(3)分析結果

大阪層群相当層の対比を行うため大阪層群相当層中の腐植土層6試料の分析を行った。分析試料位置は以下の通りである。

No.1: 31.2〜31.3m

48.6〜48.7m

No.2: 11.7〜11.8m

25.6〜25.7m

No.3: 3.6〜3.7m

19.8〜19.9m

分析結果は次の通りである。

各ボーリングごとの花粉分析の結果を表5−2に示す。解析を行うために同定・計数の結果にもとづいて、花粉化石組成図を作成した(図5−4)。

表5−2 花粉分析結果

図5−4 花粉化石群集

各花粉・胞子化石の出現率は、木本花粉(Arboreal pollen)は木本花粉の合計個体数を、苗木花粉(Nonarboreal pollen)とシダ植物胞子(Pteridophyta spores)は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数として口分率で算出した。図表において複数の種類をハイフン(−)で結んだものは、その間の区別が不明確なものである。なお、本報告では各試料の名称を深度幅の上端の深度で記述する。

No.1ボーリングの深度81.2mと48.7mとNo.2ボーリングの深度11.7mの試料は、分析後の残渣が少なく、化石の保存状態もやや悪い。No.2ボーリングの深度25.6mとNo.3ボ−リングの深度3.6mと深度19.8mの試料は何れも分析後の残渣が多く、化石の保存状態も良好である。以下に各試料について述べる。

〇深度31.2m試料

木本花粉ではコウヤマキ属とブナ属が優占し、ハンノキ属、コナラ亜属、スギ属、ニレ属−ケヤキ属などを伴う。草本花粉はイネ科、カヤツリグサ科などを産出するが少ない。シダ・コケ植物胞子は非常に多く、そのほとんどが属・科不詳のため「他のシダ植物胞子」としたものである。

〇深度48.7m試料

木本花粉ではトウヒ属、マツ属、ハンノキ属が多産し、ツガ属、スギ属、クマシデ属−アサダ属、ブナ属、コナラ亜属などを伴う。草本花粉はイネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属などのほかに水生植物のガマ属、ヒシ属、フサモ属を産出する。シダ・コケ植物胞了ではその殆どが「他のシダ植物胞子」としたものである。なお、メタセコイア属が僅かに産出するが、これは保存状態が悪いので大阪層群下部以深からの再堆積と考えられる。

〇深度11.7m試料

木本花粉ではコウヤマキ属が卓越し、ツガ属、マツ属、ブナ属、ハンノキ属、コナラ亜属、アカガシ亜属、ニレ属−ケヤキ属などを伴う。草本花粉はイネ科、カヤツリグサ科などを産出するが少なく、シダ・コケ植物胞子ではその殆どが「他のシダ植物胞子」としたものである。また、保存の悪いフウ属とヌマミズキ属が産出するが、これらは大阪層群下部以深からの再堆積と考えられる。

〇深度25.6m試料

木本花粉ではトウヒ属、マツ属単維管束亜属(ゴヨウマツ類)、ハンノキ属が多産し、ツガ属、スギ属、カバノキ属、クマシデ属−アサダ属、ブナ属、コナラ亜属、ニレ属−ケヤキ属などを伴う。草本花粉はイネ科、カヤツリグサ科、ヨモギ属などが多産し、水生植物のガマ属、オモダカ属、フサモ属を産出する。シダ・コケ植物胞子ではその殆どが「他のシダ植物胞子」としたものである。また、大阪層群下部以深からの再堆積と考えられるヌマミズキ属が産出する。

〇深度3.6m試料

木本花粉ではハンノキ属、ブナ属、アカガシ亜属が多産し、ツガ属、コウヤマキ属、マツ属、スギ属、コナラ亜属、クリ属、ニレ属−ケヤキ属などを伴う。また、僅かながらサルスベリ属を産出する。草本花粉とシダ植物胞子は少ない。また、大阪層群下部以深からの再堆積と考えられるメタセコイア属が産出する。

〇深度19.8m試料

木本花粉ではマツ属、ブナ属、コナラ亜属が多産し、トウヒ属、コウヤマキ属、スギ属、ハンノキ属、クリ属、ニレ属−ケヤキ属などを伴う。草本花粉はイネ科が多産し、カヤツリグサ科、ヨモギ属などと共に水生植物のガマ属、フサモ属を産出する。また、大阪層群下部以深からの再堆積と考えられるメタセコイア属とフウ属が産出する。

