なお、調査は、
・電極配置:2極法
・電流および電位電極配置:1m
・電極隔離係数:20
で実施し、探査深度は表層部より20mとした。
@ 電気探査の原理
一般に電気探査法には、電気比抵抗のみ着目した直流比抵抗法、分極現象にも着目したIp法、あるいは誘導現象を利用した電磁法(EM法やMT法)等、多くの種類がある。しかし、一般に電気探査と言う場合には、その内の直流比抵抗法を示すことが多く、本探査もこの方法によるものである。直流比抵抗法では、地盤に直流電流(通常は周期の長い交替直流)を通電し、その際地盤に発生した電圧を測定する。そして、それを解析して地下の比抵抗分布を求める。
比抵抗とは単位体積当たりの電気の流れにくさを示す量で、単位はΩ・m(オ−ム・メ−タ)である。この比抵抗値は岩石や土などの種類によって表2−3のようなある範囲を示す。このように同一の岩石や土でも、その地盤状況(孔隙率・飽和度・間隙水等)の変化に応じて比抵抗も変化する。この原理を利用して、比抵抗分布から地下構造を探査しようとするのが直流比抵抗法による電気探査法である。
表2−3 岩石・土などの比抵抗
A 比抵抗映像法
比抵抗映像法は、直流比抵抗法による電気探査を進化させたもので地形の凹凸による影響を補正することが可能であり2次元の真の比抵抗分布が得られる。したがって、従来水平成層構造を仮定して得た1次元解析結果に比べ特に垂直構造やブロック状構造などの検出に優れている。また、比抵抗映像法は2極法電極配置により行う。
2極法配置を用いた測定では図2−1に示すように、ある1本の電流電極から通電された電流が作る電場を他の1本の電位電極を用いて測定する。まず、電流電極(C1)を固定し電位電極(P1,2,3,・・)の位置を変化させながら電位の変化を測定する。そして、この作業を電流電極の位置を変えながら繰り返し、詳細な電位分布を測定する。ところで実際には、電流の通電にも電位の測定にも正負一対の電極が必要である。2極法配置では、これら負の電極を遠電極と呼び、探査深度の10倍以上離れたところに設置する。よって、大地見掛比抵抗は次式により得られる。
2極法:ポール・ポール法とも呼ばれ、1つの電流電極C1と1つの電位電極P1を
電極間隔aで配置し、他の電極C2とP2とを無限遠において、次式の1/C2P2、
1/C2P1及び1/C1P2の項が無視できるようにした電極配置で、C1Pとを移動させて探査を行う。したがって、見掛比抵抗はウエンナー法と同式で近似して求められる。
ρa≒2πaV/T ここで ρa:見掛比抵抗(Ω・m)
a :電極間隔(m)
V/I:測定値(Ω)
なお、実際の観測では図2−1にしめした電極配置を拡張し、測線設定(測量)を行ってから、図2−2に示すように予め全ての電極を設置し、これを切替えながら測定を行う。
図2−1 2極法概念図
図2−2 多電極を用いた電気探査の測定概念図
こうして得られた見掛比抵抗は、慣例的に図2−3に示すように、電流電極Cと電位電極Pとの中心の直下に、深度a(=電極間隔)の位置に表示される。これは、見掛比抵抗疑似断面と呼ばれるもので、これから地下構造を直接推定できるのは構造がごく単純な場合だけである。そこで比抵抗映像法では真の2次元比抵抗断面を得るために解析は数値モデリング法を用いた自動解析により行っていく。
図2−3比抵抗値の表示位置
B 解析の方法
解析は、観測により得られた実測値に各種の計算を施し、ある許容範囲内で実測値と理論値とが合致するような地下構造モデルを決定していくことである。具体的には、図2−4示すような手順で数値計算による自動解析を行う。
1 解析パラメータの設定
解析精度と分解能が調和するような解析に用いる地盤モデルと解析条件を決定する。
2 地形補正と遠電極補正
