1)CDP400〜440付近から北東側について
測線中央部から北東側では,多数の反射面が標高−290m付近まで水平に分布する構造が得られた。このような縞模様の反射パタ−ンは砂層,粘土層,砂礫層およびこれらの互層などから構成される堆積層に特徴的なものであり,大阪層群が厚く分布する阪神地域で実施された多くの反射法探査でも,同じような反射パタ−ンが得られている。そこでの反射パタ−ンで特徴的なことは,複数の海成粘土層からの反射波が非常に明瞭にあらわれていることである。
深度断面図には速度解析から得られた速度(P波速度)を示した。それによると標高−50m付近までが1,400〜1,600m/s,標高−150m付近までが1,900〜2,500m/s,標高−290m付近までが2,500〜3,000m/sの速度である。
中川・他(1983)およびHORIKE(1985)は,大阪市南部における大阪層群の速度として上部が約1,600〜1,700m/s,中部が約1,900m/s,下部が約2,200m/sの値を示している。また,吉川・他(1987)は大阪市内の反射法探査の結果をまとめ,大阪層群の速度として,上部が1,700〜1,840m/s,下部が1,930〜2,360m/sの値を示している。
本測線で得られた速度は,標高−150〜−290mにおいて得られた2,500〜3,000m/sを除いては,概ねこれらの範囲に含まれる。
一方,狐崎・他(1971)は京都盆地南部において桂川,宇治川,木津川の合流点付近から東北東方向に測線を設定し,屈折法探査を行っている。それによると測線下の構造は大きく2層に解析されており,上層の速度が2,000〜2,100m/s,下層の速度が4,400〜5,200m/sの値を示す。下層上面の深度は測線中央部で約700mと最も深く,合流点付近(松尾測線の南方約11km地点,樫原測線の南方約9km 地点)では推定ながら約350mが得られている。上層は大阪層群相当層と考えられるが,本測線でも最下層である標高−290mの反射面までの速度を平均すると,2,000m/s前後の値となり,屈折法の結果と調和的である。
以上のことから,深部の速度がやや大きすぎることを除けば,測線中央部から北東側では標高−290m付近までに大阪層群が分布し,その下位には中古生層が分布すると考えられる。この範囲では大阪層群が水平に連続して分布する状況が明らかであり,断層による地層面の顕著なずれは認められない。水平に連続する明瞭な反斜面のうち,いくつかは阪神地域と同じように海成粘土層に対比されると考えられる。深部の速度が大きい理由としては,礫分の含有量が阪神地域よりも多いことなどが考えられる。
なお,標高−290m以深にも連続性が悪く,不明瞭な波の連なりが分布するが,これは中古生層内の反射面またはノイズ(例えば多重反射)と判断される。
2)CDP390〜440付近から南西側について
測線中央部から南西側の傾斜帯については,縞模様の反射パタ−ンや北東側の反射面水平分布範囲との関連から,大阪層群が傾斜して分布する範囲と考えられる。
傾斜帯では深部の傾斜は緩やかであるが,浅部ほど反射面の傾斜は急になり,比較的明瞭な部分では最大約45度を示す。ただし,CDP No.400〜470付近の浅部では,地層傾斜がさらに大きくなるためか,反射面は不明瞭になる。前述の4孔のボ−リング調査はちょうどこの付近で実施されている。コア観察によると,大阪層群内の地層傾斜角度は西から東に向かって70度前後,50度前後,20度前後と,東側ほどその傾斜は緩くなるが,かなり高角度を示すところもあることがわかる。
本測線で検出されたこの傾斜帯は,水平に堆積した大阪層群が樫原断層を形成した構造運動によって大きく変形した範囲であり,樫原測線の反射断面との比較から測線の外側(南西側)に及ぶことも考えられる。
CDP No.530付近から北東側の標高0〜−110mでは,傾斜帯から東側の反斜面水平分布範囲まで2枚の反射面が明瞭に連続することから,この深度範囲には断層による地層面の顕著なずれは認められない。ただし,これより深部については,反射面がずれていたり,小さく変形しているようなところが部分的にみられ,小断層が存在する可能性もある。
測線南西端部の浅部については,水平重合数が低いためにS/N比が悪く,この反射断面だけから地層面のずれの有無を判断することはむずかしい。ただし,樫原測線では傾斜帯の西縁に断層が推定されることから,傾斜帯の規模が樫原測線と同程度ならば,傾斜帯南西端浅部の反射面が不明瞭になるCDP No.530〜560付近に,相対的に北東落ち,南西傾斜の断層が存在する可能性もある。