トレンチの規模は、幅(東西方向8m×長さ(南北方向)25m×深さ5mで、試掘孔が、幅(東西方向)4m,長さ(南北方向)20m,深さ3.5mである(図3−40,写真3−1、写真3−2)。
図3−40 トレンチ調査位置図
写真3−1 トレンチ全景
写真3−2 試掘孔全景
@ トレンチ壁面の地層区分
A.八栄東トレンチ
本トレンチ壁面には、基盤岩類である丹波層群の砂岩とその上位に堆積しているシルトおよび砂礫層、さらにその上位に、圃場整備時の埋土層が確認された。これら堆積物を上位から順に9層に区分し、1〜9層と命名した。以下に各層の特徴を示す。
(1)1層
本トレンチにおける3壁面すべての最上部に露出する。暗灰色〜暗灰褐色を呈するシルトおよび粘土層中に、最大50cm程度の木片を多く含んでいる。木片は人工によると思われる切り口を持ったものが確認されることから、圃場整備時の埋め土層であると判断した。層厚は、N面東側とE面とW面南側でやや薄く120cm程度であるが、その他の部分では、150cm程度である。
(2)2層
N面とE面の北端に露出する。灰色〜黄灰色を呈するシルト〜細粒砂層で、直径1−5cm程度の比較的淘汰の良い礫が少量散在している。3層の上面にできた凹地を埋めるように堆積しており、上面は人工改変によって西傾斜している。層厚は、N面の中央部で70cmに達するが、その他では30−50cm程度である。
(3)3層
N面東側とE面北側に露出する。炭化していない木片や植物片を多く含む暗灰〜黒灰色の腐植質シルト〜粘土層であり、下位の礫層上面にできた凹地に堆積している。N面とE面の北端部では上位に2層が分布するが、E面の中央部では2層は分布しておらず、直接1層が上位に堆積している。層厚は、20−30cmである。
(4)4層
すべての面に露出する。5,6層を不整合で覆う礫層である。褐色〜暗青灰色を呈する細粒砂が基質であり、直径5−10cm程度の亜角礫を含む。下位の礫層と比較して礫の含有量は少なく、大部分が基質支持となっている。E面北端部やW面南部に存在する下位の5,6層の上面にできた凹地部分には、他の部分より礫が多く堆積している。層厚は、60−80cmである。
(5)5層
すべての面に露出する。下位の6層の上面にできた凹地を埋めるように堆積し、礫をほとんど含まないシルト〜粘土層で構成される。N面やE面北側では腐植質を多く含むために青灰色〜黒灰色を呈するが、それ以外の部分では灰色〜黄灰色を呈する。E面では、上位に堆積している4層の侵食により分布が不連続であるが、N〜W面にかけては、分布が連続する。層厚は、40−60cmである。
(6)6層
すべての面に露出する。下位の7層を削り込んで堆積している礫層である。7層と同様、褐色〜暗青灰色を呈する粗粒〜細粒砂が基質であり、直径5−10cm程度の亜角礫を主体とするが、部分的に堆積構造が明瞭な砂層を狭在する。7層より基質の固結度が若干悪いのが特徴である。砂層部分には木片を多く含んでいる。層厚はN面とE面北部が厚く120−160cmであり、その他では60−80cm程度である。
(7)7層
E,W面の中〜下部に露出する。8,9層を不整合で覆う礫層である。褐色〜暗青灰色を呈する粗粒〜細粒砂が基質であり、上位の礫層と比較すると、やや固結度が良い。直径5−10cm程度の亜角礫を主体とし、部分的に直径20−30cmに達する亜角礫を含む。礫の含有量が多く、礫支持となっているところも多い。層厚はE面の北側で薄くなるが、それ以外の部分では80−100cmである。
(8)8層
面北側、N面東側、W面南側に断片的に露出する。9層を不整合で覆っている褐色〜青灰色を呈する細砂〜シルトを主体とし、下部に直径5−10cm程度の礫を含んでいる。これより上位の堆積物と比較すると固結度が良い。分布が限られているため連続的な層厚は不明であるが、断片的に露出している部分での層厚は、20−40cm程度である。
(9)9層
すべての面の最下部に露出し、調査地域周辺に広く分布する丹波層群が風化作用と破砕作用を受けたものである。E,W面の中央部付近では岩石が比較的強い破砕を受けているが、この破砕部の南北両側では部分的に破砕の強い部分が確認できるものの、破砕の弱い部分から、ほとんど破砕を受けていない部分が大部分である。
写真3−3 八栄東地区トレンチ調査 トレンチN面での地層区分