地形に凹凸がある場合や、遠電極が探査深度の10倍以上離れていない場合にデータに含まれる地形や遠電極による影響を、FEM(有限要素法)によるシミュレーションを行って補正量を決定する。
3 データのスムージング
通常、地表での電位データは電極間隔の増大と共に滑らかに減少する。したがって、異常データを削除、修正し、各種補正を実施した後もデータが滑らかに減少しない場合には何らかのノイズが含まれていると考えられる。この場合には、その程度に応じてデータのスムージング処理を実施する。
4 初期モデルの作成
逆解析を行うための初期モデルを決定する。初期モデルは見かけ比抵抗断面とした。
5 有限要素法による追加解析
4で決定したモデルについて、実測値と理論値が最も良く合致するように繰り返し計算により修正していく。
6 解析結果のチェック
地形、地質状況を考慮して、特に偽像注)の有無などについて 5 で求めた比抵抗断面についてチェックし、また必要であればデータの再吟味、解析法やその組み合わせの変更、及び、各種の解析パラメータを変更して再解析を行う。
7 図化及び解釈
適当な間隔で区分したカラーの2次元比抵抗断面について、サウンディング状況などを対比させながら比抵抗分布について地質学的な解釈を加える。
図2−4解析フローチャート
注)偽像について
偽像は測線の両端や解析断面の底部などに発生しやすい。これは周囲の構造に関する情報が不足するため解析精度がもともと高くない部分であり(図2−5参照)、その部分のモデルの修正が不安定になりやすいことによる。その他、解析断面の内部にも測線両端付近で地形が大きく変化する場合や地表付近に局所異常がある場合など特に偽像が生じやすい。
図2−5解析断面の中で解析精度が低い範囲
C 測線長及び探査深度
表2−4 探査数量表
D 使用機器一覧
表2−5 電気探査機器一式
写真2−1 電気探査測定機器
E 探査結果
解析は、測定値に遠電極補正・地形補正をした後、見かけ比抵抗断面を初期モデルとして、このモデルをFEM解析により最適化する方法で行った。
この解析で得た比抵抗値は、全体として80〜3000Ωm±の広範囲を示した。比抵抗断面は、低比抵抗側を2Ωmステップで細分し、その他を指数関数的に区分して示した。
ここで、比抵抗値を次の3つに区分して検討した。
・高比抵抗部 : 約100 〜 250Ωm以上 (赤色系)
・中比抵抗部 : 約50 〜 100Ωm (中間色系)
・低比抵抗部 : 約30 〜 50Ωm以下 (青色系)
調査地では、一般的な地質と比抵抗の関係(注1)から、表2−6のように推定され、もともと高比抵抗の基盤岩は、破砕や変質による細粒化や粘土化で、間隙水を含みやすくなるため低比抵抗になる。その風化生成物を起源とする谷底堆積物は低比抵抗を示すが、空隙の多い崖錐堆積物や段丘堆積物では高比抵抗を示すことが多い。
(注1)一般的な地質と比抵抗の関係
一般に地質と比抵抗値の関係は、鉱物組織・結晶度・間隙率などによって異なっている。代表的な造岩鉱物である石英や長石の結晶は絶縁物のため、これらの絶縁物で構成される岩石の比抵抗は、鉱物粒子間の結合物質や亀裂・間隙に存在している水分などによって低下する。すなわち、新鮮で緻密な岩石は高比抵抗であるが、風化し細粒化すると間隙水を含みやすくなるため低比抵抗になる。但し、その間隙が地表浅部で乾燥(水分→空気≒空隙大)すればまた高比抵抗になり、同じ岩石でも幅広い比抵抗値を示す。また、未固結層でも同様の理由から粗粒物質からなる砂礫は高比抵抗を示し、細粒物質からなる粘土やシルトでは間隙水(吸着水主体)を多く含むため低比抵抗を示す。地下水(重力水)は、割れ目帯や砂礫に相当する中〜高比抵抗で流動層を形成しやすい。
表2−6 一般的な地質と比抵坑の相関