堀川−巨椋池測線では基盤岩上面に約150m,三栖測線では基盤岩上面に約200mの変位が認められる.観月橋測線では,宇治川断層付近は大阪層群が周囲に比べて,急斜帯として現れるが,断層を挟んでの基準となる反射面は不明瞭である.桃山南測線でも,観月橋測線と同様に断層帯は,大阪層群の急斜帯として現れる.両測線共,変位量の見積もりは難しい(図1−6図1−10).

このように,南西方の八幡,淀測線から三栖測線まで,ほぼ水平な基盤岩上面や大阪層群が,宇治川断層で変位を受けている状況は明瞭であるが,北東方の観月橋,桃山南測線では,基盤岩上面や大阪層群は見かけ上,南に傾き,そこでの断層や撓曲はやや不明瞭である.小栗栖−石田測線では,断層が想定される桃山丘陵と山科川間(約500m)の内,桃山丘陵側の約100m間の記録が悪く,この区間の断層の存在は不明である.残りの区間(400m)に,断層を示唆する構造はない.

C.宇治川断層の分布

各測線で認められた宇治川断層を連ねると,西南西方の桂川と宇治川合流付近から東北東方の桃山丘陵南東縁までのN55~60E方向で,ほぼ直線状に延びる.西端は,八幡測線以西に延びるが,有馬?高槻構造(断層)帯高槻−天王山断層(17)には繋がらない.北東延長では桃山丘陵南東縁付近を通り,小栗栖断層の分布方向に延びると思われたが,想定地点に断層の証拠は得られなかった.確認された長さは約9kmである(図1−19).

D.B1面の分布

各測線の反射パターン,解析速度,明瞭さから同一と思われる反射面の内,最上の反射面(B1面,図1−20)を用いて,等深線図(図1−21)と宇治川断層の変位量(表1−2)を作成した

八幡測線から観月橋測線までの6測線では,B1面に現れた宇治川断層の撓曲帯は明瞭で,その変位量は堀川−巨椋池測線の約35m,三栖測線の約40mを除くと,他は30m前後で,八幡測線から観月橋測線までの約7.5kmの区間,宇治川断層の変位量ほぼ30m程度の一定であった可能性がある.宇治川断層の上下盤の分布深度について見ると,両盤は西側に向かって,緩く傾くことが,読み取れる.

堀川−巨椋池測線での断層上盤でのB1面標高は−20m,下盤での標高は−55mである.約0.5km西側のボーリング調査から,この標高はMa10相当層とMa9相当層のほぼ中間に位置するもので,地質年代として360~400kaと思われる(表1−3).

E.重力探査結果との比較

重力探査から京都盆地地下の基盤岩分布が推定されている(図1−22).男山付近から桃山付近を境に,北側の基盤岩分布標高は,−200~−300m以浅であるが,南側では−500〜−600mと深くなり,盆地は二つの部分からなることが明らかにされた.両者の境界に宇治川断層は重複し,盆地分化に関係する断層と見なされる.一方,範囲内での基盤岩分布図で,有馬−高槻構造(断層)帯は明瞭ではない.

男山付近北部で,宇治川断層を示唆する基盤岩上面の急崖は認められないことから,宇治川断層が,南西方に長く延びるとは思えない.北東側の小栗栖付近は2つに分かれる盆地の境界の東端で,基盤岩上面は南西側へ傾くが,その斜面の比高は中央に比して小さい.基盤構造から宇治川断層の有無は解らない.

F.連続性に関する情報

宇治川断層の西方延長付近に有馬−高槻断層帯(構造線)がある.政府の地震調査委員会は有馬−高槻断層帯に関する調査をまとめ,平均的な断層のずれ速度を1.5m/千年(横ずれ成分),最新活動時期を1596年慶長伏見地震で,その前の地震を奈良時代以降鎌倉時代以前とした.平均活動間隔は1~3千年程度,1回のずれ量を3m程度と評価した(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001).後述するように,宇治川断層と有馬−高槻構造(断層)帯のそれぞれの活動度や活動履歴は,異なる.