(1)反射面B−Dからの長期的な活動の推定

長期的な活動を推定するためには、長期的な年代値が判明した地層とその地層の変形・変位量が必要である。各地層の年代値を推定する手法として、火山灰分析および古地磁気測定および火山灰分析と反射断面に現れた特徴を手がかりに、以下で解析を行った。用いた年代解析の材料はデジタル値として示されたものではなく、相互の組み合わせ、仮定や推論によって導き出されるもので、確定的なものではない。今後、より検討されるべきもので,現時点での資料からの解釈であることをお断りする。ボーリング深度33m付近に約9.5万年前の鬼界葛原火山灰(K−Tz)が、深度110m付近に約33万年前の加久藤火山灰(Kkt)を確認した。それぞれの火山灰の産出層準が降灰層準に近いものと仮定すると、火山灰の降灰年代と深度から推定した堆積速度は0.33〜0.34m/千年程度が見込まれる。その堆積速度を用いると、深度118m付近の反射面B相当シルト−粘土は約36万年前と計算できる。一方、その層準の花粉分析結果では,大阪層群海成粘土Ma9上部との対比の可能性が明らかとなった.

亀岡盆地は京都盆地の北西に位置し、亀岡盆地の第四系の下位は大阪層群相当層が分布することは多くの文献(9)で既に報告されている。大阪層群は海面変動に支配された堆積物であり、亀岡盆地でも浸食基準面がその影響を受けていると考えられる。すなわち、高海面期に古大阪湾周辺では陸域の奥深くまで海が進入し、そこに海成粘土が堆積した。同時期の内陸の各河川では、浸食基準面が上昇し、山間の盆地でも相対的に細粒堆積物が堆積したと考えられる。亀岡盆地に海成粘土層の存在は知られていないが、京都盆地では大阪層群海成粘土が知られており、同時期の亀岡盆地では細粒堆積物の堆積が予想される。このような堆積環境の連動性や花粉分析などから、大阪層群との対比を行って、亀岡盆地に現れる大阪層群の同時期の堆積物を例えばMa9層相当層と呼んだ。Maの名称は海成堆積物の呼び名であることから、本文でMa9層相当層としたものを「大阪層群Ma9層堆積時と同時期の堆積物」と読みかえ、訂正する。

亀岡盆地は京都盆地北部の上流に桂川を通じて繋がっていることから、京都盆地北部と似た環境下での堆積が予想される。

京都盆地北部の地下構造については、P波探査で、複数の反射断面が得られている。そこでは、市内の鉾立公園でのボーリング(KD−1)調査で判った地層区分と反射面との対応から、大阪層群海成粘土Ma9,6,5,4,3に相当する長く連続する顕著な反射面を識別している(京都市,2000(40),2002a(41))。

亀岡盆地の浅部には、明瞭で長く連続する反射面Bがある。間隔を置いて、その下位に明瞭で複数の反射面C−Dが短い間隔で併走して、分布する。反射面の明瞭さや分布様式を指標にして、京都盆地北部の反射断面と重ねると、反射面BはMa9に、反射面C−DはMa6−3に対応する可能性が示唆される(図4−3−1)。京都市(2002b)(43)は海成粘土Ma9を約40万年前の地層としている。

反射面BはF1断層で約55m変位している。以上の検討から反射面B相当層の堆積年代を約36〜40万年前とすると、F1断層の長期的な上下平均変位速度は0.14m/千年程度の,B級下位と試算される(表4−3−1)。