考察

調査地は京都府東山地域であり、既往地質資料によると大阪層群上部から下部がみられる地域であると考えられる(市原,1993など)。大阪層群とその相当層については、地形・地質、火山灰層序、古地磁気層序、大型および微化石などを総合した研究成果があり(例えば、市原,1993)、大阪層群およびその相当層の花粉分析調査に関しては数多く報告されているが、代表的なものとして、田井(1966)、那須(1970)、Furutani(1989)などがあげられる。大阪層群は、主に海成粘土層と陸成の砂・泥炭層の互層状堆積物であることは良く知られている。その花粉化石群集は、海成層では温暖要素のアカガシ亜属、スギ属、コウヤマキ属、サルスベリ属など、陸成層では寒冷要素のトウヒ属、モミ属、ツガ属などや草本花粉が増加することが知られている。そして、花粉化石群集はMa3層を境にして大きく二分され、これよりも下位の地層(大阪層群下部)ではメタセコイア属、上位の地層(大阪層群上部)ではブナ属やマツ属が多産する特徴を示す。この特徴により、Ma3層よりも下位をメタセコイア帯(Metasequoia Zone)、これより上位をブナ帯(Fagus zone)、さらにブナ帯の上位をマツ科帯(Pinaceae Zone)とよんでいる。また、田井(1963)は、調査地付近の京都府深草地域に分布する大阪層群のMa6層以探について、花粉分析調査を行っている。この報告によると、Ma3層を境にその下位では、Taxodiaceae T型としたメタセコイア属が多産し、これより上位ではメタセコイア属を産出せず、ブナ属とマツ属を多産する特徴を認めている。

これら大阪層群の花粉化石群集の特徴と比較すると、この度の試料は以下のように考えられる。

No.1ボーリングの深度31.2m、No.2ボーリングの深度11.7m、No.3ボーリングの深度3.6m、19.8mの試料は、コウヤマキ属、スギ属、アカガシ亜属などの温暖要素が多く産出し、寒冷要素が少ない。これにより、これらは大阪層群の中の海成層に相当すると推定される。そして、No.1ボーリングの深度31.2m、No.3ボーリングの深度3.6mと深度19.8mの各試料ではブナ属の産出が多い。この特徴は、大阪層群のブナ帯に対比されるので、Ma3層から上位の大阪層群上部に相当すると推定される。No.2ボ−リングではブナ属を多産しないが、コウヤマキ属の多産は大阪層群上部におけるブナ帯の中にしぱしば認められる。これより、この試料も大阪層群上部に相当すると考えられる。一方、No.1ボーリングの深度48.7m、No.2ボーリングの深度26.6mの両試料はトウヒ属、マツ属単維管束亜属などの寒冷要素が多産することから、陸成層に相当すると推定される。

以上のことより、この度の分析試料は何れもMa3層以降の大阪層群上部に相当するものといえる。なお、Furutani(1989)、災害科学研究所(1984)によれば、大阪層群上部では、寒暖の繰り返しに伴って同じような花粉化石群集が何度も繰り返して認められ、完新世の場合と同じようにそれぞれの海成層の中でも、花粉化石群集が変遷することが明らかにされている。この度の試料が大阪層群のMa3層以降の何れに対比されるかについては、層相記載、火山灰層序をはじめとして、多くの地質学的調査を総合して行う必要がある。

ところで、那須(1970)によると、大阪層群のMa3−Ma6層においてもフウ属を産出すると報告されているが、保存状態などから第三紀層などからのderived fossils(再堆積化石)としている。この度の試料からも大阪層群下部以深の特徴を示すメタセコイア属、フウ属、ヌマミズキ属などのいわゆる第三紀植物群と呼ばれている花粉化石が産出しているが、本調査で検出されたメタセコイア属、フウ属、ヌマミズキ属は何れも保存状態が悪いので、那須(1970)が述べているように、これらの花粉化石は、いずれも古い地層(第三紀層など)からのderived fossils (再堆積化石)と判断した。

参考文献

Furutani,M.(1989)Stratigraphical Subdivision and Pollen Zonation of the Middle and Upper Plelstocene in the Coastal Area of Osaka Bay,Japan.Juournal Geoscience,Osaka City University,32,4,p.91−121.

市原 実編(1993)「大阪層群」.創元社340p.

那須孝悌(1970) 大阪層群上部の花粉化石について −堺港のボーリングコアを試料として−.地球科学24,1,p.25−34.

災害科学研究所(1984)「関西国際空港地盤地質調査」.柴原出版.

田井昭子(1963)深草・枚方地域における第四紀堆積物の花粉分析−近畿地方の新期新生代層の研究2−.地球科学,64,p.8−17.

田井昭子(1966)大阪市におけるボーリング(OD−1)コアの花粉分析(その1:その2)−近畿地方の新期新生代層の研究 V−.地球科学,83,p.25−33:84,p.31−38.