探査の結果、図3−33に示すように、基盤形状はV字を示すような明瞭な谷地形が確認できず、なだらかな盆状であった。また両測線で基盤の深度に明瞭な変化は認められず、基盤岩と考えられる高比抵抗部は、両測線でわずかに下に凸状となっている程度である。この谷の中心位置を平面上に図示し、現在の地形状況から基盤における谷の形状を推定した。比抵抗断面の調査結果を図3−33に、調査結果から得られた比抵抗値と表2−3に示した土質工学会編「土と基礎の物理探査」に示されている模式的な比抵抗値から推定される土質・岩質を下記および図3−34に示す。
@地表浅部の低〜中比抵抗部(約30 〜50Ω・m)
●分 布:谷底に沿って地表下約3m以浅を層状に分布する。
●地 質:未固結の粘性土などに相当する。
A中比抵抗部(約50 〜100Ω・m)
●分 布:低比抵坑部の下位に分布する。低比抵坑帯の厚い部分に比例して厚く認められる。
●地 質:低比抵坑部に比べ粗粒な堆積物(礫質土)や基盤の強風化した状態などに対比される。
B浅部の高比抵抗部(約100 〜300Ω・m)
●分 布:山麓の緩傾斜部や地表浅部に分布する。
●地 質:崖錐堆積物、路盤または強風化岩に相当する。
C深部の高比抵抗(約100 〜300Ω・m)
●分 布:深部の大半を占めて広がる。
●地 質:基岩の砂岩・チャート・緑色岩類など相対的に粗粒や緻密な岩質に相当する。
2)調査結果の解釈
高密度電気探査結果から推定される土質・岩質状況と現地で確認される地形・地質状況から推定される地下構造を下に示す。
@地表浅部の低〜中比抵抗部(約30 〜50Ω・m)
現在の地表部分を形成し、未固結の粘性土が主体と考えられることから、この部分は粘土を主とする沖積層に対応していると判断される。この層が谷状に深くなっている場所は確認できないため、沖積層は現在の地表面と調和的に堆積し、全体として浅い凹状に分布していると推定される。
A中比抵抗部(約50 〜100Ω・m)
低比抵坑部の下位に現在の地表面と調和的に堆積し、比抵抗値から上位に比べ粗粒な堆積物(礫質土)や基盤の強風化した状態などに対比されることから、沖積あるいは地表部の段丘に相当する堆積物と推定される。上位の沖積層同様に明瞭な谷地形は見られず、全体として浅い凹状に分布している。
B浅部の高比抵抗部(約100 〜300Ω・m)
山麓部や盛土によって作られている道路部分に見られることから、これらの堆積物は、山地の脚部に分布している崖錐堆積物や道路下部に敷設されている砂利層と推定される。また、現地で鉄フェンス、水路、道路付近にも高比抵抗となっていることから、これらの部分では、地表の構造物によって比抵抗異常(偽像)が出現した可能性が高い。
C深部の高比抵抗(約100 〜300Ω・m)
地下深部の大半を占めて広がり、粗粒・緻密な岩質と考えられることから、これらは基盤岩である丹波層群を示していると推定される。上面がわずかに下に凹状を呈していることから、これら基盤上面の形状は浅い凹状を示していると推定される。
上記の高密度電気探査から、八栄東地区の地下では明瞭な谷を示す地形は確認できなかったが、全体として浅い凹状の地形が確認された。この浅い凹地形が最も深くなっている部分を元の谷底部と仮定すれば、推定される断層の両側で谷の左横ずれの量は約70mと見積もられる。また、推定される断層通過位置を挟んだ南北両側に位置する左右両岸における変位量を取ると、それぞれ10m,90mとなり、これを平均すると50mとなる。左右谷壁における変位量が谷底部における変位量より小さいのは、八栄東付近の谷が断層付近から北で急に狭くなっており、これが原地形の非対称性を生んでいるためだと考えられる。なお、断層を挟んで両側この50〜70mという横ずれ量は、空中写真判読や地表踏査によって従来から考えられていた、断層の変位方向(左横ずれ)と概ね一致している(図3−35)。
図3−33 高密度電気探査結果
図3−34 比抵抗断面解釈図(八栄東地区)
図3−35 八栄東地区谷ずれ量推定図(基図は国土地理院(1975)を図化)