(2)花粉分析結果

花粉分析の結果を表6−3に示す。全試料から木本花粉、草本花粉、シダ・コケ植物胞子などの化石を産出したが、BN−1ボーリングの0.60〜0.65mと6.15〜6.20m試料、BN−4ボーリングの0.95〜1.00m試料は花粉化石の産出が非常に少なかった。

以後、BN−1とBN−4ボーリングの各試料に関しては採取幅の上端深度で示す。表6−3表2をもとに花粉化石群集の産出図を作成した(図6−3)。各化石の出現率は、木本花粉においてはハンノキ属を除く木本花粉の合計、ハンノキ属と草本花粉とシダ・コケ植物胞子においては花粉と胞子の総計をそれぞれの基数とした百分率である。図表の中で複数の種類をハイフォン(−)で結んだ同定種(Taxa)は、その間の区別が明確でないことを示している。

BN−1ボーリング

最下部の深度19.25mでは温帯針葉樹のスギ属が卓越し、トウヒ属を多産し、イチイ科−イヌガヤ科−ヒノキ科などをともない、落葉広葉樹はハンノキ属を多産するもののその他の化石は少ない。

深度14.55mでは、針葉樹のトウヒ属とツ力属が優占し、ニレ属−ケヤキ属、コナラ亜属、ブナ属などの落葉広葉樹やスギ属などの針葉樹をともなう。

深度3.40mと深度9.05mは比較的類似した花粉化石群集を示し、落葉広葉樹のコナラ亜属とニレ属−ケヤキ属が優占し、ハシバミ属、ブナ属、カバノキ属などの落葉広葉樹や、ツガ属、トウヒ属、マツ属等を伴う。草本花粉はイネ科とカヤツリグサ科が多産する。

深度0.60mと深度6.15mでは花粉化石の産出が非常に少ない。

BN−4ボーリング

深度3.40mではクマシデ属−アサダ属、コナラ亜属などの落葉広葉樹とツガ属、トウヒ属などの針葉樹が多産し、マツ属、コウヤマキ属などの針葉樹やプナ属、ニレ属−ケヤキ属などの落葉広葉樹を伴う。草本花粉はイネ科とカヤツリグサ科が主に産出する。また、シダ植物胞子が非常に多い。

深度0.95mでは花粉化石の産出が非常に少ない。

考察

BN−1ボーリング

深度19.25mではスギ属が卓越することから、後背地にスギ林が存在していたと推定され、降水量の多い湿潤気候が推定される。この花粉化石群集は、メタセコイア属を産出しないことから大阪層群下部(アズキ火山灰層の下位)のメタセコイア帯に達してないと考えられる。また、ブナ属を多産しないことから深草地域のMa6層〜Ma3層にも対比されないが、枚方地域のMa6層ではスギ科が多産している(田井、1963)ので、これに対比されるかもしれない(このように同じMa6層において花粉化石群集が異なるのは、大阪港地域の堆積物の花粉分析結果(Furutani,1989)でも明らかなように同じ海成層でも堆積期の前・中・後により植生が変遷していることによるものと考えられる)。しかし、大阪湾地域では大阪層群から段丘堆積物のMa8、Ma9、Ma10、Ma11、Ma12層の各層にスギ属の多産または優占が認められている(Furutani,1989)。このようにスギ属を多産または優占する地層が複数あることから、本試料のスギ属の多産がこれらの何れに対比されるかは現段階では判断しがたい。火山灰層の確認などを踏まえて総合的に判断することが必要である。なお、本試料からはサルスベリ属が産出しないことからMa12層には対比されないと考えられる。

深度14.55mはトウヒ属とツガ属などの亜寒帯(亜高山帯)要素が優占することから、亜寒帯針葉樹林が発達していたと推定され、寒冷期の堆積物と考えられる。大阪層群では各海成層の間の非海成層(淡水層)にこのような寒冷期の花粉化石群集が認められている(Furutani,1989;田井,1963)。

深度9.05mと深度3.40mは比較的類似した花粉化石群集であり、コナラ亜属、ニレ属−ケヤキ属、ブナ属、カバノキ属などの落葉広葉樹が多産し、ツガ属、トウヒ属、マツ属などを伴うことから、植生は落葉広葉樹が優占し、冷温帯性の気候が推定される。また、花粉化石の保存状態も悪く、両者はよく似ている。深度3.40mが ATの下位の低位段丘堆積物とされているが、ウルム氷期最盛期のE1〜E4亜帯の花粉化石群集(古谷,1979)と異なるので、最終氷期の最寒冷期以前の堆積物と推定され、約30,000年前よりも古いと考えられる。深度9.05mも深度3.40mとほぼ同時期の段丘堆積物かもしれない。

BN−4ボーリング

深度3.40mはコナラ亜属とカバノキ属が優占し、ニレ属−ケヤキ属、ブナ属などの落葉広葉樹とツガ属、トウヒ属、マツ属などの針葉樹が産出することから、落葉広葉樹林に針葉樹を交えた植生が推定される。気候は冷温帯と推定される。本試料はATの下位の低位段丘堆積物とされているが、ウルム氷期最盛期のE1〜E4亜帯の花粉化石群集(古谷,1979)と異なるので、最終氷期の最寒冷期以前の堆積物と推定される。

深度0.95mは花粉化石の産出が非常に少ないので、解析は困難である。

まとめ

BN−1ボーリングでは、深度19.25mにおいてスギ属が卓越するものの、メタセコイア属を産出しないことから大阪層群下部(アズキ火山灰層の下位)のメタセコイア帯に達してないと考えられた。この花粉化石群集は、枚方地域のMa6層に対比されるかもしれなが、大阪港地域では大阪層群から段丘堆積物のMa8、Ma9、Ma10、Ma11、Ma12層の各層にスギ属の多産または優占が認められていることから、これらのいずれかに相当すると考えられた。なお、本試料からはサルスベリ属が産出しないことからMa12層には対比されないと考えられた。

深度14.55mはトウヒ属とツガ属などの亜寒帯(亜高山帯)要素が優占することから、寒冷期の堆積物と考えられた。大阪層群では各海成層の間の非海成層(淡水層:陸成層)にこのような寒冷期の花粉化石群集が認められているので陸成層と考えられた。

深度9.05mと探度3.40mは花粉化石群集と花粉化石の保存状態ともによく似ていることから比較的近い時期の堆積物と考えられた。深度3.40mがATの下位の低位段丘堆積物とされているが、最終氷期の最寒冷期以前の堆積物(約30,000年前以前)と推定された。