(1)P1ピット(L1面,L=1.70m)

P1ピットは馬路町北方のL1面で掘削した。掘削方法はパーカッション式採土器を使用し,掘削深度は1.70mである。

a) 層相

P1ピットの地質は深度0.00〜0.13mが耕土,0.13〜1.70mがL1面(馬路)構成層からなる(図3−4−7)。L1面(馬路)構成層は中礫および大礫混じり中礫からなる。礫は亜角礫主体で,マトリックスは淘汰の悪い極粗粒砂からなる。深度0.47〜1.10mは大礫と大礫混じり中礫からなり,前後の地層に比べやや礫径が大きい。

b) 火山灰分析

P1ピットではL1面構成層で10cm毎に試料を採取し,火山灰分析を実施した(図3−4−7)。P1ピットの深度1.1〜1.3mではパミスタイプの火山ガラスが微量(0.1%以下)産出する。微量ではあるが,上下の層準に比べ明らかに多くふくまれ,このパミスタイプの火山ガラスの屈折率は1.502〜1.505である。またこの層準には下位には含まれない斜方輝石および緑色普通角閃石が微量含まれ,これらの斜方輝石の屈折率は1.703〜1.709(モード1.705〜1.707)で,角閃石の屈折率は1.671〜1.679(モード1.673〜1.675)である。また,これより下位の層準にはAT火山灰起源のバブルウォールタイプ火山ガラスを産出する。

AT火山灰より上位の層準で,近畿地方に屈折率1.703〜1.709の斜方輝石を降灰させる火山灰として,大山ホーキ火山灰が挙げられる。大山ホーキ火山灰の斜方輝石の屈折率は1.703〜1.707で,角閃石の屈折率は1.674〜1.678(町田・新井,2003)である。また,三瓶浮布火山灰の火山ガラスの屈折率は下部が1.504〜1.506,上部が1.500〜1.505である。

P1ピットの深度1.1〜1.3mに含まれる火山ガラス,火山灰起源の斜方輝石および角閃石の特徴は,大山ホーキ火山灰や三瓶浮布火山灰の特徴と類似しており,本層準に含まれる火山灰起源粒子は大山ホーキ火山灰か三瓶浮布火山灰のいずれかが起源であると考えられる。

P1ピットでは深度1.3mを約20,000〜21,000年前の三瓶浮布火山灰(SUk)の降灰層準と判断した。

なお,P1ピットでは全体にAT火山灰を含み,K−Ah火山灰は含まれない。広域火山灰であるAT火山灰とK−Ah火山灰は降灰後の再堆積により上位の地層に含まれやすいことから,P1ピットではAT火山灰以降,K−Ah火山灰以前の地層が分布すると推定される。