図3−41 八栄東トレンチN面スケッチ
写真3−4 八栄東地区トレンチ調査 トレンチE面での地層区分
図3−42 八栄東トレンチE面スケッチ
写真3−5 八栄東地区トレンチ調査 トレンチW面での地層区分
図3−43 八栄東トレンチW面スケッチ
B.八栄東試掘孔
本孔壁面でも、八栄東トレンチと同様に基盤岩類である丹波層群の砂岩とその上位に堆積しているシルトおよび砂礫層、さらに最上位に埋土層が確認された。これら堆積物を上位から順に5層に区分し、1〜5層と命名した。以下に各層の特徴を示す。
(1)1層
本試掘孔における3壁面すべての最上部に露出する。トレンチ同様、圃場整備時の埋土層であり、暗灰色〜暗灰褐色を呈するシルトおよび粘土層中に、最大50cm程度の木片を多く含んでいる。層厚は、W面南端部で薄く20cm程度であるが、他の面では北に向かって層厚が増し、北端部で約60cmとなる。
(2)2層
すべての面に露出する。3,4層を不整合で覆う礫層である。黄褐色〜青灰色を呈する細粒砂とシルトを基質とし、直径3−5cm程度の亜角〜亜円礫を含む。礫の含有量は多く、大部分が基質支持となっている。基質部分の固結度が悪いのが特徴である。層厚は、100−120cmである。
(3)3層
E,W面の中央〜北部にかけて露出する。褐色〜黄褐色を呈する比較的固結度の良いシルト層で、部分的に粗流砂および直径1−2cm程度の礫を含んでいる。4層上面にできた凹地を埋めて堆積しており、北端部で厚さが増している。層厚は、壁面の中央部では20−40cm程度であるが、北端部では60−70cmに達する。
(4)4層
すべての面の中〜下部に露出する。5層を不整合で覆う礫層である。褐色〜暗青灰色を呈する粗粒〜細粒砂が基質であり、上位の礫層である2層と比較すると固結度が良い。直径5−10cm程度の角〜亜角礫を主体とする。礫の含有量が多く、礫支持となっているところも多い。層厚は50−60cmであるが、E,W面の北端部では、約30cmと薄くなる。
(5)5層
すべての面の最下部に露出し、調査地域周辺に広く分布する丹波層群が風化作用と破砕作用を受けたものである。E,W面の中央部付近にのみ比較的強い破砕が確認できるが、それ以外では、破砕の弱い部分から、ほとんど破砕を受けていない部分である。
写真3−6 八栄東地区試掘孔全景(南側より撮影)
写真3−7 八栄東地区試掘孔E面
写真3−8 八栄東地区試掘孔壁面(上:E面,下:W面)
A トレンチ壁面とボーリング調査との対比
トレンチ調査の結果から得られた層区分と、ボーリング調査の結果とを比較図を図3−44に示す。トレンチ調査での1層は、ボーリング調査での砂混じり粘土に対比される。4層は、P−7地点において若干のずれが認められるが、概ね礫混じり粘土層に対比される。5層はP−7地点で、砂混じり粘土層に対比される。6、7層は、境界がはっきりしないものの、一括した砂礫層として対比される。9層の基盤岩については、ボーリング調査のP−7地点において基盤が確認されておらず、ずれが生じている。これは、ボーリングの掘削において、打ち込みによる掘削を行ったために基盤の風化部が砕けて採取されていたものと考えられる。またP−8地点では、基盤に粘土化が認められたが、トレンチ調査では、当地点付近の基盤に強い破砕が認められており、両者の結果がよく一致している。
図3−44 ボーリング結果とトレンチE面の比較
B 各層の堆積年代
トレンチ壁面に露出する堆積物の年代を推定するため、各層から年代測定用の試料を採取した。14C年代の試料採取位置と年代測定結果を表3−4−1表3−4−2に、火山灰年代の年代測定結果を図3−45にそれぞれ示す。また、巻末試料に年代測定の詳細結果を示す。年代測定結果から判断した各層の堆積年代は、以下のとおりである。
(1)1層
年代測定は実施しなかったが、圃場整備時の埋め土層であることから、ごく最近の堆積物と判断できる。
(2)2層
シルト〜細粒砂層である。本層から直接の年代試料は採取できなかったが、下位の3層が1,500−1,600年前の堆積物であることから、それ以降の堆積物と判断できる。
(3)3層
炭化していない木片や植物片を多く含む暗灰〜黒灰色の腐植質シルト〜粘土層であり、N,E面から1,550±30 yrBPおよび1,620±30 yrBPの14C年代が得られたことから、1,500−1,600年前の堆積物と推定される。
