(1)神吉−越畑断層

越畑地区は広く中位段丘堆積物が分布し,段丘面を削り込んだ河川に沿って,シルト層及び小礫層が観察された。これらの堆積物は互層し,水平構造を示すが,断層付近では50゚〜70゚傾斜することがある。

リニアメント上で確認された断層露頭は1箇所(KSP−16)であり,ここでは火山灰層(層厚10〜15cm)が急傾斜している構造が見られ,上部の礫層にも礫の再配列が確認されたが,明瞭な断層面は認められない。礫層は中〜巨礫の粘板岩の角礫層で基質はシルト質である。

この断層露頭の周辺で,井本他(1989)によりいくつかの火山灰が記載されている(図2−3)。それらは次の通りである。

・越畑谷奥火山灰(井本他,1989の第33図中05地点)

厚さ30cm,ピンク〜白色を示す越畑累層中の火山灰。フィッショントラック年代が0.66±0.15Maである。

・越畑火山灰(井本他,1989の第33図中04地点)

大〜巨礫の角礫層からなる崖錐積物中に挟まれる厚さ30cm,黄赤褐色を示す火山灰。大山生竹軽石層(DNP)に対比される。フィッショントラック年代が0.04±0.02Maである。

・AT火山灰(井本他,1989の第33図中06地点)

越畑累層の礫層を削り込んだ谷を埋積した礫層中に見られる。この礫層は谷壁に調和的な層理を示し,谷壁下部にAT火山灰が厚さ15cm程度で谷壁に沿ってレンズ状に見られる。

断層露頭(KSP−16)で観察された火山灰層は,その産状から上記の越畑火山灰すなわち大山生竹軽石層(DNP)に相当するものと思われる。

また,水田が棚田的に中位段丘面上に広がっているため,現地でリニアメントの位置を特定することは難しい。

樒原集落以南でリニアメントは山中を通り,不明瞭である。断層露頭は確認されなかった。リニアメントは直線状の谷,鞍部(KSP−22)に鞍部を構成するチャートおよび上位の表層風化物を示す)および斜面の傾斜変換点として認められる。神明峠北約500m付近の道路脇では谷側に砂岩の高さ約5mの岩塊が露頭している(KSP−25)。岩塊は谷側に垂直な平滑な面を持っており,面の方向はリニアメントの延長方向と一致する。この面には鏡肌や条線は認められない。

神明峠付近の道路法面には基盤チャートの小規模な破砕がみられるが亀裂の一部に幅2cm程度の粘土を充填し,部分的に細片状になっている程度である(KSP−26)。

また,保津狭,落合橋付近ではリニアメント上に頁岩及びチャート中に小規模な破砕帯が確認された。