ボーリングNo.1及びNo.7孔では,連続試料を採取し,その他はポイントで採取を行った。
試料採取位置は
No.1: 深度6.3〜32.4m――27試料(1m間隔)
No.7: 深度4.8〜22.4m――19試料(1m間隔)
No.2: 14.2〜14.3m
22.65〜22.7m
No.7: 2.66〜2.68m
22.6〜22.7m
No.8: 14.7〜14.8m
19.8〜19.9m
以上52試料を分析した後,No.1孔およびNo.7孔で火山灰の痕跡が認められた区間について,20cm間隔で再度試料採取を行った。採取区間は以下の通りである。
深度: No.1,7.0〜8.0m(20cm間隔)
No.1,12.0〜13.0m(20cm間隔)
No.7,5.0〜6.0m(20cm間隔)
延べ67試料の分析を行った。分析結果を表5−5、表5−6、表5−7にしめす。また,詳細な火山灰分析報告書を巻末に添付する。
表5−5 火山灰分析結果一覧表(その1)
表5−6 火山灰分析結果一覧表(その2)
表5−7 火山灰分析結果一覧表(その3)
○No.1孔分析結果
テフラ起源の鉱物として以下のものが観察された。
深度7.0−7.1m :バブルウォールタイプの火山ガラスが0.1%程度
深度12.0−12.7m:
やや新鮮な緑色普通角閃石(カミングトン閃石:Cumを含む)
深度12.0−12.2m:少量の斜方輝石
深度22.7−23.0m:少量のやや新鮮な緑色普通角閃石
12.0−12.2mに含まれる斜方輝石,角閃石およびカミングトン閃石の屈折率は,大山最下部火山灰のhpm1,および大山下部火山灰のDMP(大山松江軽石)のそれときわめて類似する。各鉱物の屈折率のみからは,ボーリング試料が,どちらのテフラに対比されるかは判断しがたい。いっぽう,有色鉱物の組成は,12.0−12.2mがDMPである可能性を示唆する。以上から,No.1の深度12.0−12.2mに混在する火山灰は,大山火山起源のDMPに対比できる可能性が高い。
DMPは,約12〜13万年前に噴出したと考えられている。
なお,7.0−7.1mに含まれる火山ガラスの屈折率は,1.500−1.502である.同層準は他にテフラ起源の鉱物が含まれていないため,既知のテフラとの明瞭な対比は困難である。
上記屈折率で,バブルウォールタイプガラスを主体としたテフラとしては,AT,K−Tz,Ata−Th(阿多鳥浜)テフラなどがあげられる。K−Tzはβ石英を多量に含む。いっぽう,7.0−7.1mにはβ石英は目立って含まれていない。また,7.0−7.1mをAta−Thに対比した場合,12.0−12.2m層準をDMPテフラに対比することには層序的な矛盾を生ずる。hpm1でも同様である。
したがって,今回の分析結果のみでは,7.0−7.1mにはATが混在すると考えるのが最も合理的である。
○No.7孔分析結果
テフラ起源の鉱物として,深度5.5−5.9mにやや新鮮な緑色普通角閃石(カミングトン閃石:Cumを含む)が含まれる。
深度5.5−5.9mに含まれるテフラ起源の鉱物は,斜方輝石を含まないこと以外は,組成および角閃石およびカミングトン閃石の屈折率が,No.1の12m付近の層準と類似する。また,No.7の5.5−5.9m層準は層相からNo.1の12m層準に対比できる可能性がある。両地点に含まれるテフラ起源の鉱物は同一起源である可能性もある。
しかし,両層準を対比するには,斜方輝石の有無を合理的に説明する必要がある。その可能性の1つとしてDMPの層内における鉱物組成変化があげられる。No.1の12m層準は大山下部火山灰のDMP(大山松江軽石)層準であると考えたが,同テフラには,最下部にほとんど斜方輝石を含まない層準が存在する。あるいは,No.1とNo.7との違いはこのDMPテフラの特徴で説明できるとも考えられる。
一方,No.1の斜方輝石を含む層準が腐植質土層内に限られていることからも,両特徴の違いを説明できる可能性がある。すなわち,斜方輝石は著しくテフラの保存の良好な環境にのみ残存したとも考えられる。No.1においても斜方輝石の産出する層準の直下には角閃石が産出するが斜方輝石は含まれない層準がみられる。腐植土層以外には斜方輝石が残存しなかったとすれば,礫混じりシルト層であるNo.7の5.5−5.9m層準には斜方輝石が残存しない可能性がある。
以上から,No.7の深度5.5−5.9mに混在する火山灰も,大山火山起源のDMPに対比できる可能性が高い。
○スポット採取試料分析結果
No.1およびNo.7の連続採取試料とは別に,大阪層群と同定された層準で,テフラの混在が予想される優白色層準などをスポットで試料採取し,鉱物の組成を調べた。
鉱物組成分析の結果,No.8の19.7−19.8mにのみテフラ起源とみられる緑色普通角閃石が含まれることが明らかとなった。
この角閃石の屈折率は1.667−1.681で,1.667−1.671および1.675−1.680にモードがみられる。大阪層群で角閃石を特徴的に含むテフラのうち,角閃石がこのような値を示すテフラとしては,サクラ火山灰があげられる。ガラスが残存しないため明確な対比は困難であるが,周辺に露出する大阪層群との層序的関係と整合的であるため,この対比は確度が高いと考える。