(4)4層
直径5−10cm程度の亜角礫を含む礫層であり、N面から1,585±35 yrBP 、W面から3,440±35 yrBPの14C年代が得られたことから、1,500〜3,500年前の堆積物と推定される。また、試掘孔E面の上部礫層から得られた試料からは、1,390±35 yrBPという年代値が得られたことから、本層に対比されると考えられる。
(5)5層
礫をほとんど含まない灰黄色のシルト〜粘土層であり、N,W面から計6試料を採取して14C年代測定を実施した。測定の結果、いずれの試料からも4,500 yrBP前後の年代が得られたことから、4,400−4,600年前の堆積物と推定される。またN面から採取した試料(YE−T−1)で、火山灰分析を実施した結果、姶良−Tn火山灰(AT;25−28ka,Kaは、1,000年前を示す)と鬼界アカホヤ火山灰(Ah;7.3ka)が共存する形で確認された(図3−45)。全体の量比から、いずれも再堆積性のものと推察されるが、本層は鬼界アカホヤ火山灰以降に堆積したものと考えられる。この結果は、14C年代の結果とも矛盾しない。
(6)6層
下位の7層を削り込んで堆積している比較的粒径の細かい礫層であり、E,W面から計7試料を採取して14C年代測定を実施した。測定の結果、23,950±120 yrBPから25,200±120 yrBPの年代値が得られた。このことから、23,800−25,400年前の堆積物と推定される。また、試掘孔W面の最下部から採取した試料からは、28,220±170 yrBPという年代値が得られた。このことから、試掘孔に見られる下位礫層は本層に対比されると考えられる。
(7)7層
下位の基盤や礫層を不整合で覆う礫層であり、E,W面から計5試料を採取して14C年代測定を実施した。測定の結果、40,340±460 yrBPから45,460±660 yrBPの年代値が得られた。このことから、39,800−46,200年前の堆積物と推定される。
(8)8層
基盤の丹波層群を不整合で覆う礫層であり、N,E面から47,090±500 yrBPおよび51,080±900 yrBPの14C年代が得られたことから、46,500−52,000年前の堆積物と推定される。
表3−4−1 八栄東地区トレンチ調査 14C年代測定結果一覧(1)
表3−4−2 八栄東地区トレンチ調査 14C年代測定結果一覧(2)
図3−45 八栄東地区トレンチ調査 火山灰年代結果(YE−T−1)
C トレンチ内で確認された堆積物の時代的特徴
トレンチ内で確認された各層を堆積時期ごとにまとめると、以下のとおりである。
1) 40,000〜45,000年前
土石流起源と考えられる淘汰の悪い礫層が堆積。このとき、それ以前に基盤である丹波層群上面に分布していた堆積物は削剥されと考えられる。
2) 24,000〜25,000年前
上記の礫層堆積後、約2万年間は堆積物が分布せず、約25,000年前ごろに再び土石流起源と考えられる淘汰の悪い礫層が堆積した。
3) 約4,500年前
それまでの礫層とは違い、細流のシルト〜粘土が堆積した。この堆積物の違いは、氷河期から後氷期への気候変化と調査地周辺における地表状況の変化(裸地の減少等)が要因と推定される。
4) 1,500〜3,500年前
再度礫が堆積したが、下位に分布する2つの礫層と比較すると礫径が小さくなっていることから、土石流の規模は小さかったと推定される。
5) 約1,500年前以降
礫層の堆積は確認できず、シルト〜粘土が比較的静穏な状況で堆積した。
D 断層および基盤の破砕状況
トレンチ壁面における断層および破砕帯は、基盤の丹波層群中にのみ存在し、その上位に堆積している未固結のシルト〜礫層に変位・変形をあたえている断層は確認できなかった。丹波層群中に見られる破砕帯は、トレンチE,W面の4〜12グリッド付近に集中しており、この部分の両側にあたる北および南側では、ほとんど破砕が確認できなかった(図3−46)。
丹波層郡中の破砕帯および小断層の走向は、N60°W〜NW方向であり、現在の八栄東地区における殿田断層の推定走向(N70〜80°W)と一致している(図3−41、図3−42、図3−43)。
図3−46 八栄東地区基盤の破砕状況