(2)分析結果

(1)表示

試料はV層中・下部シルト−粘土から採取された6検体である(表3−6−1)。花粉分析の結果は表3−6−1に示す。解析を行うために同定・計数の結果にもとづいて、花粉化石組成図(図3−6−1)を作成した。

分析ではハンノキ属を非常に多く産出する試料がみられるので、各花粉・胞子化石の出現率は、以下のようにして算出する。木本花粉(Arboreal pollen)の場合はハンノキ属を除く木本花粉の合計個体数を、ハンノキ属と草本花粉(Non− arboreal pollen)とシダ・コケ植物胞子(Pteridophyta & Bryophyta spores)の場合は花粉・胞子の合計個体数をそれぞれ基数とした百分率である。図表において複数の種類をハイフン(−)で結んだものは、その間の区別が明確でないものである。

(2)産出花粉と組成及び対比

試料番号1,2,5,7はいずれも花粉化石の産出が非常に少なく、モミ属、ツガ属、ハンノキ属、シダ植物胞子などが僅かに産出するにすぎない。これらの花粉化石の産出が非常に少なく、植物環境を復元できなかった。

(a)試料番号9(深度116.4m,標高−20.8m)と試料番号11(深度117.1m,標高−21.3m)

両試料は共に、花粉化石を十分に同定・計数できた。花粉化石群集は比較的似ている。スギ属が卓越し、ブナ属、ニレ−ケヤキ属、コウヤマキ属を伴う。これより、温暖で湿潤な古環境が推定できる。

(b)対比

本分析の目的の一つに、大阪層群海成粘土Ma9との花粉組成の対比がある。試料9、11にはメタセコイア属を産出しない。この特徴はMa9を含む大阪層群上部であることを示している。Furutani(1989)(44)、市原編(1993)(45)、関西地盤情報活用協議会 (1998)(46)によれば、Ma9層における花粉化石群集の典型的な特徴は、上下の Ma10、Ma8の粘土層に比較し、アカガシ亜属の産出が明らかに多く卓越することである。これと比較すると、試料9、11の花粉化石群集はMa9層の典型的な特徴を示さない。他方、Ma9層の上部にスギ属の多産する花粉化石群集も認めている。京都市(2002)(47)が行った宇治川断層調査のボーリングNo3でMa9層の上部にあるWb亜帯は、スギ属の多産層準として識別される(図3−6−3)。本花粉化石群集はMa9の特徴であるアカガシ亜属の多産を示さないが、その上部のスギ属の多産層準に対比できる可能性が大きい。

(c)追加分析

追加分析を行った試料は深度117.45mの腐植質シルト質粘土である。花粉分析の結果は前回の分析結果に付加して作成した。

本試料の花粉化石群集は、スギ属が卓越して産出し、ブナ属、ニレ属−ケヤキ属、コウヤマキ属、コナラ亜属、アカガシ亜属などを伴う。上位のNo.9(深度116.4m)とNo.11試料(深度117.1m)と比較するとよく似た花粉化石群集であるが、スギ属がやや減少し、ブナ属が増加する。アカガシ亜属が僅かながらも増加する。No.11試料の堆積時期よりもやや暖かかったことによると考えられる。このようなことから、アカガシ亜属が卓越するMa9層の花粉化石群集の典型的な特徴を示さないものの、下に向かってアカガシ亜属が増加する傾向が認められるので、典型的な

Ma9層の花粉化石群集はこれよりもさらに下位に存在すると推定され、Ma9層の最上部と思われる。